『アイ・アム・サム』ハンディがある人と共に働ける社会
映画『アイ・アム・サム』は公開当時、びっくりするくらい女性客でいっぱいだった。満席の劇場には、男は自分をふくめ、数人しかいなかった。
主人公は7歳の精神年齢のまま中年になったハンディキャップのあるサムと、実際に7歳の娘ルーシーの話だけど、その親子に関わる大人の女性たちがみな魅力的に描かれている。主人公こそは男だけど、これは女性映画。ミシェル・ファイファーの弁護士も、ローラ・ダーンの里親も、みんな踏ん張って生きている。
驚いたのは主人公のサムは、健常者と一緒にスターバックスで働いてること。障害者にも人権があるということなんだろうけど、作中でも描かれているように、同僚の配慮や企業努力だけでは、まだまだ多難なイメージ。アメリカって進んでるんだか、無責任なんだか?
障害者を雇うことは、日本も勧めている。以前読んだ『利他のすすめ』という本では、知的障害者を率先して雇って、業績をあげている会社を紹介していた。本自体は美談なのだが、理想を現実にするのは大変なこと。きれいごとを実現するには、きれいごとではすまされない。自身は泥の中を渡らなければ、道は開けないだろう。世知辛い。
以前みかけたある会社で、ハンディをもつ人をスタッフに雇っているところがあった。でもこの会社、ブラック企業にしかみえないの。社員は毎日夜中まで働いてるし、休日も返上して出てきてるみたい。みんなよく働いてるな〜。経営者は、社員の待遇改善をまず先に考えるべきじゃないかな〜。ついつい障害者を雇うことで貰える助成金めあてなのでは?と邪推しちゃう。
社員たちも、その障害者のスタッフに必要以上に気を使ってる。障害者スタッフは定時にあがっちゃうから、社員たちはその途中の仕事の引き継ぎで大変みたい。会社としての表向きの志は素晴らしいけど、内情は社員たちの負担を増やしているだけのようにもみえた。
別の機会で、一般企業で働くハンディをもつ人と話すことがあった。どうやらだいぶ酷く扱われているみたい。実際、物覚えも悪く、仕事での失敗も多いらしい。本人曰く「ガマンすることが仕事だから。それでもやっていく」。う〜ん、それってハッピーじゃない。
その人は、自分の仕事が直接会社の利益につながり、世の中の何かに役に立ち、自分のもらう給料につながっているというシステムに気づいてなかったみたい。
そう、ガマンすることが仕事じゃない。
こういった人たちが、いじめられることなく働ける会社なら、きっと良い会社になっていくだろう。そんな会社が多い社会なら、みんなが幸せを感じている表れだ。
自分は障害者も天才も同じようなものだと常々感じている。自分の才能を活かせる方法がみつかれば、自分も周りも幸せになれるのではないか。それは従来の働き方の概念とは別の次元の話だろう。なくて七癖、十人十色。障害だって個性に過ぎない。
『アイ・アム・アム』の主人公サムは、少年の純粋な心を持つ。彼に批判されると、本当に傷つく。サムが、自分の娘ルーシーを連れて行ってしまうかもしれない里親に、「ルーシーが描く絵の赤色はあなただよ」と伝える場面がある。赤い服ばかり着ていた里親の、「自分はしっかりしなきゃ!」という気張りの象徴。サムの相手を認める優しい言葉は、感性豊かで詩的だ。
娘を想う知的障害者のお父さんの気持ち。大好きなパパと、ずっと一緒にいたい娘の気持ち。キャリアを積むために、がむしゃらに働いてきた女弁護士の気持ち。愛のある人生を目指す里親女性の気持ち。登場人物のみんなが幸せになって欲しい。そんな理想的な道はないだろうか?
映画ではハッキリとした答えは出すことはなかった。ただ、ラストシーンでは登場人物みんなが笑っていた。
関連記事
-
-
『アメリカン・ビューティー』幸福か不幸か?
アカデミー賞をとった本作。最近ではすっかり『007』監督となった映像派のサム・メ
-
-
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 たどりつけばフェミニズム
先日、日本の政治家が、国際的な会見で女性蔑視的な発言をした。その政治家は以前からも同じような
-
-
『コクリコ坂から』横浜はファンタジーの入口
横浜、とても魅力的な場所。都心からも交通が便利で、横浜駅はともかく桜木町へでてし
-
-
うつ発生装置『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
90年代のテレビシリーズから 最近の『新劇場版』まで根強い人気が続く 『エヴ
-
-
『海街diary』男性向け女性映画?
日本映画で人気の若い女優さんを4人も主役に揃えた作品。全然似てないキャスティングの4人姉妹の話を是枝
-
-
『ツレがうつになりまして。』鬱を身近に認知させた作品
鬱病を特別な人がなる病気ではなく、 誰をもいつなりうるか分からな事を 世間に
-
-
それを言っちゃおしまいよ『ザ・エージェント』
社会人として働いていると「それを言っちゃおしまいよ」という場面は多々ある。効率や人道的な部分で、これ
-
-
『父と暮らせば』生きている限り、幸せをめざさなければならない
今日、2014年8月6日は69回目の原爆の日。 毎年、この頃くらいは戦争と
-
-
『レヴェナント』これは映画技術の革命 ~THX・イオンシネマ海老名にて
自分は郊外の映画館で映画を観るのが好きだ。都心と違って比較的混雑することもなく余
-
-
『アベンジャーズ/エンドゲーム』ネタバレは国家を揺るがす
世界中で歴代ヒットの観客数を更新しつつある『アベンジャーズ/エンドゲーム』。マーベル・シネマ
- PREV
- 『2001年宇宙の旅』名作とヒット作は別モノ
- NEXT
- 『ブラック・スワン』とキラーストレス