*

『誘拐アンナ』高級酒と記憶の美化

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 アニメ, 映画:ヤ行, 映画館

 

知人である佐藤懐智監督の『誘拐アンナ』。60年代のフランス映画のオマージュ・アニメーション。佐藤懐智監督作品というと、社会風刺のピリリと辛い作風で、海外の映画賞を多数獲得している。

大手商業映画となると、どうしても金儲けがメインとなってしまうので、社会風刺ネタの企画などはなかなか通ることはない。保守的な日本のメディアなら尚のこと。むしろ『シン・ゴジラ』みたいな社会風刺SFの企画が通って、ヒットすることが意外だった。というか企業は社会風刺的なものを嫌うが、観客はガス抜きを求めている。要は作り手の勇気や覚悟の問題だ。

個性というものは、隠そうとしても自然と出てくるもの。クリエイターの方に「ご無沙汰です」と挨拶したときに、あれ?となることがある。そんなとき、大抵は近々にその人作ったの作品を観たばかりだったりするものだ。

どんなに作風を変えてみても、作者の顔が見えてくる。それは作者と作品に力があることなのだと感じる。

今回の『誘拐アンナ』は、佐藤懐智監督の特有の社会風刺の作風はあえてしていない。60年代の退廃的なフランス映画へのオマージュに徹する。いわば甘い思い出に浸るかのよう。

でも誤解するなかれ。『誘拐アンナ』が、間口の広い口当たりのいい作品だと油断していると、どーんと後から深い酔いに襲われる。いつのまにか鈍いボディブローが効いていたのだ。この短編映画は、甘口だけど、度数の高い高級酒みたいなもの。あたりは柔らかいけど、やはりピリリと辛い。

オマージュ作品というものは不思議だ。その元ネタを知らない人が、そのルーツを遡って観直してみると、ガッカリすることがある。その元ネタの方が雑な作りで、いま観ると稚拙すぎたりするものだ。ただその年代その時代にその作品に出会った人の衝撃の記憶が壮大に膨らんでしまっているのだろう。その鮮烈にインスパイアされた作品が、さらに洗練されていく。思い出の美化。人の記憶なんていい加減。明らかに元ネタを凌駕してる。

作品とは影響を受けあって、どんどん良質なものへと変遷していく。オマージュとパクリの区別がつかない人がいるが、前者は元ネタに敬意があり、後者はただイタダイタだけ。そこに愛があるかないかの問題。そんなの見分けがつかないよとなりがちだが、要はその作品に触れたあと、いい気分になるかイヤな気分になるか、自身の胸に手を当ててみれば自然とわかる。

作中で登場人物たちは、独自の恋愛論を語っている。それを楽しむか、真に受けるのかも、観客に委ねられる。だってこれは論文ではないから。作者がどこまで本気なのか、そもそも架空の存在である登場人物でさえ、本心を語っているとは限らない。作中の言葉遊びにのせられて、オシャレな恋愛気分にフワフワさせられる。

フィクションやファンタジーの姿を借りて、現実をケムに巻く知的なゲームが行われている。それは登場人物のアンナと教授の駆け引きなのか、作家と観客の駆け引きなのかはわからない。わからなくたっていい。

今回の『誘拐アンナ』は、ルーツになる作品のひとつ『あの胸にもういちど』のリバイバルとカップリングで、渋谷ヒューマントラストで上映された。佐藤懐智監督の社会風刺が効いた過去作は、海外でたくさんの受賞をしているけれど、日本であまり紹介されていない。やっぱり社会風刺は国内では難しいのだろうか。表層がマイルドだと、国内配給がしやすいのも皮肉だ。

大御所のアニメ関係者が続々と業界から撤退している。採算が合わないのだろう。「アニメ作品はこれで最後になるかも?」と懐智監督もチラリと言っていた。

『誘拐アンナ』は水彩画タッチの実験的な映像で製作されている。アニメなら国籍もジャンルも越えられるような気がするが、現代のアニメ事情はどうも違うらしい。アニメといえば日本。日本アニメといえば萌え。そんなイメージに固執し始めているのだろう。

そうなるとアニメーションというジャンルの客層は絞られ、閉鎖的なメディアの象徴となってしまう。それはアニメ業界が自ら選んでいった道なのだから、ある意味仕方がない。アニメという表現は、新しいことやカッコいいことを追求するジャンルではなくなってしまった。アーティストには不向きだ。

果たしてこれから表現と商業芸術の行方は、どのようになっていくのだろうか。新ジャンルの誕生に期待する。

関連記事

no image

『ベイマックス』涙なんて明るく吹き飛ばせ!!

お正月に観るにふさわしい 明るく楽しい映画『ベイマックス』。 日本での宣伝のされかた

記事を読む

no image

戦争は嫌い。でも戦争ごっこは好き!! 『THE NEXT GENERATION パトレイバー』

  1980年代にマンガを始めOVA、 テレビシリーズ、劇場版と メディアミック

記事を読む

no image

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』そこに自己治癒力はあるのか?

自分はどストライクのガンダム世代。作家の福井晴敏さんの言葉にもあるが、あの頃の小学生男子にとってガン

記事を読む

no image

『名探偵ホームズ』ストーリー以外の魅力とは?

  最近、ジブリ作品が好きな自分の子どもと一緒に『名探偵ホームズ』を観た。 か

記事を読む

no image

『君の名は。』株式会社個人作家

  日本映画の興行収入の記録を塗り替えた大ヒット作『君の名は。』をやっと観た。実は自

記事を読む

no image

『反社会学講座』萌えアニメも日本を救う!?

  まじめなことにユーモアをもって切り込んでいくのは大切なことだ。パオロ・マッツァリ

記事を読む

no image

『スターウォーズ展』新作公開というお祭り

  いよいよ『スターウォーズ』の新作公開まで一週間! 街に出れば、どこもかしこもスタ

記事を読む

no image

『シン・ゴジラ』まだ日本(映画)も捨てたもんじゃない!

映画公開前、ほとんどの人がこの映画『シン・ゴジラ』に興味がわかなかったはず。かく言う自分もこの作品は

記事を読む

no image

『パシフィック・リム』は日本サブカルの世界進出への架け橋となるか!?

  『ゴジラ』ハリウッドリメイク版や、 トム・クルーズ主演の 『オール・ユー・ニ

記事を読む

no image

ホントは怖い『墓場鬼太郎』

  2010年のNHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』で 水木しげる氏の世界観も

記事を読む

no image
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』考えずに依存ばかりしてると

クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・

no image
『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。

no image
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』子どもとオトナコドモ

小学二年生の息子が「キング・オブ・モンスターズが観たい」と、劇場公開時

no image
『しあわせはどこにある』おじさんが旅に出る理由

サイモン・ペッグが観たい! ハリウッドのヒットメーカーであるJ.J.

no image
『スター・ウォーズ/スカイ・ウォーカーの夜明け』映画の終焉と未来

『スターウォーズ』が終わってしまった! シリーズ第1作が公開され

→もっと見る

PAGE TOP ↑