『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?
『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間で『鬼滅の刃』というアニメが流行っているという話を聞いた。我が家の子どもたちに聞いてみると、その人気はすごいとのこと。最初は子どもたちの付き合いで観始めたこの作品、いつしか親のこちらの方が夢中になっていた。
とにかく第一話からのクオリティの高さに驚く。LiSAさんが歌う主題歌『紅蓮花』は、外で耳慣れており、まさかこのアニメの主題歌だとは知らなかった。いつしか知らないうちにマンガ原作全巻が、我が家のリビングにそろっていた。家族みんながこの作品のファンになった。
テレビアニメ版は原作の最初の方で終わっている。まだまだ映像化されていないエピソードが山積み。テレビシリーズの続きが、映画になって戻ってくる。観ないわけにはいかないけど、コロナの状況も心配だ。
コロナ禍の自粛時に、この『鬼滅の刃』と出会った人も多いだろう。普段はエンターテイメント作品などゆっくり観ることもない人が、なんとなく配信で観たのではないだろうか。コロナ禍でかえって盛り上がった、数少ない産業かもしれない。
今年は何もかもが狂ってしまった。街に繰り出すのもままならない。生活様式もすっかり変わった。外出しないでも楽しめることはないか誰もが模索していた。
日本ではこのコロナ禍の真っ只でも、「GO TOキャンペーン」で、政府は外出することを勧めている。「STAY HOME」と言ったり「GO TO」と言ったり、我々国民はいったいどうしたらいいの? 欧米では再びロックダウンになるかもと言われている。でもこの「GO TOキャンペーン」のおかげで、日本人がコロナを過剰に怖がらなくなってきたのは確か。
10月16日の金曜日。ふらっとショッピングモールに買い物に行った。いつもよりも人が多い。平日なのにおかしいなと思った。映画館の前を通ったら、信じられないくらいの混雑ぶり。今日は映画『鬼滅の刃』の公開初日。まさかとは思ったが、ショッピングモールに来ている人のほとんどが、この映画の観客のようだ。
どこのシネコンでも、所有のホールのほとんどを『鬼滅の刃』の上映にあてがっている。コロナ禍の影響で、ハリウッド映画の新作が止まっている。競合作品がなかったのも味方した。あらかじめ大ヒット間違いなしと確約された『鬼滅の刃』だったが、ここまで人が集まるとは思いもしなかった。つい先日までの映画館は、お客さんよりスタッフさんの方が多いんじゃないかと思うほど、閑古鳥が鳴いていた。
果たして公開週の休日に、家族そろってこの映画を観ることができるだろうか? チケット争奪戦は予想ができた。用心して3日前からのネット予約。すんなりチケットを取れてしまった我が家では、世間の熱量など知る由もなかった。なんでも映画館のホームページのサーバーがパンクしてたとか。
アニメ映画の劇場での鑑賞はいささか心配。観客のマナーの悪さがいつも気になる。子ども向け作品はとくに最悪。上映開始してもいつまでも大声で喋っていたり、ジュースやポップコーンをぶちまけて知らんぷりしていたり。しかもそれらは子どもたちがしでかすのではなく、親たち大人たちの仕業。子どもたちは緊張もあってか、みな静か。
『鬼滅の刃』は怖い描写もあるので、PG12のレーティングがかかっている。お客さんには親子同伴の小学生の子も多い。でも大人だけで来ている人も多い。子どもから老人まで、なんて客層の広い映画なんだ。最前列まで埋まった満員の映画館。映画が始まると、観客一同でクスクス笑ったり泣いたりする。とても楽しいひととき。エンドロールになっても誰も席を立たたない。みな主題歌『炎』を聴いて、余韻に浸ってる。
誰もがこの映画が観たいのだ! アニメ映画の親世代のマナーの悪さは、観たくもないつまらない映画に付き合わされている、家族サービスの苦痛の現れだ。家族そろって熱く語れるコンテンツなんて、そうそうあり得ない。子どもたちは、自分と一緒になって映画を楽しんでる親たちの姿を忘れない。吾峠呼世晴先生、あなたはとんでもない作品を生み出してしまいましたよ!
