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『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』 刷り込み世代との世代交代

公開日: : アニメ, 映画:カ行, 映画:サ行, 映画館

今度の新作のガンダムは、『エヴァンゲリオン』のスタッフで制作されるらしい。自分のような古参のオタクは、『エヴァゲリオン』も『機動戦士ガンダム』も、どちらの作品もリアルタイムで体験している。こういった企画は、まったくもっておじさんホイホイ。気になって仕方がない。それでもなんで『エヴァンゲリオン』のスタジオカラーが、別のスタジオのサンライズで制作された『機動戦士ガンダム』をつくれてしまうのか。作品の権利はどうなっているのだろう。そっちの方が気になってしまう。

そもそもアニメ業界は狭い世界。スタジオが別といっても、優秀なスタッフはあちこちの作品に個人的にお呼びがかかって出向したりする。どこどこのスタジオがメイン制作といっても、そこのスタジオ単独だけでは仕事量がさばききれないので、他のスタジオに外注依頼する。アニメ業界は横のつながりでできている。だから意外な人が、意外な作品に携わっていたりする。ここまでアニメ産業が大きくなると、スタッフこそは増えるけれども、主要格で仕事ができる人というのは限られてくる。必然的に優秀な人材で、こだわりがない人に仕事が偏ってくる。こだわりがないということ。それがどんな世界にいても、生きやすさにつながってくる。

きっとこの『機動戦士ガンダム』と『エヴァンゲリオン』の融合も、儲かりそうだからというシンプルな理由で合意がなされたのだろう。とりあえずこの作品も、配信とかが始まったら観てみようかなぐらいに思っていた。

先行ロードショー公開が始まるや否や、自分のSNS上では絶賛の嵐となっていった。ガンダムというと、客層はおじさんがメイン。でもこの映画で騒いでるのは、どうやらおじさんばかりではないらしい。今回の新作ガンダムをきっかけに、若い子が昔のガンダムを観始めているという。SNSで微笑ましいエピソードとしては、子どもが映画館でこの新作のガンダムを観て、「お父さんも観た方がいい」と言われて、親子2人でガンダムの映画を観に行ったとか。そりゃあ楽しそうだ。

そんなに絶賛でも、そのうちすぐ配信されるんでしょと、自分はこの現象を他人ごととして遠巻きに見ていた。わざわざ先行ロードショーに行くこともないと。ただ、公開からの数週間、自分のSNSではこのガンダムの新作の話題一色になってしまうという、異常な事態となっていた。まるで世界がガンダムしかないように錯覚してしまう。ファンアートもどんどん上がってくるので、観ないことに罪悪感すら感じてきてしまう。実際、近所の映画館の席の混み具合を調べてみると、なんだか小さなフロアで客もまばらな感じ。やっぱりネット上でのエコーチェンバーがかかっているだけなのかも知れない。

そもそもこのガンダムの新作のタイトル、なんて読んだらいいんだ。『GQuuuuuuX』、『ジークアクス』と読むらしい。なんだかそこからめんどくさくて敷居が高い。なんでもいちばん最初のガンダムと話が絡んでるとか。だから大騒ぎになっているのか。先行ロードショーが盛況だから、これは本放送はちょっと後になりそうな予感がする、とそのときは思ってしまった。観といた方がいいのかな。予定をつけて映画館へ行こうとしたその日に体調が悪くなった。「ガンダムが観にこなくてもいいと言っている」と劇中の言葉が浮かんできた。そういえばしがらみのないルポライターの評論でも「古いガンダムを知らない自分には、前半は訳がわからなくて退屈だった。わざわざ映画館に来るほどでもない」という、珍しくネガティヴな意見があった。それが現実だろう。冷静にそっちの意見の方が正しそう。自分の中で無意識のうちに、この映画を観に行かない理由を探していた。

映画が公開になった1ヶ月後、追加の特別映像もつくとのことで、やっとのことで重い腰を上げて映画館へ行くことにした。これだけ気になっているのに、なんで映画を観たくないのか、理由はわかっている。自分はアニメ作品を映画館で観に行ったとき、必ずと言っていいほど嫌な思いをしてしまう。もうトラウマレベル。アニメとホラー系映画では、マナーが悪い客と頻繁に遭遇する。それらの観客の態度の共通点は、公共の場に慣れていない感じ。家のリビングで、家族や友だちしかいない場所での自由すぎる態度。こんなふうに堂々と生きていけたらどんなにラクか。周囲に気を使いすぎて、クタクタになっている自分もいけないのかと思ってしまう。

