*

『海街diary』男性向け女性映画?

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:ア行,

日本映画で人気の若い女優さんを4人も主役に揃えた作品。全然似てないキャスティングの4人姉妹の話を是枝裕和監督が演出する。この主役クラスの若い女優が揃っただけで、映画はヒットしてしまう。是枝作品の中で過去最大のヒット作だろう。客層はファミリーやカップル、女友達同士で来てるような老若男女問わずで大入り。とてもよろしい。

この映画の予告を観たとき、女性がたくさん出てくる映画なのに、まったく女性的な雰囲気が伝わって来ないのに違和感を感じた。この映画に出てくる女性は、男性目線からの女性像。若い美女が4人画面に収まるだけで、独特の緊張感と言うか、狂気なようなものを感じずには得ない。自分はこの違和感は何たるかを確かめたくて映画館に足を運んだ。ちょっとしたコワイもの見たさだ。女ばかりが集まると諍いが起こるのは普通。なのにここにでてくる女性達はみんな優しい。美女が集まれば独特の緊張感が発生するのは当然。もし女性が集まってもまったりした雰囲気ならば、もっとラフな状態になっているはず。この緊張感は、演出家がオジサンだからなのだと原因はハッキリしている。どんなに女優さん達がラフな姿を演じてみせても、この映像美を計算され尽くされた理屈っぽい堅苦しい画面では、女性的な要素はみんな死んでしまう。女性的な感性は、もっとルーズなところから伝わってくる。画面の向こうには女性ばかりが出ているのだが、ここにあるのは男の世界。あたかも萌えアニメの美少女像と同じようなもの。やっぱり女性を描くのであれば、女性監督が演出するべきだったんじゃないか?

男性ならばこの美人女優が揃っているだけで大満足だろう。ましてや映像はとてもキレイ。文句をつけにくい。でも果たして女性は同性としてこの映画に共感できるのだろうかとても気になってしまう。自分は男だからこの映画の女性達には誰一人共感できる要素はないわけだが、女性の観客も同じような感想だったらそれはとても問題。でも男目線で描かれているからこそ、女性映画にも関わらず男性客にも訴求しているのだから、一概に否定はできないし。

吉田秋生さんの漫画原作は、自分はちょろっとしか観ていないが、大まかなストーリーは同じだと思う。でもニュアンスが変わっているように思えてならない。原作の同じキャラクターは、この映画のような緊張感はまったく放っていない。自分が普段感じてる女性的な女性の感覚を見事に表現していると思う。同じ作品だけどまるきり別ものといっていいのだろう。映画には梅酒や、しらす料理やカレーライスなど美味しそうな食べ物がたくさん出てくる。女の人が生活するのにいちばん大切にするものだ。これは原作者が女性だから出てくるものだろう。要するに、等身大の女性像を描きたいのなら、セックスアピールを臭わせて欲しくないってこと。

フランソワ・オゾンやペドロ・アルモドバルのように男性なのに女性を描きたがる監督は多い。でも彼らはやはりみなキワものといっていいだろう。彼らの描く女性像は、女性監督が描くそれよりも赤裸裸な感じがする。この『海街diary』はカンヌにも招待されたらしいので、海外の人は一体どう感じたのか? まぁ「若くて綺麗な女の子が撮りたかったのね」ぐらいにしか感じないだろうけど。日本の萌えアニメのような、おっさんが描く女性像の妄想の具現化だろうと思えば、海外では今の日本のサブカルっぽくて理解しやすいだろう。雑誌の表紙で映画に出てくる縁側で、四姉妹の女優に囲まれた是枝監督の姿が、ちょっと痛々しく感じてしまう。

仲の良い四姉妹の話を描きたかったのだろうが、この四姉妹がうまくいっているのは、お互いが遠慮し合っているから。それが作品のテーマであるのならば問題ない。原作もこのニュアンスなのかは分からないが、もし映画だけがこの緊張感を伝えているならば、女優さん達が男性の監督に気を使っているのがそのまま映像に出てしまっているわけだから、作品としては失敗になる。

悪く書いているようだけど、それほど悪い映画とも言い切れない。映画を観て、久しぶりに鎌倉に行きたくなったし、魅力的な要素はたくさんある。なんとも不思議な映画である。これが今の日本の姿の象徴と言ってしまえばそれきりだけど。

関連記事

no image

『間宮兄弟』とインテリア

  江國香織さん原作の小説を、故・森田芳光監督で映画化された『間宮兄弟』。オタクの中

記事を読む

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』その扇動、のるかそるか?

『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ『ファンタスティック・ビースト』の第二弾。邦題は『黒

記事を読む

no image

『アバター』観客に甘い作品は、のびしろをくれない

ジェイムズ・キャメロン監督の世界的大ヒット作『アバター』。あんなにヒットしたのに、もう誰もそのタイト

記事を読む

『日本沈没(1973年)』 そして第2部が始まる

ゴールデンウィークの真っ只中、twitterのトレンドワードに『日本沈没』があがった。NHK

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『パンダコパンダ』自由と孤独を越えて

子どもたちが突然観たいと言い出した宮崎駿監督の過去作品『パンダコパンダ』。ジブリアニメが好きなウチの

記事を読む

『うる星やつら オンリー・ユー』 TOHOシネマズ新宿OPEN!!

TOHOシネマズ新宿が4月17日に オープンするということで。 都内では最大級のシネコン

記事を読む

no image

ある意味アグレッシブな子ども向け映画『河童のクゥと夏休み』

  アニメ映画『河童のクゥと夏休み』。 良い意味でクレイジーな子ども向けアニメ映画

記事を読む

『かもめ食堂』 クオリティ・オブ・ライフがファンタジーにならないために

2006年の日本映画で荻上直子監督作品『かもめ食堂』は、一時閉館する前の恵比寿ガーデンシネマ

記事を読む

『お嬢さん』 無国籍お耽美映画は解放へ向かう

韓国産の作風は、韓流ドラマのような甘ったるいものと、血みどろで殺伐とした映画と極端に分かれて

記事を読む

『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』 喪の仕事エンターテイメント

作品全体からなんとも言えない不安感が漂っている。不思議なエンタ

『映画大好きポンポさん』 いざ狂気と破滅の世界へ!

アニメーション映画『映画大好きポンポさん』。どう転んでも自分か

『ゴッドファーザー 最終章』 虚構と現実のファミリービジネス

昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の脚本家・三谷幸喜さん

『たちあがる女』 ひとりの行動が世界を変えるか?

人から勧められた映画『たちあがる女』。中年女性が平原で微笑むキ

『LAMB ラム』 愛情ってなんだ?

なんとも不穏な映画。アイスランドの映画の日本配給も珍しい。とに

→もっと見る

PAGE TOP ↑