『鬼滅の刃』は、クリストファー・ノーランやJ.K.ローリングの強い影響を受けている。原作者の吾峠さんは平沢進さんのファンらしいし、なんだか趣味が合いそう。
テレビシリーズ時代から、原作に忠実な映像化。アニメ化での改変は、媒体の違いから取捨選択されたもの。練りに練られた演出。あらかじめ原作を知ってる人でも新たな感動がる。もうね、顔からいろんな汁が出てマスクはびちゃびちゃ。替えのマスクは必要。
演出技術や音響、声優さんたちの演技が鬼気迫る。原作を知らずに観た人は、呆然とする情報量だと思う。まったくの初見の衝撃を体感した人が、ちょっとうらやましい。
スタジオジブリ作品では、配役に声優さんを起用せず、劇映画に出る俳優さんがキャスティングされている。アニメ的な演技をして欲しくないという演出意図。自分もアニメのキンキン声は苦手。でも『鬼滅』を観て、声優さんたちの演技の凄さを知った。声だけで表現している人たちの力はハンパない。
今回の映画版は、主人公炭治郎の剣士の先輩・煉獄さんがメイン。親や家族を鬼に殺された子どもたちが「鬼殺隊」の剣士になる架空の大正時代。この煉獄さんは、代々剣士の家系で超エリート。快活な煉獄さんも、内心ではずっと親の評価を気にしていて生きている。本人は優秀なのに、親の顔色を伺う癖がついている。ずっと自信がないのが切ない。英雄というものは常に孤独だ。
『鬼滅の刃』アニメ化は、最初から潤沢な資金の元で製作されている。この作品は海外出資で製作されていると睨んでいる。日本のアニメ事情は貧困そのもの。出資者は、絶対に儲かる保証がなければ金は出さない。仮に金がおりても、金を出したからには口も出す。いつしかクリエーターの初期の構想は掻き消え、出資者がわかるもの好きなものにアイデアは偏向していく。そんなこんなで完成した作品は、以前ヒットした作品のモノマネみたいなものに仕上がっていく。厳しい言い方をすれば、『エヴァンゲリオン』とスタジオジブリの焼き直しをつづけた日本アニメ界の20年。いま『鬼滅の刃』が、ありそうでなかった新しい切り口で世に受け入れられた。
ジェンダーや多様性についての問題意識が作品の根底から感じられる。女性蔑視が横行する日本アニメの時代は、もう終焉を迎えるべき。老若男女から受け入れられるのは、ものすごい気遣いが向けられているから。これからも『鬼滅の刃』は、そこからブレることはないだろう。
数年前ヒットした恋愛アニメは、自分は生理的に苦手だった。どこもかしこもそのアニメの宣伝になっているのが苦痛だった。いまや日本では、どこをみても『鬼滅の刃』になってしまった。『鬼滅』アレルギーの人にはかなり辛そう。しかもこのブーム、あと数年は続きそう。
日本映画の記録に残る初動興行収入。映画業界が世界的にストップしたいま、世界で最も観客の入っている映画。コロナ禍が追い風となった映画。でもこれは国内完結型の興行として成功したに過ぎない。問題はこの作品が世界で受け入れられるかどうか。国内だけの人気なら、正直言って村の小学校のクラスの人気者と同じようなローカルな話。世界の作品評価のこれからの動向が気にかかる。アジアはともかく、欧米人は暗い話が嫌いだから。『無限列車編』は、来年世界公開されるらしい。
もしこのまま、「GO TO」や『鬼滅』で無事にクラスターも起こらなければ、コロナ禍ってなんだったんだろうとなる。世界からみたら、これも狂気。果たして結果はどう出るか?
『鬼滅の刃』大ヒットから、なんだか街に繰り出す人が増えたような気がする。一本の映画が一つの国の雰囲気を変えてしまう。それくらいの力は映画にはある。コロナで疲弊しきった世の中に、景気のいい流れを生んでくれた。『鬼滅の刃』恐るべし!
まぁ、とりあえず長いものに巻かれちゃって、しばらく踊らされてしまいましょう。
「心を燃やせ‼︎」と。
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