さて、ネタバレ厳禁と言われていた『ジークアクス』。今では公式もネタバレしているので、これ以降は内容にも言及していく。映画の前半は『ファースト・ガンダム』と呼ばれている第1作目の『機動戦士ガンダム』の焼き直し。『アベンジャーズ』シリーズでも多用されているIFの世界。マルチバースをガンダムに取り込むとは、なんともあざとい。昔からの日本のアニメの特徴で、テレビシリーズと映画版とは同じ設定で異なる作品として展開する流れがある。アニメ版はアニメ版で展開して、映画版は映画版だけで世界観が進んでいく。思えばこれもマルチバースの考え方なのかも。だから古くからのアニメオタクの観客は、最初から個別の作品として成立しているならば、パラレルワールドが展開してもあまり気にならない。むしろ大好きな作品の別視点での描かれ方に熱くなってしまうのかも。まあこれは同人誌的な二次作品と同じなのだけれど。

では二次作品と本家との違いは何かと問われれば、ふんだんな製作費がかかって、大勢の人が制作に絡んでいることだろう。ガンダムシリーズ新作の『ジークアクス』は、そもそも劇場用作品かのような出来の良さ。音もサラウンドだし、本放送や配信版も音響は凝っているのだろうか。先行ロードショー版だけのサラウンド音響だとすれば、これきりなので貴重なバージョンを観たことになる。

映画の冒頭、東宝のマークがでてくる。ガンダムというと松竹映画というイメージが強い。とうとう松竹が東宝に負けたか。テレビ放送権も今回は日本テレビ。最近のガンダムはずっとTBSで放送していた。それが日テレになる。ガンダムシリーズの今までと配給先が変更されている。なんだか業界の力関係が変わったのだろうか。映画は東宝、テレビは日テレ。一社一強でメディアが独占されてくると、つくられる作品がつまらなくなってくる。まぁそうなったら別のものを観ればいい。東宝や日テレは、海外配給のパイプができたのかもと、いろいろ考えてしまう。

『ジークアクス』の前半は、昔のガンダムのマルチバース。サウンドトラックも当時の楽曲の再収録したもの。ものすごい速さで、過去作品の別バージョンを観せられる。まるで総集編を観せられているかのよう。ちょっと前の『劇場版Ζガンダム』を観ているかのよう。これみんなついていけてるのかしら。今回の『ジークアクス』からガンダムを観始めた人にはキツイんじゃないだろうか。だから最近、『ファーストガンダム』を観始めている人が増えているのだろう。あの頃のガンダムは、今の時代には合わない倫理観の部分も多い。リメイクはしんどいけれど、パラレルワールドで仕切り直すのであれば、先が見えないので面白いかも知れない。

そして後半、予告編で登場する若いキャラクターたちの話がやっと始まる。前半の駆け足の展開が、普通のドラマのテンポに変わって、むしろ遅くなったようにも感じてしまう。高速道路から降りて一般道にでたとき、走行速度がわからなくなってしまう感覚に近い。音楽も今までの懐メロサントラメドレーから一転して、電子音楽のBGMに変わる。まるで別の作品を観ているかのよう。それよりなにより、前半と後半で絵柄が変わってしまうのは果たしてどうなのだろうか。前半は昔のアニメの安彦良和さんタッチの再現で、後半は現代的なポップなタッチ。前半と後半に共通するキャラクターは等身が変わってしまっている。あれはあれ、これはこれということなのか。

ガンダムシリーズは、シリーズが変わると、話は続いていてもスタッフが変わってしまって絵柄が変わることが多い。同じキャラクターでも名前を言われなければ判別できないほど、見た目が変わってしまう。そんな長寿シリーズの弊害をファンは感覚的に受け入れている。この意図的な雰囲気の変化に対して違和感を唱える観客が少ない。結局ガンダムシリーズは、ロボット描写がカッコよければ大成功ということなのだろう。はいはい、ロボットじゃなくてモビルスーツね。ガンダムファン、通称ガノタは案外チョロい。

今回の映画版は、冒頭の数話を映画用に編集したバージョンとのこと。本放送ではこれとは違う編集で観せていくらしいので、どんなふうになるのか楽しみ。今回の映画版をそのまま1話ずつに分割したら、かえって混乱してしまう。きっとそれも上手に編集してくれることだろう。そしてまた、ガノタたちが喝采することでしょう。

この辺は『エヴァゲリオン』で成功しているスタジオカラーがつくっているので、オタクの喜ぶツボを熟知している。今回の新作も、旧作と繋がっているかどうかとオタク度を測る抜き打ちテストみたい。オタクがつくるオタク向けの作品。逆に言えば、いちげんさんおことわりの敷居の高い、厳しいファンダム。

ガンダムシリーズは、子どものころにそれに出会って、大人になるまでこじらせて観続けてきたファンばかり。客層は99パーセントが男。ただ最近はおじさんばかりに偏らず、若い客も増えた。ガンダムシリーズの前作『水星の魔女』で、客層が一気に若返った感じがする。映画館に集まっていた年齢層も、10代からお爺さんまでと幅広い。数少ない女性客は、アウェイ感でバツが悪そうにしていた。

