『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』 試されるロボット愛
Netflixで『機動戦士ガンダム』の新作がつくられた。『機動戦士ガンダム』といえば、自分たち中高年世代では、子どもの頃、観ていなければ話題についていけないほど人気のアニメ番組だった。小学生男子のほとんどが観ていた。その現象を作家の福井晴敏さんが、「ガンダムは義務教育の一環だった」と、半分シャレにならないようなことを真顔で言っていた。
ガンダムは、おじさんホイホイのコンテンツ。むしろ若い人は、こんな古い作品はよく知らない。今の子どもたち世代では、ガンダムはお父さんが観てるものと思っている。シリーズがたくさんありすぎて、どれから観ていいのかわからない。コアなファンが多くて、なんだかうんちくばかりで難しそう。たかがロボットアニメなのに、かなり敷居が高い。
客層がおじさんばかりに偏って、他の世代には浸透していかない。今なら他にいくらでも面白いアニメがある。わざわざ古い作品を追いかける必要もない。客層拡大の伸び悩みの壁は、制作者側の長年の課題でもある。そもそも同じタイトルの作品をつくり続けることに意味があるのか。
なんとなくガンダムシリーズは、昔からずっと人気があるような錯覚に陥る。でも自分の記憶では、90年代から2000年代の20年くらいは、ガンダムの作品の人気も廃れていたように感じる。自分も80年代後半からはすっかり飽きて、シリーズを追いかけていなかった。2000年代初頭に、会社でガンダムの話をする人がチラホラみえてきた。意外にも、理系の人より体育会系の人の方がガンダムを語っている。しかも詳しい。なんでもその頃、ガンダムのゲームが流行っていたとのこと。自分はゲームをやらないので、その路線からではさっぱりわからない。ゲームの人気から、ジワジワと新作アニメの人気も回復していったような気がする。
ハリウッドのレジェンダリー社が、ガンダムの実写化権を得たというニュースが流れてずいぶん時が経つ。今回のNetflix制作の、シリーズ最新作『復讐のレクイエム』は、その時沸いたハリウッド実写化のものとは別もののようだ。
『機動戦士ガンダム』を制作しているアニメスタジオ・サンライズのスタッフの方のインタビューで、興味深いものがあった。なんでもハリウッドでの実写化はかなり期待しているとのこと。日本国内では『ガンダム』はかなり有名だが、世界のマーケティング上では知る人しか知らない。マニアックなコアな作品とのこと。ハリウッドで映画化されることで、作品タイトルが今までとは比にならないほど有名になるとのこと。その流れで、原作となっている過去の日本のアニメを観てもらいたいというねらい。なんだか他力本願な感じがしてしまったが、実際日本の古いアニメの立ち位置など、その程度でしかないのかもしれない。なかなか自力で世界標準のエンターテイメントとして売り込んでいくことはできないのだろう。そこから国の経済力の限界も感じてしまう。
自分は当初、この『復讐のレクイエム』はほとんど期待していなかった。放送とともにネットのタイムラインが大騒ぎになったので、公開されたのを知ったくらい。そこまで評判なら、ちょっとだけ観てみるか。
ガンダムシリーズのCG作品はこれが初めてではない。日米合作とはいえ、アメリカ作品としての色合いが強い。別の国の視点で描かれる、同じ世界観。この違和感を楽しんでいこう。吹き替え版と英語版、どちらで観るか悩んだ。今回はオリジナルの英語版で観てみよう。どっぷり違和感に浸ってみる。
日本では到底不可能な、莫大な制作費がかかっている。映像が映画みたいに豪華。昔アニメで観ていたメカが、リアルにデザインし直されている。そのリアル感の塩梅が絶妙。ガンダムの世界では、人型ロボットのことをモビルスーツと呼称する。今回はあえてロボットと呼ぶことにする。巨大なロボット兵器が実在するかのような表現がすごい。ロボットアニメでは脇役だった戦車や戦闘機までカッコいい。ロボットアニメは、制作者のロボット愛が試される。どんなに面白いストーリーでも、ロボットアニメでロボットがカッコ悪いと評価はされない。逆に内容がつまらなくとも、ロボットがカッコ良ければ伝説の作品にも化けてしまう。一般性のないマニアックなオタク作品のジャンル化。とにかくビジュアル面では『復讐のレクイエム』は合格点。大満足。
『復讐のレクイエム』のプロットが斬新。ガンダムが主役なのに敵というのが良い。ガンダムは強いから面白い。バッタバッタと敵を倒していく姿が、かつてのシリーズでは快感だった。ガンダムはミリタリーアニメでもある。敵はモンスターや怪獣ではなく人間。もしもガンダムが敵だったら、こんなに怖いことはない。無敵のガンダムに追いかけらる。主人公たちはサバイブしながら戦っていく。どう考えても勝ち目のない戦い。ホラー映画のような怖さ。ガンダムがほとんど逆光からのシルエットで描かれる。目だけが暗闇で光る不気味さ。この感覚は、今までのシリーズにはなかった。
英語で観ていたせいもあって、自分がガンダムを観ていることを忘れていた。大衆性の高いハリウッド映画を観ている気分。ガンダムシリーズ特有の理屈っぽい会話劇はなく、アクションメインでグイグイみせてくる。その割り切りが世界標準。ガンダムシリーズの新作が出てくるたび、「今回は初めてシリーズを観る人でも大丈夫」と言われていても、ほとんどそんなことはなかった。もしかしたら『復讐のレクイエム』は、いちげんさんでも入っていけるシンプルな作品かもしれない。良くも悪くもガンダムの世界観は複雑すぎる。
ミリタリー作品は、平和だからこそ楽しめるジャンル。戦争が身近にあると、精神疾患を誘発しそう。戦争がファンタジーとして観れるということは、とても幸せなことなのだろう。戦争は嫌だけど戦争ごっこは好き。兵器は怖いけど、メカはカッコいい。男子が抱える矛盾の心理。自分が子どもの頃は、日本にもまだ戦争経験者が多かった。「ガンダムなんてけしからん」と言っているおじさんもいた。
『復讐のレクイエム』はとにかくロボットがカッコいい。英語の俳優たちも迫真の演技。でもなんだかCGの人間描写が物足りない。そこに限界を感じる。でもハリウッドのCGアニメで、キャラクターがいきいき動くアニメはたくさある。人物の動きの面白さの追求は、日本人よりも海外のアニメーターの方が得意だろう。『復讐のレクイエム』が面白かった自分は、ただのロボット好きだったからなのかもしれない。だとすれば、やっぱりガンダムというコンテンツは、一般性のないマニアックな作品の定番なのだろう。
『ガンダム』は、大昔の刷り込みにすがって、延々と続編がつくり続けられる伝統芸となってしまった。日本人は仕事が忙しすぎて、趣味ももてなくなってしまっている。そこには新しいものは生まれてこない。何度も何度も新たなクリエイターによって、刷新されるガンダムというモンスター。海外版のガンダムは、屁理屈ばかりの長台詞がなくなったけれど、やっぱりガンダムだった。それが良いとも悪いとも言えない。そもそもそれがガンダムだから。きっとガンダムのシリーズは、ひ孫の代まで続いているのだろう。そうなると追いかけていくのにも限界がある。今までのガンダムシリーズは、けして気軽に観れる作品ではなかった。これからはエンターテイメントが本来あるべき、気軽に観れる作品へと変遷していったらいいのに。まあ、敷居が高いのがガンダムらしいのか。
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