*

『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

公開日: : 最終更新日:2021/02/28 アニメ, 映画:カ行, 映画館, , 音楽

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間で『鬼滅の刃』というアニメが流行っているという話を聞いた。我が家の子どもたちに聞いてみると、その人気はすごいとのこと。最初は子どもたちの付き合いで観始めたこの作品、いつしか親のこちらの方が夢中になっていた。

とにかく第一話からのクオリティの高さに驚く。LiSAさんが歌う主題歌『紅蓮花』は、外で耳慣れており、まさかこのアニメの主題歌だとは知らなかった。いつしか知らないうちにマンガ原作全巻が、我が家のリビングにそろっていた。家族みんながこの作品のファンになった。

テレビアニメ版は原作の最初の方で終わっている。まだまだ映像化されていないエピソードが山積み。テレビシリーズの続きが、映画になって戻ってくる。観ないわけにはいかないけど、コロナの状況も心配だ。

コロナ禍の自粛時に、この『鬼滅の刃』と出会った人も多いだろう。普段はエンターテイメント作品などゆっくり観ることもない人が、なんとなく配信で観たのではないだろうか。コロナ禍でかえって盛り上がった、数少ない産業かもしれない。

今年は何もかもが狂ってしまった。街に繰り出すのもままならない。生活様式もすっかり変わった。外出しないでも楽しめることはないか誰もが模索していた。

日本ではこのコロナ禍の真っ只でも、「GO TOキャンペーン」で、政府は外出することを勧めている。「STAY HOME」と言ったり「GO TO」と言ったり、我々国民はいったいどうしたらいいの? 欧米では再びロックダウンになるかもと言われている。でもこの「GO TOキャンペーン」のおかげで、日本人がコロナを過剰に怖がらなくなってきたのは確か。

10月16日の金曜日。ふらっとショッピングモールに買い物に行った。いつもよりも人が多い。平日なのにおかしいなと思った。映画館の前を通ったら、信じられないくらいの混雑ぶり。今日は映画『鬼滅の刃』の公開初日。まさかとは思ったが、ショッピングモールに来ている人のほとんどが、この映画の観客のようだ。

どこのシネコンでも、所有のホールのほとんどを『鬼滅の刃』の上映にあてがっている。コロナ禍の影響で、ハリウッド映画の新作が止まっている。競合作品がなかったのも味方した。あらかじめ大ヒット間違いなしと確約された『鬼滅の刃』だったが、ここまで人が集まるとは思いもしなかった。つい先日までの映画館は、お客さんよりスタッフさんの方が多いんじゃないかと思うほど、閑古鳥が鳴いていた。

果たして公開週の休日に、家族そろってこの映画を観ることができるだろうか? チケット争奪戦は予想ができた。用心して3日前からのネット予約。すんなりチケットを取れてしまった我が家では、世間の熱量など知る由もなかった。なんでも映画館のホームページのサーバーがパンクしてたとか。

アニメ映画の劇場での鑑賞はいささか心配。観客のマナーの悪さがいつも気になる。子ども向け作品はとくに最悪。上映開始してもいつまでも大声で喋っていたり、ジュースやポップコーンをぶちまけて知らんぷりしていたり。しかもそれらは子どもたちがしでかすのではなく、親たち大人たちの仕業。子どもたちは緊張もあってか、みな静か。

『鬼滅の刃』は怖い描写もあるので、PG12のレーティングがかかっている。お客さんには親子同伴の小学生の子も多い。でも大人だけで来ている人も多い。子どもから老人まで、なんて客層の広い映画なんだ。最前列まで埋まった満員の映画館。映画が始まると、観客一同でクスクス笑ったり泣いたりする。とても楽しいひととき。エンドロールになっても誰も席を立たたない。みな主題歌『炎』を聴いて、余韻に浸ってる。

誰もがこの映画が観たいのだ! アニメ映画の親世代のマナーの悪さは、観たくもないつまらない映画に付き合わされている、家族サービスの苦痛の現れだ。家族そろって熱く語れるコンテンツなんて、そうそうあり得ない。子どもたちは、自分と一緒になって映画を楽しんでる親たちの姿を忘れない。吾峠呼世晴先生、あなたはとんでもない作品を生み出してしまいましたよ!

『鬼滅の刃』は、クリストファー・ノーランやJ.K.ローリングの強い影響を受けている。原作者の吾峠さんは平沢進さんのファンらしいし、なんだか趣味が合いそう。

テレビシリーズ時代から、原作に忠実な映像化。アニメ化での改変は、媒体の違いから取捨選択されたもの。練りに練られた演出。あらかじめ原作を知ってる人でも新たな感動がる。もうね、顔からいろんな汁が出てマスクはびちゃびちゃ。替えのマスクは必要。

演出技術や音響、声優さんたちの演技が鬼気迫る。原作を知らずに観た人は、呆然とする情報量だと思う。まったくの初見の衝撃を体感した人が、ちょっとうらやましい。

スタジオジブリ作品では、配役に声優さんを起用せず、劇映画に出る俳優さんがキャスティングされている。アニメ的な演技をして欲しくないという演出意図。自分もアニメのキンキン声は苦手。でも『鬼滅』を観て、声優さんたちの演技の凄さを知った。声だけで表現している人たちの力はハンパない。

