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『アナと雪の女王2』百聞は一見にしかずの旅

公開日: : アニメ, 映画:ア行, 映画館, 音楽

コロナ禍で映画館は閉鎖され、映画ファンはストレスを抱えていることだろう。

自分はどうかといえば、ここ数年から、映画館で映画を観ることは、あまりしなくなってしまっている。

映画を映画館で鑑賞するのは、映画ファンとしてはあたりまえ。映画を観るという行為は、鑑賞日をスケジューリングしたり、映画館へ向かう途中、その街を歩いた記憶なども、その映画に対する思い出となっている。だから映画館で映画を鑑賞することの重要性は十分知っている。それでも映画館への腰は重くなった。

これはひとえに環境の変化によるものだ。若い時は毎週映画館へあしげく通っていた。家族ができると、そうそう自分だけの趣味に走るわけにもいかない。それに物価の高騰やら、たくさんの税金が徴収されるとなると、一番最初に削減しなくてはなならくなるのは趣味に関わる費用だ。なにより映画館のチケット代が高い。

余裕がなくなると、いちばん最初に文化が廃れていく。

コロナ禍で大打撃を被っている映画産業。とりわけ映画館の存続自体が危ぶまれ始めている。もはや映画館で映画を観るという行為はかなりの贅沢だ。

というわけで、この話題作である『アナと雪の女王2』も、リアルタイムで映画館へ足を運ぶことはなかった。うちの子どもたちも好きなシリーズだけど、家族全員で映画を鑑賞するのはかなりの出費だ。ソフト化を待った方がリーズナブルと判断した。

小学生のうちの子どもたちは、「いずれパパはアナ雪2を観るだろう」と予測している。せがんで観たいとは言わない。でも、クラスの子たちは、どんどん映画館へ連れて行ってもらって映画を観ている。子どもたちの間では、容赦なくネタバレが交わされる。自然と親である自分の耳にもネタバレが入ってくる。

子どもたちが語る『アナ雪2』のネタバレは、どれもが悲劇的なものばかり。ディズニーのファミリー向け作品で、夢のない悲劇を語るとは到底思えない。物語のプロセスで、悲劇的な展開はあれど、着地点は必ず希望へと向かうはず。その語り口を知るだけでも、映画を観る価値がありそうだ。

映画のメイン曲『イントゥ・ジ・アンノウン』は、前作の主題歌ほどピンときていなかった。曲のキーとなるハミングのフレーズが不安感を煽る。映画の序盤でこの曲がかかると、鑑賞前に噂で聞いた。自分探しの旅だちの曲だ。自立の歌。「そうなるとエルサとアナは、一緒に暮らせなくなるんじゃない?」と娘に聞いてみると、「当たり」とのこと。

私はネタバレを恐れない。人が見たり聞いたりしたもの感想が、他人と同じとは限らない。百聞は一見にしかず。結末が分かっている上で、その旅路の顛末を辿って行こうではないか!

映画を最初から観ていくと、ピンとこなかったメイン曲も、感動的に聞こえてくる。不安感を煽るハミングのフレーズは、ちゃんと意味がある。もうすでに何度も観ている『イントゥ・ジ・アンノウン』の映像の印象が変わり、あらためて感動する。

前作『アナと雪の女王』は、感覚的な映画だった。楽曲先にありきで、物語の辻褄や情緒に関係なく、どんどん突き進んでいく印象。その力強さがヒットの要因だった。作品に宿っている勢いが、観客を感動させた。理屈ではない。

今回の『アナ雪2』は、それに反して理論的になっている。前作で辻褄が合っていなかった部分を、巧みに伏線にして帳尻が合わさっていく。脚本の妙。

RPG形式の展開は、ファンタジーの基本。行きて帰りしの物語。いく先々で、旅の仲間を増やしていく。古典の基本を抑えながら、将来ゲーム展開にも持っていけそうな企画の周到さ。

前作が感覚的なら、今回は理論的。しかも老若男女問わず、あらゆる人に楽しんでもらえるようなエンターテイメント作品になっている。さすがディズニー。

驚かされるのは内容だけではない。CG技術の目まぐるしい進歩も伺える。景色の描写の美しさや、コスチュームの質感まで。コスプレしてねと言わんとばかり。今後何10年も、この作品を愛してもらおうと、製作者たちの努力を感じる。

アメリカは国力をあげて、エンターテイメントにも力を入れている。ソフトパワーも国の産業の大黒柱。どこぞの国の「クール何某」とは訳が違う。前者は投資、後者はただの天下りの税金無駄遣い。これではエンタメに限らず、あらゆる産業が衰退しかねない。

このコロナ禍で、様々な経済が破壊されている。収束後どうなるか検討もつかなくなった。世界の潮目が変わった。変革の時がきている。

『アナと雪の女王2』は、エルサの自分探しの旅を描き、自分のルーツは先代たちの過ちと成功の結実なのだと知っていく。ファミリーヒストリーの冒険譚。

すべてを知って、主人公たちはどの道を選んでいくか。観客が納得の行く結末へ向かうために、膨大な情報量とハイスピードな展開に落とし込む。「さすがですね」と、圧倒されっぱなしの映画だった。

アナと雪の女王2

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