*

『アイ・アム・サム』ハンディがある人と共に働ける社会

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:ア行,

 

映画『アイ・アム・サム』は公開当時、びっくりするくらい女性客でいっぱいだった。満席の劇場には、男は自分をふくめ、数人しかいなかった。

主人公は7歳の精神年齢のまま中年になったハンディキャップのあるサムと、実際に7歳の娘ルーシーの話だけど、その親子に関わる大人の女性たちがみな魅力的に描かれている。主人公こそは男だけど、これは女性映画。ミシェル・ファイファーの弁護士も、ローラ・ダーンの里親も、みんな踏ん張って生きている。

驚いたのは主人公のサムは、健常者と一緒にスターバックスで働いてること。障害者にも人権があるということなんだろうけど、作中でも描かれているように、同僚の配慮や企業努力だけでは、まだまだ多難なイメージ。アメリカって進んでるんだか、無責任なんだか?

障害者を雇うことは、日本も勧めている。以前読んだ『利他のすすめ』という本では、知的障害者を率先して雇って、業績をあげている会社を紹介していた。本自体は美談なのだが、理想を現実にするのは大変なこと。きれいごとを実現するには、きれいごとではすまされない。自身は泥の中を渡らなければ、道は開けないだろう。世知辛い。

以前みかけたある会社で、ハンディをもつ人をスタッフに雇っているところがあった。でもこの会社、ブラック企業にしかみえないの。社員は毎日夜中まで働いてるし、休日も返上して出てきてるみたい。みんなよく働いてるな〜。経営者は、社員の待遇改善をまず先に考えるべきじゃないかな〜。ついつい障害者を雇うことで貰える助成金めあてなのでは?と邪推しちゃう。

社員たちも、その障害者のスタッフに必要以上に気を使ってる。障害者スタッフは定時にあがっちゃうから、社員たちはその途中の仕事の引き継ぎで大変みたい。会社としての表向きの志は素晴らしいけど、内情は社員たちの負担を増やしているだけのようにもみえた。

別の機会で、一般企業で働くハンディをもつ人と話すことがあった。どうやらだいぶ酷く扱われているみたい。実際、物覚えも悪く、仕事での失敗も多いらしい。本人曰く「ガマンすることが仕事だから。それでもやっていく」。う〜ん、それってハッピーじゃない。

その人は、自分の仕事が直接会社の利益につながり、世の中の何かに役に立ち、自分のもらう給料につながっているというシステムに気づいてなかったみたい。

そう、ガマンすることが仕事じゃない。

こういった人たちが、いじめられることなく働ける会社なら、きっと良い会社になっていくだろう。そんな会社が多い社会なら、みんなが幸せを感じている表れだ。

自分は障害者も天才も同じようなものだと常々感じている。自分の才能を活かせる方法がみつかれば、自分も周りも幸せになれるのではないか。それは従来の働き方の概念とは別の次元の話だろう。なくて七癖、十人十色。障害だって個性に過ぎない。

『アイ・アム・アム』の主人公サムは、少年の純粋な心を持つ。彼に批判されると、本当に傷つく。サムが、自分の娘ルーシーを連れて行ってしまうかもしれない里親に、「ルーシーが描く絵の赤色はあなただよ」と伝える場面がある。赤い服ばかり着ていた里親の、「自分はしっかりしなきゃ!」という気張りの象徴。サムの相手を認める優しい言葉は、感性豊かで詩的だ。

娘を想う知的障害者のお父さんの気持ち。大好きなパパと、ずっと一緒にいたい娘の気持ち。キャリアを積むために、がむしゃらに働いてきた女弁護士の気持ち。愛のある人生を目指す里親女性の気持ち。登場人物のみんなが幸せになって欲しい。そんな理想的な道はないだろうか?

映画ではハッキリとした答えは出すことはなかった。ただ、ラストシーンでは登場人物みんなが笑っていた。

関連記事

no image

『アントマン』ちっちゃくなってどう闘うの?

マーベルのスーパーヒーロー集団『アベンジャーズ』が集結する『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が

記事を読む

『関心領域』 怪物たちの宴、見ない聞かない絶対言わない

昨年のアカデミー賞の外国語映画部門で、国際長編映画優秀賞を獲った映画『関心領域』。日本が舞台

記事を読む

『チ。 ー地球の運動についてー』 夢に殉ずる夢をみる

マンガの『チ。』の存在を知ったのは、電車の吊り広告だった。『チ。』というへんなタイトルがキャ

記事を読む

『進撃の巨人』 残酷な世界もユーモアで乗り越える

今更ながらアニメ『進撃の巨人』を観始めている。自分はホラー作品が苦手なので、『進撃の巨人』は

記事を読む

no image

『オネアミスの翼』くいっっっぱぐれない!!

  先日終了したドラマ『アオイホノオ』の登場人物で ムロツヨシさんが演じる山賀博之

記事を読む

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶

記事を読む

no image

映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』

  クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネ

記事を読む

no image

『ツレがうつになりまして。』鬱を身近に認知させた作品

  鬱病を特別な人がなる病気ではなく、 誰をもいつなりうるか分からな事を 世間に

記事を読む

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 問題を乗り越えるテクニック

映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、日本公開当時に劇場で観た。アメリカの91

記事を読む

『下妻物語』 若者向け日本映画の分岐点

台風18号は茨城を始め多くの地に甚大なる被害を与えました。被害に遭われた方々には心よりお見舞

記事を読む

『アン・シャーリー』 相手の話を聴けるようになると

『赤毛のアン』がアニメ化リブートが始まった。今度は『アン・シャ

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

→もっと見る

PAGE TOP ↑