今回の映画版は、主人公炭治郎の剣士の先輩・煉獄さんがメイン。親や家族を鬼に殺された子どもたちが「鬼殺隊」の剣士になる架空の大正時代。この煉獄さんは、代々剣士の家系で超エリート。快活な煉獄さんも、内心ではずっと親の評価を気にしていて生きている。本人は優秀なのに、親の顔色を伺う癖がついている。ずっと自信がないのが切ない。英雄というものは常に孤独だ。

『鬼滅の刃』アニメ化は、最初から潤沢な資金の元で製作されている。この作品は海外出資で製作されていると睨んでいる。日本のアニメ事情は貧困そのもの。出資者は、絶対に儲かる保証がなければ金は出さない。仮に金がおりても、金を出したからには口も出す。いつしかクリエーターの初期の構想は掻き消え、出資者がわかるもの好きなものにアイデアは偏向していく。そんなこんなで完成した作品は、以前ヒットした作品のモノマネみたいなものに仕上がっていく。厳しい言い方をすれば、『エヴァンゲリオン』とスタジオジブリの焼き直しをつづけた日本アニメ界の20年。いま『鬼滅の刃』が、ありそうでなかった新しい切り口で世に受け入れられた。

ジェンダーや多様性についての問題意識が作品の根底から感じられる。女性蔑視が横行する日本アニメの時代は、もう終焉を迎えるべき。老若男女から受け入れられるのは、ものすごい気遣いが向けられているから。これからも『鬼滅の刃』は、そこからブレることはないだろう。

数年前ヒットした恋愛アニメは、自分は生理的に苦手だった。どこもかしこもそのアニメの宣伝になっているのが苦痛だった。いまや日本では、どこをみても『鬼滅の刃』になってしまった。『鬼滅』アレルギーの人にはかなり辛そう。しかもこのブーム、あと数年は続きそう。

日本映画の記録に残る初動興行収入。映画業界が世界的にストップしたいま、世界で最も観客の入っている映画。コロナ禍が追い風となった映画。でもこれは国内完結型の興行として成功したに過ぎない。問題はこの作品が世界で受け入れられるかどうか。国内だけの人気なら、正直言って村の小学校のクラスの人気者と同じようなローカルな話。世界の作品評価のこれからの動向が気にかかる。アジアはともかく、欧米人は暗い話が嫌いだから。『無限列車編』は、来年世界公開されるらしい。

もしこのまま、「GO TO」や『鬼滅』で無事にクラスターも起こらなければ、コロナ禍ってなんだったんだろうとなる。世界からみたら、これも狂気。果たして結果はどう出るか?

『鬼滅の刃』大ヒットから、なんだか街に繰り出す人が増えたような気がする。一本の映画が一つの国の雰囲気を変えてしまう。それくらいの力は映画にはある。コロナで疲弊しきった世の中に、景気のいい流れを生んでくれた。『鬼滅の刃』恐るべし!

まぁ、とりあえず長いものに巻かれちゃって、しばらく踊らされてしまいましょう。
「心を燃やせ‼︎」と。

鬼滅の刃

関連記事

『怪物』 現実見当力を研ぎ澄ませ‼︎

是枝裕和監督の最新作『怪物』。その映画の音楽は坂本龍一さんが担当している。自分は小学生の頃か

記事を読む

『カメラを止めるな!』虚構と現実、貧しさと豊かさ

春先に日テレ『金曜ロードSHOW!』枠で放送された『カメラを止めるな!』をやっと観た。ずいぶ

記事を読む

『きっと、うまくいく』 愚か者と天才の孤独

恵比寿にTSUTAYAがまだあった頃、そちらに所用があるときはよくその店を散策していた。一頭

記事を読む

no image

『境界のRINNE』やっぱり昔の漫画家はていねい

  ウチでは小さな子がいるので Eテレがかかっていることが多い。 でも土日の夕方

記事を読む

『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』 ファンタジーみたいな旅の夢

近年の映画の予告編は、映画選びにちっとも役立たない。この『ダンジョンズ&ドラゴンズ』も、まっ

記事を読む

『イニシェリン島の精霊』 人間関係の適切な距離感とは?

『イニシェリン島の精霊』という映画が、自分のSNSで話題になっていた。中年男性の友人同士、突

記事を読む

no image

現代のプリンセスはタイヘン!!『魔法にかけられて』

  先日テレビで放送していた『魔法にかけられて』。 ディズニーが自社のプリンセスも

記事を読む

『うる星やつら 完結編』 非モテ男のとほほな詭弁

2022年の元日に『うる星やつら』のアニメのリメイク版制作の発表があった。主人公のラムが鬼族

記事を読む

no image

『虹色のトロツキー』男社会だと戦が始まる

  アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGINE』を観た後、作者安彦良和氏の作品

記事を読む

no image

太宰治が放つ、なりすましブログのさきがけ『女生徒』

  第二次大戦前に書かれたこの小説。 太宰治が、女の子が好きで好きで、 もう

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