*

『サウンド・オブ・ミュージック』さらに高みを目指そう!

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 映画:サ行, 音楽

先日行われた息子の幼稚園の発表会の演目は『サウンド・オブ・ミュージック』だった。自分が生まれる前の映画なのはもちろん、自分が最後に鑑賞したのも数十年前の10代の頃。「ずいぶん前に観たな〜」という印象。でもこの作品が有名すぎるのと、楽曲がCMなどに使われまくっているので、内容のほとんどは覚えていた。

所詮幼稚園の発表会だ。小さな子ども達が、決められた歌やセリフ、振りがよくできていれば十分なのだろうと、正直自分はあまり期待せずに観に行った。親としてはあまりにテンションの低い参座者だ。でもひとたび演技が始まると、『サウンド・オブ・ミュージック』の映画がみるみる思い出されていった。とかく幼稚園生くらいの発表会といえば、大声でがなりたててセリフも聞き取れないものが多い。まずセリフがちゃんと聞き取れて、歌にも抑揚が効いている。誰か一人が暴走するようなことがなく、芝居に調和がとれている。みんなが主役。表現とはこういうことだと親ながらに感心してしまった。

モデルでタレントの栗原類くんが、自身が発達障害だったことをカミングアウトした時の逸話で興味深いものがある。帰国子女の類くんが幼稚園時代、歌の授業でがなりたてて歌う子を、先生が「元気があってよろしい」と褒めるのが、とても嫌だったらしい。歌を歌うということは一つの表現だ。一人の子が、がなりたてて歌ってしまうと、他の子の声が聞こえなくなってしまう。それが基準となってしまえば、表現としてはめちゃくちゃになってしまう。抑揚をつけて、感情豊かに歌おうとしていた子たちの芽を摘んでしまうことにもなる。幼少期の類くんは、そこに理不尽さを感じたのだろう。まずは元気よく歌えることが大切だが、それができたら次の段階へ進まなければ、集団としての成長はない。

ウチの子どもたちはまだ『サウンド・オブ・ミュージック』を観たことがなかった。この映画はおじいちゃんのお気に入り。DVDを貸してくれた。それを大事そうに抱えている6歳児が微笑ましい。吹き替え版にての鑑賞。映画の音に合わせて息子が歌う。不思議なライブ感で楽しめた。

今回映画を観るにあたって知ったのは、『サウンド・オブ・ミュージック』は実話が元になっていたということ。舞台は第二次大戦直前のオーストリア。豪邸に住むトラップ大佐とその子どもたちの元へ、家庭教師としてマリアがやってくる。トラップ大佐はナチスドイツに毛嫌いしている。オーストリアとドイツの同盟が決まり、ナチスとして任務につくことを要請される。裕福な生活を捨ててでもスイスイに亡命することを選んでいく。もしこれが史実なら、トラップ大佐のモデルになった軍人は先見の明がある。

難癖をあえていうならば、トラップ大佐の人物像がイマイチ踏み込んでいなくて、感情移入しづらい。自分も最初に鑑賞した時は若かったので、「そんなもんか」と思っていたが、やっぱりそうでもなかった。肩書きこそは立派になったが、妻を亡くし戦争に携わってきた悲しみや、恋人に対する気持ちは、相変わらず理解しづらかった。

子どもたちはナチスドイツをまだ知らない。この後この軍人たちは世界中でひどいことをするんだよと説明した。トラップ大佐の長女のボーイフレンドは、ナチス党員。娘から「この人は無理やり兵隊にされたの?」と質問されたので、「いや、自分から入隊したと思うよ?」 子どもからすれば、自分から好んで戦争に行くなんて考えられない。「カッコイイと思ったのかもね」と言ったらショックを受けていた。「ナチスは日本にも酷いことしたの?」「う〜ん。残念ながら日本はドイツと仲間(同盟国)だったんだよ」と言うと、ダブルショックを受けていた。歴史を読み込んでいくのは難しい。

映画は楽しい楽曲と美しいロケーションで見どころいっぱい。誰もが名作と知っている作品を今更褒めるのも野暮。今のスピーディな演出ではなく、ゆっくりとした流れ。インターミッションなんて何事じゃ? そんな上映スタイルの違いも子どもたちには新鮮だ。

発表会での作品の原作を知る復習から始まって、戦争についてまで話が膨らんで行く。名作というものはのびしろが広いとつくづく思う。どうせ何かをするなら、発展していきそうなものを選んだほうがいい。幼稚園の発表会に『サウンド・オブ・ミュージック』が選ばれたことによって、子どもたちの視野が広がったのは、とても喜ばしいことだ。

関連記事

no image

『美女と野獣』古きオリジナルへのリスペクトと、新たなLGBT共生社会へのエール

ディズニーアニメ版『美女と野獣』が公開されたのは1991年。今や泣く子も黙る印象のディズニーなので信

記事を読む

no image

『幸せへのキセキ』過去と対峙し未来へ生きる

  外国映画の日本での宣伝のされ方の間違ったニュアンスで、見逃してしまった名作はたく

記事を読む

『ルパン三世 ルパンvs複製人間』カワイイものは好きですか?

先日『ルパン三世』の原作者であるモンキー・パンチさんが亡くなられた。平成が終わりに近づいて、

記事を読む

no image

作者を逆感化させた『ドラゴンボールZ 復活の「F」』

  正直に言ってしまうと自分は 『ドラゴンボール』はよく知らない。 鳥山明氏の作

記事を読む

『希望のかなた』すべては個々のモラルに

「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ借り」というものもある。どんな映画かまったく知らないが、ジャケッ

記事を読む

no image

『async/坂本龍一』アートもカジュアルに

  人の趣味嗜好はそうそう変わらない。 どんなに年月を経ても、若い頃に影響を受

記事を読む

no image

『鑑定士と顔のない依頼人』人生の忘れものは少ない方がいい

  映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御歳89歳。セルジオ

記事を読む

『コジコジ』カワイイだけじゃダメですよ

漫画家のさくらももこさんが亡くなった。まだ53歳という若さだ。さくらももこさんの代表作といえ

記事を読む

no image

『猿の惑星:新世紀』破滅への未来予測とユーモア

  2011年から始まった『猿の惑星』のリブートシリーズ第二弾にあたる『猿の惑星:新

記事を読む

no image

マイケル・ジャクソン、ポップスターの孤独『スリラー』

  去る6月25日はキング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンの命日でした。早いこ

記事を読む

『パラサイト 半地下の家族』国境を越えた多様性韓流エンタメ

ここのところの韓流エンターテイメントのパワーがすごい。音楽では

『ターミネーター/ニュー・フェイト』老人も闘わなければならない時代

『ターミネーター』シリーズ最新作の『ニュー・フェイト』。なんで

『家族を想うとき』頑張り屋につけ込む罠

  引退宣言をすっかり撤回して、新作をつくり続

『もののけ姫』女性が創る社会、マッドマックスとアシタカの選択

先日、『マッドマックス/怒りのデスロード』が、地上波テレビ放送

『ジョジョ・ラビット』長いものに巻かれてばかりいると…

「この映画好き!」と、開口一番発してしまう映画『ジョジョ・ラビ

→もっと見る

PAGE TOP ↑