*

『オデッセイ』 ラフ & タフ。己が動けば世界も動く⁉︎

公開日: : 最終更新日:2021/02/28 映画:ア行, , 音楽

2016年も押し詰まってきた。今年は世界で予想外のビックリがたくさんあった。イギリスのEU離脱や、アメリカのトランプ大統領誕生。それに日本での新海誠監督作品が国民的な大ヒット。自分が思っているより遥かに世界中の人たちが追い込まれているのかも。

リドリー・スコット監督の『オデッセイ』は、実話を元にしているのではと感じてしまうほどのリアリティのある作品。原題は『The Martian(火星の人)』。邦題がまぎらわしい。リドリー・スコットといえばSFの名作が多い。『エイリアン』を彷彿させるオープニングで、暗く重い作品かと警戒させておきながら、本編が進むにつれ元気がでてくるというニクいつくり。

火星に一人残された宇宙飛行士が、数年後の救出に向けて、いかにサバイブするかという話。

マット・デイモン演じる主人公のマークは、死と隣り合わせの状況に絶望するどころか、愚痴ひとつ言うひまもなく、即座にいかに生き残るか策を考え行動を始める。その姿が地球で観測されて、死んだと思われていたマークが発見される。もしマークのサバイブの行動が遅かったら、誰にも見つけられずひっそりと最期を迎えていたことだろう。マーク自身の、生きようとする意志が地球にいる人たちを動かし、彼の救出は世界中の注目や協力を得る一大計画となっていく。

本編で中国が、マーク救出計画に全面的に協力する。中国の経済力をアメリカや世界が認め、仲良くしたがっている表れだ。ひと昔前ならこのポジションには日本がいたのかもしれない。

この映画はゴールデングローブ賞のコメディ・ミュージカル部門で作品賞を受賞している。日本の宣伝では、悲壮感漂う雰囲気だし、宇宙を舞台にした作品は重苦しい難解なものが多いのが常。でも観てみるとコメディセンスいっぱいで、その受賞の意味がよくわかる。

火星に一人残されたマークには娯楽がない。唯一残された音楽は、船長が残した80年代ディスコミュージック。「ひどい趣味だ!」と文句を言いながら、結局聴いてるマークに笑える。大団円ではデヴィッド・ボウイの『スターマン』がかかる演出にはアツくなる。そういえばボウイが亡くなったのも今年。

音楽の趣味が悪いと、さんざ陰口言われてる船長がどんな人かと思えば、クールな印象の女優ジェシカ・チャスティンなのも予想外で笑える。そういえばこの映画のキャスティングはクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』とダブってる。姉妹編みたい。『インターステラー』でもマット・デイモンは、一人惑星に残された宇宙飛行士役だったっけ。

いつ死んでもおかしくない状況で、マークは常にジョークやユーモアを欠かさない。この彼の人間らしい、生きる力が周りの人に「何としても彼を助けなければ」と使命感に燃えさせる。一人の人命救助に多勢を危険にさらすのは常識的にはムチャだ。型どおりに計画を反対する上司に、ハッキリ「憶病者」と言える部下の姿もカッコイイ。たった一人を救うという、わかりやすいミッションに、登場人物たち全員が活躍する気持ち良さ。

世の中のおおかたの決めごとは、上の人が決めたい結果が先にありき。それを実行するために、あとづけの理屈をムリクリこねくり回して、けむに巻いて強行してしまう。でも状況は常に変化していて、それに伴い、つどつど作戦を変更していかなければならないもの。方法がひとつしかないのでは、どんどん苦しくなってしまう。

「ラフ & タフ、それがアメリカ‼︎」と言わんとばかりの映画だ。80年代のハリウッド映画もそんな作品が多かったけど、この作品はそこまでノーテンキではない。むしろこの共通のミッションにすがるような必死ささえ感じる。

日本人はまじめで礼儀正しいのは世界的に有名。でもいま、世の中は不真面目が横行している。そんなところで、まじめなだけでやっていたらビョーキになる。不真面目に生きるというわけじゃなく、ちょっといい加減に、距離を保ちつつ冷静な視点をもつことも大切。理想としては、いつでも状況は変えられるけど、とりあえずこのままで良いというものへ持っていきたい。いつでも動ける選択肢が心にゆとりを与える。がけっぷちはマズイ。

なんとなくいまという現実をみると、おセンチに浸っていることに身の危険すら感じる。感傷的な気分は動きを止めたり、後ろ向きにさせるから。もしかしたら危険を感じてるからこそ逃避が必要なのか。まあ少なくともサバイブに備えてはおきたいものだ。

多角的にものごとをみる。助けを待つのではなく自分から行動する。他力本願ではダメ。人生観を見直させる時代性を感じる映画だった。

関連記事

『三体(Netflix)』 神様はいるの?

Netflix版の『三体』をやっと観た。このドラマが放送開始されたころ、かなり話題になっていたし

記事を読む

『バケモノの子』 意味は自分でみつけろ!

細田守監督のアニメ映画『バケモノの子』。意外だったのは上映館と上映回数の多さ。スタジオジブリ

記事を読む

no image

『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』賢者が道を踏み外すとき

  日本では劇場未公開の『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』。DVDのジャケ

記事を読む

『エイリアン』とブラック企業

去る4月26日はなんでもエイリアンの日だったそうで。どうしてエイリアンの日だったかと調べてみ

記事を読む

『ゲゲゲの女房』本当に怖いマンガとは?

水木しげるさんの奥さんである武良布枝さんの自伝エッセイ『ゲゲゲの女房』。NHKの朝ドラでも有

記事を読む

no image

『ワールド・ウォーZ』ゾンビものとディザスターもののイノベーション

  ブラッド・ピットが自ら製作も手がけた 映画『ワールド・ウォーZ』。 ゾン

記事を読む

『1987、ある闘いの真実』 関係ないなんて言えないよ

2024年12月3日の夜、韓国で戒厳令が発令され、すぐさま野党によってそれが撤回された。日本

記事を読む

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 自分のことだけ考えてちゃダメですね

※このブログはネタバレを含みます。 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの四作目で完結

記事を読む

no image

『DENKI GROOVE THE MOVIE?』トンガリ続けて四半世紀

  オフィス勤めしていた頃。PCに向かっている自分の周辺視野に、なにかイヤなものが入

記事を読む

『聲の形』頭の悪いフリをして生きるということ

自分は萌えアニメが苦手。萌えアニメはソフトポルノだという偏見はなかなか拭えない。最近の日本の

記事を読む

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

→もっと見る

PAGE TOP ↑