*

『サウンド・オブ・ミュージック』 さらに高みを目指そう!

公開日: : 最終更新日:2021/10/30 映画:サ行, 音楽

先日行われた息子の幼稚園の発表会の演目は『サウンド・オブ・ミュージック』だった。自分が生まれる前の映画なのはもちろん、自分が最後に鑑賞したのも数十年前の10代の頃。「ずいぶん前に観たな〜」という印象。でもこの作品が有名すぎるのと、楽曲がCMなどに使われまくっているので、内容のほとんどは覚えていた。

所詮幼稚園の発表会だ。小さな子ども達が、決められた歌やセリフ、振りがよくできていれば十分なのだろうと、正直自分はあまり期待せずに観に行った。親としてはあまりにテンションの低い参座者だ。でもひとたび演技が始まると、『サウンド・オブ・ミュージック』の映画がみるみる思い出されていった。とかく幼稚園生くらいの発表会といえば、大声でがなりたててセリフも聞き取れないものが多い。まずセリフがちゃんと聞き取れて、歌にも抑揚が効いている。誰か一人が暴走するようなことがなく、芝居に調和がとれている。みんなが主役。表現とはこういうことだと親ながらに感心してしまった。

モデルでタレントの栗原類くんが、自身が発達障害だったことをカミングアウトした時の逸話で興味深いものがある。帰国子女の類くんが幼稚園時代、歌の授業でがなりたてて歌う子を、先生が「元気があってよろしい」と褒めるのが、とても嫌だったらしい。歌を歌うということは一つの表現だ。一人の子が、がなりたてて歌ってしまうと、他の子の声が聞こえなくなってしまう。それが基準となってしまえば、表現としてはめちゃくちゃになってしまう。抑揚をつけて、感情豊かに歌おうとしていた子たちの芽を摘んでしまうことにもなる。幼少期の類くんは、そこに理不尽さを感じたのだろう。まずは元気よく歌えることが大切だが、それができたら次の段階へ進まなければ、集団としての成長はない。

ウチの子どもたちはまだ『サウンド・オブ・ミュージック』を観たことがなかった。この映画はおじいちゃんのお気に入り。DVDを貸してくれた。それを大事そうに抱えている6歳児が微笑ましい。吹き替え版にての鑑賞。映画の音に合わせて息子が歌う。不思議なライブ感で楽しめた。

今回映画を観るにあたって知ったのは、『サウンド・オブ・ミュージック』は実話が元になっていたということ。舞台は第二次大戦直前のオーストリア。豪邸に住むトラップ大佐とその子どもたちの元へ、家庭教師としてマリアがやってくる。トラップ大佐はナチスドイツに毛嫌いしている。オーストリアとドイツの同盟が決まり、ナチスとして任務につくことを要請される。裕福な生活を捨ててでもスイスイに亡命することを選んでいく。もしこれが史実なら、トラップ大佐のモデルになった軍人は先見の明がある。

難癖をあえていうならば、トラップ大佐の人物像がイマイチ踏み込んでいなくて、感情移入しづらい。自分も最初に鑑賞した時は若かったので、「そんなもんか」と思っていたが、やっぱりそうでもなかった。肩書きこそは立派になったが、妻を亡くし戦争に携わってきた悲しみや、恋人に対する気持ちは、相変わらず理解しづらかった。

子どもたちはナチスドイツをまだ知らない。この後この軍人たちは世界中でひどいことをするんだよと説明した。トラップ大佐の長女のボーイフレンドは、ナチス党員。娘から「この人は無理やり兵隊にされたの?」と質問されたので、「いや、自分から入隊したと思うよ?」 子どもからすれば、自分から好んで戦争に行くなんて考えられない。「カッコイイと思ったのかもね」と言ったらショックを受けていた。「ナチスは日本にも酷いことしたの?」「う〜ん。残念ながら日本はドイツと仲間(同盟国)だったんだよ」と言うと、ダブルショックを受けていた。歴史を読み込んでいくのは難しい。

映画は楽しい楽曲と美しいロケーションで見どころいっぱい。誰もが名作と知っている作品を今更褒めるのも野暮。今のスピーディな演出ではなく、ゆっくりとした流れ。インターミッションなんて何事じゃ? そんな上映スタイルの違いも子どもたちには新鮮だ。

発表会での作品の原作を知る復習から始まって、戦争についてまで話が膨らんで行く。名作というものはのびしろが広いとつくづく思う。どうせ何かをするなら、発展していきそうなものを選んだほうがいい。幼稚園の発表会に『サウンド・オブ・ミュージック』が選ばれたことによって、子どもたちの視野が広がったのは、とても喜ばしいことだ。

関連記事

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』 戦場のセンチメンタル

アメリカの独立系映画スタジオ・A24の作品で、同社ではかつてないほどの制作費がかかっていると

記事を読む

『斉木楠雄のΨ難』生きづらさと早口と

ネット広告でやたらと『斉木楠雄のΨ難』というアニメを推してくる。Netflix独占で新シーズ

記事を読む

no image

どこへいった? スプラッターブーム!?『13日の金曜日』

  『13日の金曜日』というとキリストが 処刑された日として、キリスト教徒からは

記事を読む

『戦場のメリークリスマス』 摩訶不思議な戦争映画

1月17日が教授こと坂本龍一さんの誕生日。 1月18日はビートたけしこと北野武さんの誕生日

記事を読む

『わたしを離さないで』 自分だけ良ければいい世界

今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ原作の映画『わたしを離さないで』。ラブストーリ

記事を読む

『龍の歯医者』 坂の上のエヴァ

コロナ禍緊急事態宣言中、ゴールデンウィーク中の昼間、NHK総合でアニメ『龍の歯医者』が放送さ

記事を読む

『さよなら、人類』ショボくれたオジサンの試される映画

友人から勧められたスウェーデン映画『さよなら、人類』。そういえば以前、この映画のポスターを見

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『猿の惑星:新世紀』破滅への未来予測とユーモア

  2011年から始まった『猿の惑星』のリブートシリーズ第二弾にあたる『猿の惑星:新

記事を読む

『平家物語(アニメ)』 世間は硬派を求めてる

テレビアニメ『平家物語』の放送が終わった。昨年の秋にFOD独占で先行公開されていたアニメシリ

記事を読む

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

『僕らの世界が交わるまで』 自分の正しいは誰のもの

SNSで話題になっていた『僕らの世界が交わるまで』。ハートウォ

『アフリカン・カンフー・ナチス』 世界を股にかけた厨二病

2025年の今年は第二次世界大戦から終戦80周年で節目の年。そ

→もっと見る

PAGE TOP ↑