『エターナルズ』 モヤモヤする啓蒙超大作娯楽映画

『アベンジャーズ エンドゲーム』で、一度物語に区切りをつけたディズニー・マーベルの連作シリーズMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)。その後日談がコロナ禍を経て始まりつつある。正直、まだ終わらないのねと少々呆れ気味な自分もいる。鉄は熱いうちに打て。人気があるシリーズの記憶が薄れていく前に、続編をスタートさせた方がマーケティングとしては正しい。
『エターナルズ』は、『ノマドランド』のアカデミー受賞も記憶に新しいクロエ・ジャオ監督のマーベル初参加作品。社会派の『ノマドランド』とマーベルとは世界観がいっけん水と油。前作で批判していた大企業にあたるディズニー帝国でのお仕事。クロエ・ジャオ監督自ら虎穴に飛び込んでいくようだ。以前『マイティ・ソー』をシェイクスピアの映画化で有名なケネス・ブラナーを監督に起用したこともあるから、ディズニー・マーベルの異種監督の受け入れ間口は広い。
夕焼けを背景にマント姿のヒーローたちが棒立ちしている『エターナルズ』のポスター・ビジュアル。誰が主人公かわからない。ハッキリ言って地味。それにもかかわらずビッグ・バジェットで製作されている違和感。
本国アメリカでこの『エターナルズ』の試写会が行われたとき、批評家がこぞって口をつぐんだらしい。それはけっして否定的な意味ではなかったとのこと。あまりにテーマが重いので、軽々しい感想が言えない雰囲気。エンターテイメント超大作で、言葉を選ばせるとはただごとではない。映画体験として斬新。
あまりに地味な印象の『エターナルズ』。自分には引っかかるものがあまりなかったので、配信などでいつか観ればいいだろうと軽く思ってしまっていた。
この映画のサントラにBTSの曲が使用されるという噂を聞いた。我が家にはBTSファンであるARMYがいるので、興味が湧いた。クロエ・ジャオ監督もARMYらしい。中国系の監督がKPOPの曲を使う。白人文化のハリウッド映画で、アジアンパワーが炸裂する。中国や韓国が世界で活躍するのは、同じアジア人として誇らくもあり羨ましくもあり。
『エターナルズ』は、これでもかというくらい近年の社会問題を取り込んでいる。国によっては上映中止になったくらい。黒人やアジア人、障害者に同性愛者、成長しない子どもとエターナルズのメンバーには多種多様な個性が集結する。それでもリーダーとして慕われているのは白人男性。
映画は綺麗にまとめ上げられていて、非の打ち所がないくらい完璧な脚本。登場人物が多くとも、誰が誰だかわからなくなることはない。それぞれが個性を活かして、その存在に意味を持たせる。人類史を背負った壮大なストーリーにも関わらず、広げた風呂敷をきちんと畳んでみせる。クロエ・ジャオ監督は、映画を通して白人至上主義や男性優位社会と戦っている。女だからとかアジア人だからとは絶対に言わせてなるものかと。だからラブシーンもガッツリ描く。作品を通して社会問題に対する警鐘を鳴らせつつ、エンターテイメントとしての見せ場も外さない。
説明台詞的な会話が続いて、そろそろタルくなるかと観客が警戒する間もなく、絶妙なタイミングで飽きさせない。複雑な設定なのに、観客を置いていかない。脚本の頭の良さが伝わる。脚本ブレインも優秀な人材が集まっているのだろう。過去のマーケティングのデータも充実しているのだろう。娯楽映画のツボはしっかりつかんでいる。研究され尽くされた娯楽映画の表現技術。さすがディズニー・マーベル。
『エターナルズ』のメンバーは、今までの娯楽作品なら脇役に回されてしまうようなキャラクターばかり。カリスマ性のある誰かの傍に追いやられてしまう存在がスポットを浴びる。それがこの映画のテーマ。
人はどうしても力のある者になびいてしまう。民主主義と言えども、どこの社会も声の大きなガキ大将の言いなりになってしまう。もしそれに従えなければ、圧倒的な権力や同調圧力によって粛清される。いままでの価値観はそうだった。その風潮は変えていかなければいけないと映画は語っている。でもきっとそれは多くの観客には響かない。
映画を観に来る観客の殆どは、知的好奇心から劇場に来ることはない。映画鑑賞を通して何某かの見聞を広めようとすることはない。暇つぶしやストレス解消が最大かつシンプルな目的。映画を観てあれこれ考えたり、調べたりする人はあまりいない。でもそれでいい。
映画『エターナルズ』は、これからの多様性を認め合う社会を模索している。権力者である白人男性が悪しき者とも言っていない。祭り上げられたリーダーも孤独。もちろん我慢するだけの不特定多数も不幸。多くの人が生きづらいなら、社会の方向転換しなければならない。
映画を包み込むのはフェミニズム。フェミニズムが女性活動家と同義語のように一人歩きし始めている。フェミニズムは考える女性の意味。女性を始め、多種多様な人々が自分で考え発言していくことの大切さ。あえて華のないキャラクターばかり集めた『エターナルズ』。登場人物たちの言葉は、現実の現代社会を生きる我々と重なってくる。
特殊能力を持つけれども必要以上に人類と関わってはいけない存在のエターナルズ。でも長い間一緒にいたら情も湧いてくる。助けてあげたくなるじゃない、それもダメなの? 私たちも人類との共生生活が楽しかったじゃない? 力のある者の一人勝ちの世の中にはもう疲れた。助け合いましょうよと。それが社会の理想のあり方。
そもそもLOHASもSDGsも余裕がなければできない思想。金持ちから始めなければ、この運動も自然消滅していく。人種や障害、LGBTQや文化の違いも超えていく。多種多様な価値観が、エンターテイメントに描かれていくことの重要性。奇異だった異文化に慣れ、馴染んでいく。知らないことを知っていく。作品のテーマには気付けなくとも、他者を受け入れていく心構えは自然とできてくる。ゆっくりとした啓蒙活動。いつの間にか我々は無知という暴力性から解き放たれていく。
クロエ・ジャオの演出は、多くのサブカルチャーからの引用もある。堅いテーマをオタクっぽく料理する。伝統的なメインカルチャーも、今蠢いているサブカルチャーも分け隔てなく引用するセンスはありそうでなかった。
異色作『エターナルズ』、今後の展開は如何に。この地味なメンバーが、アベンジャーズに合流してしまうと、やっぱり傍に追いやられる。アジア人は目が小さいから、表情が伝わりにくくて、やっぱり白人に比べれば不利。主役のジェンマ・チャンもこれでもかと表情をだしていたけど、限界がある。そんな無理をしなくとも、多種多様な人々が個性を許される世界がくればいい。
中国や韓国のソフトパワーが元気ないま、新しい価値観が生まれているのも確か。『エターナルズ』は、大企業が投資した、実験的で先見のエンターテイメント映画なのだろう。
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