*

『ブラック・スワン』とキラーストレス

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:ハ行

 

以前、子どもの幼稚園で、バレエ『白鳥の湖』を原作にしたミュージカルのだしものがあった。もちろん園児にもわかるように簡略化されたリライト版。娘は迷わず、黒鳥ことオディール役を選んだ。

オリジナルの『白鳥の湖』は、白鳥のオディットと黒鳥のオディールは一人二役。このお遊戯版ではどちらも違う子が演じてる。しかも人数の関係上、一役につき何人も配役される。数人が同時に同じ役の演技をする。オディール役は娘を含めて5人。なにせ園児なので元気優先。絶叫芝居でセリフも聞きとれず、ストーリーは最後までさっぱり。しかし、まっさきに黒鳥役を志願する我が娘のセンスって……。

この映画『ブラック・スワン』の監督ダーレン・アノフスキーと、『ダークナイト』シリーズのクリストファー・ノーランが、自分はどうもごちゃ混ぜになってしまう。どちらも作風は暗いからだろう。ノーランがメジャー路線なら、このダーレン・アノフスキーはメジャーだけどアングラ(?)といったところか。

ナタリー・ポートマン主演だったからか、ホラータッチの映画だったからか、公開当時、女性の間で話題になっていた。

「役に殺される」とはまさにこのこと。大抜擢の配役のチャンスは得ても、重責やら、のめり込みすぎやらで精神を病んでしまう。真面目な人こそおちいりやすい。人が追い込まれていく過程を、幻覚描写などホラー映画のテクニックをふんだんに織り込んで描いている。幻覚アトラクションムービー! 病気になるとはこういうことか。疑似体験のシミュレーション。

主人公の女優は『白鳥の湖』の主役に抜擢される。品行方正な彼女のストレスは盛りだくさん。人がいいばかりに、周りの無責任な重圧に正直に受け応えてしまう。

主人公のストレスは、役に対する重圧だけではない。母親の過干渉や、それゆえ世間知らずの劣等感。言い寄ってくる女たらしの演出家。ライバル女優の存在。そして自身の性体験がないこと etc…

ひとつひとつのストレスこそは小さくても、あまりに重なってしまうと、死に至る病気の原因になるらしいことが、科学的にわかってきた。テレビでやっていたが『キラーストレス』というらしい。なんでも毎日満員電車に乗ることも、かなりの精神的負荷がかかっているとか。

この死に至るまでのストレス回避はどうしたらいいのか?番組では、自分がリラックスすることはどんなことか具体的に書き上げることを勧めていた。お茶を飲むとか、音楽を聴くとか。「100万円当たったことを想像する」という妄想もOKらしい。そうやって心の逃げ場所を自分で見つけていくのは、今の社会で生きていくのにかなり重要。

そして瞑想の習慣化が良いとも言っていた。瞑想というと抹香臭くなってしまうが、その宗教性を排除した、科学的根拠に基づいた習慣。人間の脳は進化しすぎて、予測や過去にとらわれやすい。だいたいの心配事は、まだ見ぬ未来の不安や、過ぎ去った過去の出来事。今悩んでもどうしようもない。そんなとらわれをリセットするために、今だけに集中する時間をつくる。

子どもたちがケンカをしても、一晩寝ればわすれてしまい、元気に仲直りしているのは、良い意味で脳が未熟だから。雑念が入らない。

例えば、自分は映画館で映画をじっくり観ると、ものすごいストレス解消になる。暗くて重い作品を観た後でもスッキリしてる。もちろん作品のヘビーさにバテることはあるけど、精神状態はすこぶる良好。これって映画鑑賞という「今」に集中しているからかも。でも疲れすぎちゃうと、映画を観る元気もなくなっちゃう。

「瞑想=宗教儀式」というイメージだったけど、本来宗教は人をリラックスさせるために生まれたもの。難しい教義がくっついて、ややこしくなっちゃっただけなのかも? なにごともシンプルがいちばんなのだろう。情報過多な現代人、意識してリラックスしなければ、病気になって命もおとしかねないようです。

関連記事

『フロリダ・プロジェクト』パステルカラーの地獄

アメリカで起きていることは、10年もしないうちに日本でも起こる。日本は、政策なり事業なり、成

記事を読む

『ブラック・レイン』 松田優作と内田裕也の世界

今日は松田優作さんの命日。 高校生の頃、映画『ブラックレイン』を観た。 大好きな『ブ

記事を読む

『フェイクニュース』 拮抗する日本メディア

自分はすっかり日本の最新作は観なくなってしまった。海外作品でも、テレビドラマのようなシリーズ

記事を読む

『パイレーツ・オブ・カリビアン』 映画は誰と観るか?

2017年のこの夏『パイレーツ・オブ・カリビアン』の新作『最後の海賊』が公開された。映画シリ

記事を読む

『ブレードランナー2049』 映画への接し方の分岐点

日本のテレビドラマで『結婚できない男』という名作コメディがある。仕事ができてハンサムな建築家

記事を読む

no image

『パンダコパンダ』自由と孤独を越えて

子どもたちが突然観たいと言い出した宮崎駿監督の過去作品『パンダコパンダ』。ジブリアニメが好きなウチの

記事を読む

『パフューム ある人殺しの物語』 狂人の言い訳

パトリック・ジュースキントの小説『香水 ある人殺しの物語』の文庫本が、本屋さんで平積みされて

記事を読む

『パラサイト 半地下の家族』 国境を越えた多様性韓流エンタメ

ここのところの韓流エンターテイメントのパワーがすごい。音楽ではBTSが、アメリカのビルボード

記事を読む

no image

『ボーダーライン』善と悪の境界線? 意図的な地味さの凄み

  映画『ボーダーライン』の原題は『Sicario』。スペイン語で暗殺者の意味らしい

記事を読む

『日の名残り』 自分で考えない生き方

『日の名残り』の著者カズオ・イシグロがノーベル文学賞を受賞した。最近、この映画版の話をしてい

記事を読む

『落下の解剖学』 白黒つけたその後で

フランス映画の『落下の解剖学』が話題となった。一般の映画ファン

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 僕だけが知らない

『エヴァンゲリオン』の新劇場版シリーズが完結してしばらく経つ。

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

→もっと見る

PAGE TOP ↑