*

『幕が上がる』覚悟の先にある楽しさ

公開日: : テレビ, メディア, 映画:マ行, , 音楽

幕が上がる

自分はアイドル文化や萌えとかよくわからない。だから『ももいろクローバーZ』の存在こそは知れども、自分の人生とはまったく関わりのないものなんだろうと決めつけていた。この映画『幕が上がる』は、かなりの評判を耳にしていた。ならばと疑いながら観てみると、アイドル映画であることを忘れるほど良い青春映画だった。

メガホンを取るのは本広克行監督。本広監督といえば『踊る大走査線』シリーズの監督さん。なんでも『踊る大走査線』以降は、思うような仕事に巡り会えず、監督業を引退しようかと思っていた矢先の『幕が上がる』の企画だったらしい。『踊る大走査線』と言えば日本映画の記録をつくったほどの国民的な人気シリーズ。その監督さんが仕事にあぶれてしまうのは夢も希望もないが、まあよく聞く話でもある。そんな本広監督の起死回生もかけた作品なのだろう。今回はあまり自分の色を押し出さない演出がまた良かった。冒頭霧笛の音から始まるのは相変わらずのこだわりだったけど。

作品自体は今までの本広作品同様、大手企業がこぞって協賛している。『ももクロ』主演の映画とあっては、経済効果を見込んで企業が動きやすいのは当然。そんな製作背景とは裏腹に、この映画はかなりストイックで硬派な青春映画になっている。これはひとえに原作の平田オリザさんの影響だろう。劇作家演出家である平田オリザさんの演劇論がまさに映画に現れている。

映画は弱小演劇部が、学生演劇の女王とよばれていた新人先生の影響を受けて、どんどん力をつけていく様子を、まじめな視点で描かれている。遊びの場面はあれど、最近の流れのおちゃらけはない。

正直、映画の冒頭はこの主人公たちに魅力を感じなかった。自分もアイドル映画に疑いがあったので、ナガラ観をしていたくらい。黒木華さん演じる元演劇の女王と呼ばれた新人先生が登場すると、それこそ映画が急に生き生きし始める。黒木華さんの等身大の女優の存在感が、そのままキャラクターの説得力になっている。演劇を教えてくれと詰め寄る生徒たちに「ダメだったから、いまここにいるんだよ」と断る先生の態度に共感してしまう。陽の目を見ることのない才能……。

先生のだすメソッドに沿って稽古を進めていくうちに力をつけていく部員たち。先生は「このまま全国大会に行けば、みんなの人生が変わってしまう。そこまで先生は責任取れない。どうする?」と投げかける。道を見つけるには努力は必要。道を進むには覚悟が必要。ここで言う人生とは、大学へ進学して大きな会社に就職すること。特別な仕事や天職に就く人は、たいてい10代で職業を選んでいる。普通の子が就活し始める頃には一人前になっているもの。10代の多感な時期に、プロになるためだけの勉強をすることの大切さ。そうなると、目標もなくただ進学するだけなら、人生にとってあまり意味はない。

自分も若い頃は小劇場で芝居をうっていた。その頃の感覚を思い出した。有名になりたいとか、金儲けがしたいなんて野暮な欲望はなかった。ただただ楽しかった。

この映画は、製作背景には商魂があるにもかかわらず、創作への純粋な気持ちが描かれている。日本の大手が絡む映画はつまらないという自分の偏見も壊してくれた。芝居をすることの楽しさ探求を、監督はじめ役者さんたちがそのまま体現していたのかもしれない。

映画では平田オリザさんの親戚でもある大林宣彦監督へのオマージュもある。大林監督作品と言えば、自分が10代の頃夢中になっていた監督さん。いま思えば彼の作品はみなアイドル映画。もし自分が10代でこの『幕が上がる』に出会っていたら、ヘビーローテションで観ていたことだろう。人生を変えてしまう映画になっていたかもしれない。

豊かな人生を迎えるには、はやいうちにカッコイイ大人と出逢えることは重要だ。自分が真剣に生きていれば、真剣な人間はすぐ見分けがつく。やっぱり道は自分で見つけなきゃいけない。

関連記事

『不屈の男 アンブロークン』昔の日本のアニメをみるような戦争映画

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが監督する戦争映画『アンブロークン』。日本公開前に、

記事を読む

『それでもボクはやってない』隠そうとしてもでてくるのが個性

満員電車で痴漢と疑われた男性が、駅のホームから飛び降りて逃走するというニュースが多発している

記事を読む

子ども目線は逆境を超える『崖の上のポニョ』

日中二歳の息子の子守りをすることになった。 『風立ちぬ』もBlu-rayになることだし

記事を読む

『ドラえもん のび太の宇宙英雄記』映画監督がロボットになる日

http://www.oricon.co.jp/news/2049911/full/[/capti

記事を読む

『2001年宇宙の旅』名作とヒット作は別モノ

https://ja.wikipedia.org[/caption] 映画『2001年宇宙の

記事を読む

『ゴーストバスターズ』ファミリー向け映画求む!

http://www.foodbeast.com/news/ghostbusters-stay-p

記事を読む

『赤ちゃん教育』涙もろくなったのは年齢のせいじゃない?

フランス文学の東大の先生・野崎歓氏が書いた育児エッセイ『赤ちゃん教育』。自分の子どもが赤ちゃ

記事を読む

911。アメリカの為の救済映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 』

9.11。アメリカ同時多発テロの日。 このテロのワールドトレードセンターで 父親を亡

記事を読む

風が吹くとき

『風が吹くとき』こうして戦争が始まる

レイモンド・ブリッグズの絵本が原作の映画『風が吹くとき』。レイモンド・ブリッグズといえば『さ

記事を読む

『エイリアン』とブラック企業

去る4月26日はなんでもエイリアンの日だったそうで。どうしてエイリアンの日だったかと調べてみ

記事を読む

『高慢と偏見(1995年)』婚活100年前、イギリスにて

ジェーン・オースティンの恋愛小説の古典『高慢と偏見』をイギリス

『メアリと魔女の花』制御できない力なんていらない

http://www.maryflower.jp/[/caption

『東京暮色』生まれてきた命、生まれてこなかった命

「東京暮色」4Kデジタル修復版 海外版ポスター (c)1957/20

『モモ』知恵の力はディストピアも越えていく

https://ja.wikipedia.org[/caption]

『アトミック・ブロンド』時代の転機をどう乗り越えるか

http://atomic-blonde.jp/[/caption]

→もっと見る

PAGE TOP ↑