『アバター』観客に甘い作品は、のびしろをくれない
ジェイムズ・キャメロン監督の世界的大ヒット作『アバター』。あんなにヒットしたのに、もう誰もそのタイトルを口にしない。あたかも作品自体が封印されたかのようだ。まあ、続編も準備中らしいので、それが動き出したらまた騒ぎになることだろうけど。
ジェイムズ・キャメロンはホントに観客が好む要素や話題性を作品に取り込むのが上手い。当時3D映画といえば、CGアニメ作品のみだった。3D映画には興味はあれど、如何せんおっさんが子ども向けアニメ作品を観るのは勇気がいる。今なら子どもをダシにして映画へ連れて行って、自分の方が楽しむんだけど。さて、実写映画でこの3D技術を取り入れてくれたら、無条件で観に行くのに!と思っていた矢先の『アバター』だった。
ジェイムズ・キャメロン作品は、映画ファンはもちろんだけど、普段映画を観ないような人たちを劇場に足を運ばせる。たとえ普段映画を観るとしても、レンタルやテレビで観るというタイプの観客を動かすのだ。映画好きの自分としては、映画は劇場で観るものだと考えている。時間や手間暇かけて映画は観るもの。どこの劇場でみたか、どんな客がいたか、誰と行ったか……。それらを通して初めて映画鑑賞だと思う。ビデオは見逃した時の代替でしかない。
先日、ウチの小さなちびっこ達に、そろそろナマの舞台を観せてあげたいね~なんて話をしていた。演劇鑑賞はウチにはとんでもない贅沢。作品選びは慎重に決めなくては! やっぱりミュージカルでしょ、劇団四季でしょ。自分は絶対『ライオン・キング』推し。妻は『キャッツ』が良いと言う。『ライオン・キング』はディズニー映画が原作だし、わかりやすい。もちろん楽曲も演出も素晴らしい。ただ、ここまで作り手がお膳立てしてくれると観客は完全に受け身になってしまう。『キャッツ』はストーリー性よりも楽曲や感覚的な演出をしている。こういった感想がひとことで言い表せられないような作品を初めて観た方が、後でいろいろ考えて調べるのではないかと。これと言い切らない作品の方が、観客の想像力を育んでくれる。
自分のように、日々いろいろ観あさっている人間からすれば、分かりやすい作品だろうがなんだろうが、多くの作品の中の一作品にすぎない。しかし、観客に甘過ぎる作品ばかり観ていると、感性が逆に衰えてしまう危険性がある。そうして麻薬のように、居心地の良い作品ばかりを選んで、自分の殻に閉じこもっていく。
ジェイムズ・キャメロン作品の魅力も正にそれ。『アバター』や『タイタニック』だけが映画だと決めてしまうと、もう他の作品の良さが見つけられなくなる。感性の劣化。
でも、ジェイムズ・キャメロン作品は、悔しいけどいつも面白い。本当に良質のエンターテイメントだ。『アバター』公開から随分経つけど、あれ以来劇場で映画を観ていない『自称映画ファン』もさぞかし多いことだろう。もちろん映画は本数を観ればいいというものではまったくない。創作作品との距離は非常に難しい。
まあ自分にとっては『アバター』も、たくさんある愛すべき作品のひとつだろう。こんなに特別大ヒットしたのは、いまだに不思議だと思ってるけど。
関連記事
-
-
『男はつらいよ お帰り 寅さん』 渡世ばかりが悪いのか
パンデミック直前の2019年12月に、シリーズ50周年50作目にあたる『男はつらいよ』の新作
-
-
『怪物』 現実見当力を研ぎ澄ませ‼︎
是枝裕和監督の最新作『怪物』。その映画の音楽は坂本龍一さんが担当している。自分は小学生の頃か
-
-
『グレイテスト・ショーマン』 奴らは獣と共に迫り来る!
映画『グレイテスト・ショーマン』の予告編を初めて観たとき、自分は真っ先に「ケッ!」となった。
-
-
『SING』万人に響く魂(ソウル)!
「あー楽しかった!」 イルミネーション・エンターテイメントの新作『SING』鑑賞後、ウチの子たちが
-
-
『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?
『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間
-
-
『あん』 労働のよろこびについて
この映画『あん』の予告編を初めて観たとき、なんの先入観もなくこのキレイな映像に、どんなストー
-
-
マッドネエチャン・ミーツ『マッドマックス/怒りのデス・ロード』
大事なのは理屈じゃない、勢いなんだよ!! この映画『マッドマックス/怒りのデス・ロード』はそ
-
-
『マイティ・ソー バトルロイヤル』儲け主義時代を楽しむには?
ポップコーン・ムービーの王道、今ノリにノってるディズニー・マーベルの人気キャラクター・ソーの最新作『
-
-
『ブラック・レイン』 松田優作と内田裕也の世界
今日は松田優作さんの命日。 高校生の頃、映画『ブラックレイン』を観た。 大好きな『ブ
-
-
『WOOD JOB!』そして人生は続いていく
矢口史靖監督といえば、『ウォーターボーイズ』のような部活ものの作品や、『ハッピー