*

『ルパン三世 ルパンvs複製人間』カワイイものは好きですか?

公開日: : 最終更新日:2020/03/13 アニメ, 映画:ラ行, 音楽

先日『ルパン三世』の原作者であるモンキー・パンチさんが亡くなられた。平成が終わりに近づいて、昭和時代のアイコン的存在の人物たちが、急にこの世を去っていくような感じがする。なんだか本当に時代の流れというものはあるらしい。

そのモンキー・パンチさんの追悼番組として、日テレの『金曜ロードSHOW!』枠で、『ルパン三世』アニメ映画の第一弾である『ルパンvs複製人間』が放送された。

この映画は自分も小さい頃から何度も観ていた作品。身内の携わった作品とあって、なかなか触れずにいた。今回の放送で久々に観たら、やっぱりめちゃくちゃ面白い。かなりテンションがあがってしまった。

映画は40年以上前に製作されたものなのに、2019年の現代だからこそ、やっとしっくり理解できるSF作品になったのかもしれない。この古い映画に関しては、既に語り尽くされた感もある。それくらい愛され続けてきた作品なのだろう。

クローン技術やらAIやら、巨大な力による管理社会やらが当たり前のように登場する。まったく古さを感じさせないストーリー。先見の明がある。SF映画というものは、いかに説得力のある未来予知ができるかにかかっている。

『ルパン三世』という世界観を拝借して、映画はアニメというジャンルどころか、日本映画であることも飛び越えようとしている。ハナっから世界標準。世界に通用する映画を作る気満々だ。

今回テレビ放送したバージョンは、一昨年のリバイバル上映のためにリマスターされた最新版。しかも吉川惣司監督自ら監修している。

数年前、『金曜ロードSHOW!』で、初めてハイビジョン版の本作を観たとき、監督が「こんなキレイな自分の作品観たの初めてだよ。呼んでくれれば監修するのになあ」と言っていたので、晴れての究極版だ。このレストアされた高画質高音質は、まるで最新作を観ているような錯覚に陥った。古いアニメ技術が新しくみえる。 意図的にレトロを狙った新作のようだ。

『ルパン三世』の魅力といえば、大野雄二さんの有名な劇伴。とにかく音楽がカッコイイ。「時代の流行に流されない、ウェルメイドな作品を作りたかった」と吉川監督の言葉通り、この音楽も時代性を感じさせない要素となっている。CG全般になってしまった現代のアニメからすると、40年前の手描きアニメ技術は、時代が一回りして新鮮な感覚すらある。ただ、ギャグのセンスが昭和なのはご愛嬌。

この映画の中での登場人物たちは、敵も味方もみんなルパンのことが大好き。このホモソーシャルの世界観が、のちのアニメの流れを予感させる。冒頭からメカやミリタリー、美女のヌードと、男が好きなものが続々と登場する。むしろ女性の好みそうなものが、まったく登場しない。

今回は、小学生のうちの子どもたちと、放送をリアルタイムで鑑賞した。劇中、お色気場面が多いのだが、今観ると、そこで描かれているのは普通の恋人同士のやりとり。現代の妄想ばかりのアニメに比べると、極めて健全な描写に感じる。最近のアニメといえば、抑圧された悶々とした性描写ばかりが気になる。実は『ルパンvs複製人間』みたいなものなら、子どもが観ても問題ないような気すらしてしまう。普通の恋愛描写が貴重なのだ。自分たちだって、小さな子どもの頃にこの作品を観ている。大丈夫。エロチズムはあるけど、エロくない。

映画放送当日は、ツイッターでも『ルパンvs複製人間』がトレンド入りしたらしい。つぶやきの中に「もっと吉川惣司監督が評価されるべきだ」というものが散見した。残念ながら、センスが時代の先を進みすぎたのだろう。

『ルパン三世』といえば、本作と、宮崎駿監督の『カリオストロの城』がよく挙げられる。モンキー・パンチさんも言っているが、「『カリオストロ』は傑作だけど、僕のルパンじゃない」と。

