『ルパン三世 ルパンvs複製人間』カワイイものは好きですか?
先日『ルパン三世』の原作者であるモンキー・パンチさんが亡くなられた。平成が終わりに近づいて、昭和時代のアイコン的存在の人物たちが、急にこの世を去っていくような感じがする。なんだか本当に時代の流れというものはあるらしい。
そのモンキー・パンチさんの追悼番組として、日テレの『金曜ロードSHOW!』枠で、『ルパン三世』アニメ映画の第一弾である『ルパンvs複製人間』が放送された。
この映画は自分も小さい頃から何度も観ていた作品。身内の携わった作品とあって、なかなか触れずにいた。今回の放送で久々に観たら、やっぱりめちゃくちゃ面白い。かなりテンションがあがってしまった。
映画は40年以上前に製作されたものなのに、2019年の現代だからこそ、やっとしっくり理解できるSF作品になったのかもしれない。この古い映画に関しては、既に語り尽くされた感もある。それくらい愛され続けてきた作品なのだろう。
クローン技術やらAIやら、巨大な力による管理社会やらが当たり前のように登場する。まったく古さを感じさせないストーリー。先見の明がある。SF映画というものは、いかに説得力のある未来予知ができるかにかかっている。
『ルパン三世』という世界観を拝借して、映画はアニメというジャンルどころか、日本映画であることも飛び越えようとしている。ハナっから世界標準。世界に通用する映画を作る気満々だ。
今回テレビ放送したバージョンは、一昨年のリバイバル上映のためにリマスターされた最新版。しかも吉川惣司監督自ら監修している。
数年前、『金曜ロードSHOW!』で、初めてハイビジョン版の本作を観たとき、監督が「こんなキレイな自分の作品観たの初めてだよ。呼んでくれれば監修するのになあ」と言っていたので、晴れての究極版だ。このレストアされた高画質高音質は、まるで最新作を観ているような錯覚に陥った。古いアニメ技術が新しくみえる。 意図的にレトロを狙った新作のようだ。
『ルパン三世』の魅力といえば、大野雄二さんの有名な劇伴。とにかく音楽がカッコイイ。「時代の流行に流されない、ウェルメイドな作品を作りたかった」と吉川監督の言葉通り、この音楽も時代性を感じさせない要素となっている。CG全般になってしまった現代のアニメからすると、40年前の手描きアニメ技術は、時代が一回りして新鮮な感覚すらある。ただ、ギャグのセンスが昭和なのはご愛嬌。
この映画の中での登場人物たちは、敵も味方もみんなルパンのことが大好き。このホモソーシャルの世界観が、のちのアニメの流れを予感させる。冒頭からメカやミリタリー、美女のヌードと、男が好きなものが続々と登場する。むしろ女性の好みそうなものが、まったく登場しない。
今回は、小学生のうちの子どもたちと、放送をリアルタイムで鑑賞した。劇中、お色気場面が多いのだが、今観ると、そこで描かれているのは普通の恋人同士のやりとり。現代の妄想ばかりのアニメに比べると、極めて健全な描写に感じる。最近のアニメといえば、抑圧された悶々とした性描写ばかりが気になる。実は『ルパンvs複製人間』みたいなものなら、子どもが観ても問題ないような気すらしてしまう。普通の恋愛描写が貴重なのだ。自分たちだって、小さな子どもの頃にこの作品を観ている。大丈夫。エロチズムはあるけど、エロくない。
映画放送当日は、ツイッターでも『ルパンvs複製人間』がトレンド入りしたらしい。つぶやきの中に「もっと吉川惣司監督が評価されるべきだ」というものが散見した。残念ながら、センスが時代の先を進みすぎたのだろう。
『ルパン三世』といえば、本作と、宮崎駿監督の『カリオストロの城』がよく挙げられる。モンキー・パンチさんも言っているが、「『カリオストロ』は傑作だけど、僕のルパンじゃない」と。
ルパン三世は、犯罪の天才でサイコパスなところに魅力がある。平気で人を裏切ったり殺したりできる。宮崎監督のルパンは、心優しき大泥棒。犯罪者なのに心優しいという相反するアイデンティティ。それもキャラクターとして魅力がある。きっと宮崎監督は、世知辛い世の中だからこそ、エンターテイメントの世界ぐらいは、甘く優しい勧善懲悪な世界にしたかったのだろう。
ただその後に続く日本のエンタメ作品が、「いい人」や「美談」しかでてこなくなってしまったのがつまらない。現実逃避系ばかりで、みんな慰めて貰いたがってる。甘ったるすぎて具合悪くなっちゃうよ。
そんな世の流れで、本作のようなドライな世界観が受け入れられる筈もない。日本人はカワイイものが好き過ぎて、それ以外のものを排除してしまった。「ドライでカッコイイ」ってなにそれ食えるの?ぐらいの勢いだ。これじゃあ日本産のエンタメは世界に通用しない。日本中がみんな弱ってる。
だからこそ、今回の『ルパンvs複製人間』の放送が新鮮だった。これくらいクールな作品は、もうなかなか日本では生まれてこないだろう。自分はもう、うわべだけカワイイものや、優しいものばかり集まるものは辟易なのだけど、世のみんなは一体どう感じているのだろうか?
関連記事
-
-
『龍の歯医者』 坂の上のエヴァ
コロナ禍緊急事態宣言中、ゴールデンウィーク中の昼間、NHK総合でアニメ『龍の歯医者』が放送さ
-
-
『ベルリン・天使の詩』 憧れのドイツカルチャー
昨年倒産したフランス映画社の代表的な作品。 東西の壁がまだあった頃のドイツ。ヴィム・ヴェン
-
-
『この世界の片隅に』 逆境でも笑って生きていく勇気
小学生の頃、社会の日本近代史の授業で学校の先生が教えてくれた。「第二次大戦中は、今と教育が違
-
-
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 これぞうつ発生装置
90年代のテレビシリーズから 最近の『新劇場版』まで根強い人気が続く 『エヴァンゲリオン
-
-
『めぐり逢えたら』男脳女脳ってあるの?
1993年のアメリカ映画『めぐり逢えたら』。実は自分は今まで観たことがなかった。うちの奥さん
-
-
なぜ日本劇場未公開?『ヒックとドラゴン2』
とうとう日本では劇場公開はせず ビデオのみの発売となった 米ドリームワークス
-
-
『リアリティのダンス』ホドロフスキーとトラウマ
アレハンドロ・ホドロフスキーの23年ぶりの新作『リアリティのダンス』。ホドロフスキーと言えば
-
-
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』 言わぬが花というもので
大好きな映画『この世界の片隅に』の長尺版『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』。オリジナル
-
-
『きゃりーぱみゅぱみゅ』という国際現象
泣く子も黙るきゃりーぱみゅぱみゅさん。 ウチの子も大好き。 先日発売され
-
-
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』 サブカルの歴史的アイコン
1995年のテレビシリーズから始まり、 2007年から新スタートした『新劇場版』と 未だ
- PREV
- 『未来を花束にして』勝ち得たものの代償
- NEXT
- 『ボヘミアン・ラプソディ』 共感性と流行と