*

『レゴバットマン/ザ・ムービー』男のロマンという喜劇

公開日: : 最終更新日:2020/10/18 アニメ, 映画:ラ行

映画『レゴバットマン』が面白いという噂はずっと聞いていた。でもやっぱり子ども向けなので後回しになっていた。今年のハロウィンでウチの子たちが、ジョーカーとハーレクインのコスプレをやったのを機に、DCコミックのキャラクターがようやく我が家でも浸透し始めた。

自分はDCの実写映画は、『ワンダーウーマン』以外はあまりピンとこなかった。『ワンダーウーマン』は大好き。一応コスプレの予習として『スーサイド・スクワッド』もみんなで見直したけど、やっぱりついていけない。ジャレッド・レトのジョーカーとマーゴット・ロビーのハーレクインがサイコーな分、かなり残念。DC映画って暗過ぎて、シナリオがちゃんと整理されてない気がする。原作知ってる人だけしかわからないってのはマニアック過ぎる。

バットマンを扱った過去の映画も、自分にはピンとこないものばかりだった。あの名作と言われたクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』三部作も、自分は振り落とされてしまった。あまりに映画の展開のテンポが早すぎて、感情移入できないどころか状況把握できない。暗い場面も多いので、毎回睡魔との戦いだった。これがなんで人気があるのか、とうとう最後までわからずじまい。自分的には好きそうな世界観なので、ちょっと悔しかった。

だからこの『レゴバットマン』もあまり期待せずに子どもたちと観始めた。そしたらもう、冒頭から笑いっぱなし。こんなバットマンが観たかった!

日本語吹き替え版のバットマンの声は山ちゃんこと山寺宏一さん。ホントは高い声も出せるのに、ムリに低音ボイスを出してる感じがうまい。後でオリジナル英語版を観てみたら、意外とカッコよくて面白くない。吹き替え版の山ちゃんの方が、バカバカしくくだらなく演じてて、ダンゼン面白い。なんでもかんでも山ちゃんにキャスティングされてる感があるけど、山ちゃんの真価がハッキリ分かった。七色の声を持っているだけじゃなく、コメディセンスや表現の幅が圧倒的なのね。

この『レゴバットマン』を観ていると、なぜ今まで自分がバットマンを好きになれなかったのかだんだん分かってきた。バットマンことブルース・ウェインは、幼い頃目の前で両親を強盗に殺される。大富豪の御曹司だったウェインは、金にモノを言わせ自分自身で武器を作り、アーマードスーツを着込んで、悪に復讐し始める。バットマンと名乗って。

要するに、あまりに悲惨な経験をしてしまったがために心が病んで、閉じこもってしまった人。リッチだったから、正義の味方になって承認欲求を満たしてるけど、やっぱり人嫌い。ひとりぼっちで豪邸に閉篭もる。でも先代からの執事アルフレッドだけは除く。アルフレッドは忠実な部下であり、父親がわりでもある。

そんな心の病を背負ったバットマン。まさにダークナイト。こんな性格の暗いヤツ、好きになるのは難しい。悪役もみんな心が壊れてしまった人ばかりだし。

うつ病みたいなバットマンを、この『レゴバットマン』は、これでもかといじくりまわしている。いままでのバットマンの歪んだ正義感はそこにはなく、むしろ健全な精神状態へ彼を引き戻そうとするパワーがこちらの映画にはある。バットマン、幸せになって!

自分の世界に閉じ籠り、それを男のロマンと言い放つ。正義という自分だけの理屈で、なんの権限もないのに、誰かを裁く。……ん? これって日々ネットで正義を振りかざしている人たちに似てないか? 大富豪ではないけど、ネットはある。バットマンスーツはないけど、匿名アバターは持ってる。世界の正義を守るより、自分自身の人生を守る方が大事だぞ!