ルパン三世は、犯罪の天才でサイコパスなところに魅力がある。平気で人を裏切ったり殺したりできる。宮崎監督のルパンは、心優しき大泥棒。犯罪者なのに心優しいという相反するアイデンティティ。それもキャラクターとして魅力がある。きっと宮崎監督は、世知辛い世の中だからこそ、エンターテイメントの世界ぐらいは、甘く優しい勧善懲悪な世界にしたかったのだろう。

ただその後に続く日本のエンタメ作品が、「いい人」や「美談」しかでてこなくなってしまったのがつまらない。現実逃避系ばかりで、みんな慰めて貰いたがってる。甘ったるすぎて具合悪くなっちゃうよ。

そんな世の流れで、本作のようなドライな世界観が受け入れられる筈もない。日本人はカワイイものが好き過ぎて、それ以外のものを排除してしまった。「ドライでカッコイイ」ってなにそれ食えるの?ぐらいの勢いだ。これじゃあ日本産のエンタメは世界に通用しない。日本中がみんな弱ってる。

だからこそ、今回の『ルパンvs複製人間』の放送が新鮮だった。これくらいクールな作品は、もうなかなか日本では生まれてこないだろう。自分はもう、うわべだけカワイイものや、優しいものばかり集まるものは辟易なのだけど、世のみんなは一体どう感じているのだろうか?

関連記事

『ゴールデンカムイ』 集え、奇人たちの宴ッ‼︎

『ゴールデンカムイ』の記事を書く前に大きな問題があった。作中でアイヌ文化を紹介している『ゴー

記事を読む

『アン・シャーリー』 相手の話を聴けるようになると

『赤毛のアン』がアニメ化リブートが始まった。今度は『アン・シャーリー』というタイトルになって

記事を読む

no image

『君の名は。』株式会社個人作家

  日本映画の興行収入の記録を塗り替えた大ヒット作『君の名は。』をやっと観た。実は自

記事を読む

『エターナルズ』 モヤモヤする啓蒙超大作娯楽映画

『アベンジャーズ エンドゲーム』で、一度物語に区切りをつけたディズニー・マーベルの連作シリー

記事を読む

『ツイスター』 エンタメが愛した数式

2024年の夏、前作から18年経ってシリーズ最新作『ツイスターズ』が発表された。そういえば前作の

記事を読む

『恋する惑星』 キッチュでポップが現実を超えていく

ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』を久しぶりに観た。1995年日本公開のこの映画。すでに

記事を読む

『誘拐アンナ』高級酒と記憶の美化

知人である佐藤懐智監督の『誘拐アンナ』。60年代のフランス映画のオマージュ・アニメーション。

記事を読む

no image

『SING』万人に響く魂(ソウル)!

「あー楽しかった!」 イルミネーション・エンターテイメントの新作『SING』鑑賞後、ウチの子たちが

記事を読む

『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』 25年経っても続く近未来

何でも今年は『攻殻機動隊』の25周年記念だそうです。 この1995年発表の押井守監督作

記事を読む

『茶の味』かつてオタクが優しかった頃

もうすぐ桜の季節。桜が出てくる作品で名作はたくさんある。でも桜ってどうしても死のメタファーと

記事を読む

『ケナは韓国が嫌いで』 幸せの青い鳥はどこ?

日本と韓国は似ているところが多い。反目しているような印象は、歴

『LAZARUS ラザロ』 The 外資系国産アニメ

この数年自分は、SNSでエンタメ情報を得ることが多くなってきた

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』 みんな良い人でいて欲しい

『牯嶺街少年殺人事件』という台湾映画が公開されたのは90年初期

『パスト ライブス 再会』 歩んだ道を確かめる

なんとも行間の多い映画。24年にわたる話を2時間弱で描いていく

『ロボット・ドリームズ』 幸せは執着を越えて

『ロボット・ドリームズ』というアニメがSNSで評判だった。フラ

→もっと見る

PAGE TOP ↑