ガンダムの世界観は基本的にホモソーシャル。多様性の現代社会では、かなり古臭い価値観。男が集まれば、仕事の話が中心となる。どっちが上か下かのマウントでの人間関係づくり。基本的にガンダムの人間関係は、マウントの取り合いのミソジニー社会。いくら女性キャラクターが登場しても、それは現実には存在しない女性像が多い。実際にいそうな女性は、フラウ・ボウくらいかな。そんなフラウに振られてしまうアムロって、今思うとほんとにダメな男。でもフラウのような世話女房的なガールフレンドと結ばれないルサンチマンなアムロが、オタクとしてはカッコ良かったのかも知れない。

そういえば今回の『ジークアクス』で、やっとシャアの声優さんが変更された。シャアというとずっと池田秀一さんのイメージだったけど、さすがに絵が若者なのに皺がれた声では違和感がある。新しいシャアの声があまりにもしっくりしているので、驚きもしなかった。新しいシャアは新祐樹さんが担当している。『東京リベンジャーズ』の主人公・武道の声の人。武道とシャアは見た目の印象はだいぶ違うけれど、どちらも野心家なので内面は似たようなところがある。新祐樹さんは若手声優さんでも実力派。シャアという有名すぎるキャラクターを引き継いでも、新しいシャアを演じきれてしまうのだろう。先代に寄せてないのに、シャアのイメージが変わってない。すごい。

今回の『ジークアクス』では、『ファーストガンダム』で1話だけ登場したシャリア・ブルが主役格になる。シャリアとシャアのイケオジ同士の恋愛模様がかなり気になる。大人になって友だちをつくるのはなかなか難しい。小学生低学年なら、隣の席だっただけで友だちになれた。成長していく段階で、それぞれ育っている環境の違いや学業成績の格差で、交友関係も変わってくる。気が合うだけでは仲良くなれない。ガンダムの世界は、会社で出会う人間関係に似ている。誰が上で誰が下か、話す会話は仕事のことがメイン。心の機微や世間話はタブー。日常的な話なんかしたら、なめられてしまいそう。ドライな人間関係。そんな中で、男同士の恋愛が展開していくのだろうか。ロボットアニメでそれをやってくれたら楽しい。それこそフィクションの場を借りての多様性のシミュレーション。

『ジークアクス』の世界では、2人ペアで戦う戦術がメインとなっている。相棒のことを作中では「マヴ」と呼ぶ。「シャリア中佐はシャア大佐とはマヴだったんですか?」「ああ」なんてシリアスに会話していると笑えてしまう。もちろんそれを狙っての「マヴ」というネーミング。マブダチというヤンキー用語を、おっさん同士が大まじめに語っているキモカワイさ。そもそも相棒をバディというのも、マッチョでキモカワいい。『ジークアクス』の本編は若いキャラクターたちの話がメインで、シャアとシャリア・ブルの話はサブになるだろう。でもおじさん観客の自分としては、ホモソーシャルのキザなおじさんたちの恋愛に期待してしまう。ファンアートも赤いおじさんのシャアと、緑のおじさんシャリアを描いているものが多い。シャリアがいつかシャアと再開できることを期待してしまう。

自分は映画を観た次の日、新宿で開催されていたガンダムのイベント『GUNDAM NEXT FUTURE』 へ行ってしまった。別件で新宿へ行ったので、そのついでだった。午前中に行ったにも関わらず110分待ちとのこと。別件に間に合わなければ、並んでいても途中で離脱しようと思っていた。幸い時間に間に合ったので、会場に入れた。イントロダクションで驚いた。ロボットが喋っている。(ロボットじゃなくてモビルスーツね)ロボットの声の主は、そのガンダムを操縦しているパイロット役の声優さん。もうその機体そのものがそのキャラクターと同一化されている。ガンダムもアイデンティティーの一部。観ている観客もこのガンダムは、スレッタだとかキラだとか把握している。かなりシュールな感覚。

ガンダムというコンテンツは、とにかくロボット愛に満ちている。世代を凌駕した永遠の男の子のハートを掴んでいる。ときどき散見する女性ファンは、もしかしたら声優ファンなのかも知れない。このイベントにもアムロは不在だった。担当声優さんのトラブルの影響は大きい。今後、どこかのシリーズでアムロが再登場するかも知れないが、しれっと新しい声優さんに差し代わっているのだろう。こうしてガンダムも世代交代していく。長すぎるコンテンツだけれど、ファン層もスタッフ側も上手に新陳代謝に成功している。

我々のような子ども時代にガンダムに出会って、ガンダムというだけでホイホイくっついていってしまう刷り込み世代はもう幕引きなのかも知れない。時代は変わる。もう寒い時代は終わった。それでは老兵もテレビシリーズで『ジークアクス』の続きを楽しみにしたいと思います。

 

 

 

 

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