そんな誰もが陥りやすいダークサイドを正当化してるからこそ、バットマンは人気があるのか? だったら歪んでる。バットマンは、自分はまったく理解ができないダークヒーローだけど、これに共感できる人が多いというのは結構危うい。「これはヘンだよ」と笑い飛ばせるセンスは必要だ。バットマンはツッコミどころ満載。

「DCは暗い」とデッドプールもツッコミ入れてた。ディズニー・マーベルが成功したのは、明るいコメディに仕上げたから。ぴちぴちコスプレの大人が集まって、根暗に理屈をグチグチ言ってたって面白いわけがない。原作は所詮子ども向けのカートゥーン。笑いと背中合わせの幼稚な世界で、大真面目にやるなんてダサ過ぎる。どんどん暗い方へ向かっている現代、なにかを告発するわけでもないフィクションの世界で暗くなってはダメだ。ただただ病気になるだけ。

『レゴバットマン』では、DCコミックの悪役だけでなく、ワーナー映画に出てくる悪役が勢ぞろいする。これらの悪役たち、ウチの子たちは全部知ってる。これはおかしな英才教育になってしまったぞ。将来なんの役にも立たないダメ知識。そんなことに子どもたちの脳細胞を使わせてしまったことに、恥ずかしくなってしまった。

映画好きも男のロマン。やっぱりそんなものに固執するのはくだらない。自分のつまらぬこだわりに自分自身でツッコミながら笑って生きる余裕が必要だ。

今のバットマン役のベン・アフレックやスーパーマン役のヘンリー・カヴィルも降板したがってるらしい。DC映画は新しい視点を求められているのだろう。

もし『レゴバットマン』みたいな斬新な切り口で実写映画が作られたら、自分もバットマンを大好きになるんだけどなぁ……。

関連記事

no image

『うつヌケ』ゴーストの囁きに耳を傾けて

  春まっさかり。日々暖かくなってきて、気持ちがいい。でもこの春先の時季になると、ひ

記事を読む

『LAMB ラム』 愛情ってなんだ?

なんとも不穏な映画。アイスランドの映画の日本配給も珍しい。とにかくポスタービジュアルが奇妙。

記事を読む

『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件

菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないよ

記事を読む

『イノセンス』 女子が怒りだす草食系男子映画

押井守監督のアニメーション映画。 今も尚シリーズが続く『攻殻機動隊』の 続編にも関わらず

記事を読む

『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間

記事を読む

『アンブロークン 不屈の男』 昔の日本のアニメをみるような戦争映画

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが監督する戦争映画『アンブロークン』。日本公開前に、

記事を読む

no image

低予算か大作か?よくわからない映画『クロニクル』

  ダメダメ高校生三人組が、未知の物体と遭遇して 超能力を身につけるというSFもの

記事を読む

『落下の解剖学』 白黒つけたその後で

フランス映画の『落下の解剖学』が話題となった。一般の映画ファンも話題にしていたが、なにより海

記事を読む

『リトル・ダンサー』 何かになりたかった大人たち

2000年公開のイギリス映画『リトル・ダンサー』が、ここのところ話題になっている。4Kリマス

記事を読む

『Mr.インクレディブル』 好きな仕事に就くこと

今年続編が公開される予定のピクサー2004年の映画『Mr.インクレディブル』。もうあれから1

記事を読む

『侍タイムスリッパー』 日本映画の未来はいずこへ

昨年2024年の夏、自分のSNSは映画『侍タイムスリッパー』の

『ホットスポット』 特殊能力、だから何?

2025年1月、自分のSNSがテレビドラマ『ホットスポット』で

『チ。 ー地球の運動についてー』 夢に殉ずる夢をみる

マンガの『チ。』の存在を知ったのは、電車の吊り広告だった。『チ

『ブータン 山の教室』 世界一幸せな国から、ここではないどこかへ

世の中が殺伐としている。映画やアニメなどの創作作品も、エキセン

『関心領域』 怪物たちの宴、見ない聞かない絶対言わない

昨年のアカデミー賞の外国語映画部門で、国際長編映画優秀賞を獲っ

→もっと見る

PAGE TOP ↑