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『俺の家の話』 普通って何なの?

公開日: : 最終更新日:2021/04/02 ドラマ, 映画:ア行

現在放送中の『俺の家の話』がおもしろい。脚本がクドカンこと宮藤官九郎さんで、主演は長瀬智也さん。自分が若かった頃人気だった『池袋ウエストゲートパーク(IWGP)』をすぐ思い出す。クドカンは自分と同年代。もうみんないいおじさんの年齢だ。

自分はなぜか、小さな頃からおじさんが活躍する話が好きだった。若者の話はなんだかフワフワし過ぎてうるさいし、青臭さが恥ずかしくて観ていて照れてしまう。いま、クドカン作品も中年が主人公になってきたのは、単にこの世代がスライドして年齢を重ねてきたからに過ぎない。それでも中年の悲哀を描いた作品はホッとする。登場人物たちがそれなりに酸いも甘いも噛み分けている。熱情のまま行動しないので安心する。

主人公の観山寿一はプロレスラー。実家は能の宗家。彼は伝統芸能の世襲が辛くて、別の業界に逃げ出した。西田敏行さんが演じる人間国宝の父・寿三郎の認知症をきっかけに自家へ戻ることとなる。寿一はバツイチで、発達障害の息子がいる。要介護の父親と障害のある息子のいる生活。本来なら暗くて重い悲劇になるプロット。クドカン作品はそうはならない。明るいホームコメディになってる。

クドカン作品の魅力は、テーマが深刻なのに、それをそのまま描かないところにある。物語の根底には、父子の確執と死が流れている。それでも笑い飛ばそうとするユーモアのセンス。「暗くても明るくても、介護は介護だから」と本編のセリフにもある。人生で過酷な状況にたたされたとき、どれだけポジティブに受け止められるかによって、のちの生き方は変わってくる。がん患者を扱う医師の本によくあるエピソードで、余命幾ばくかの宣告を受けたとき、「がーん」なんて冗談を言ってのける人は、病気の進行が遅いらしい。笑うことは人間らしさの象徴。笑いはいちばんの良薬。だから人生に笑いがなくなった時は要注意。

伝統芸能の世界では、遊びも芸の肥やしと正当化されがち。寿三郎の女癖の悪さの精算も含めて、この家には問題が多い。でも果たして「問題のない家」なんてこの世に存在するのだろうか。どこの家にだって、なんらかの問題は持っているもの。それはそれぞれの家で異なる問題。表に出ることなく涼しい顔をみんな普通を演じている。たぶん世間で言う「普通の家」の概念は、なにひとつ「問題がない家」のことを言うのだろう。問題がそこにあるのに向き合わないことも「問題がない家」と同義語。それは臭いものにふたをしただけの勘違い。「問題がない家」が「普通の家」ならば、家の問題は家の中だけで留めて他言無用の秘密となる。どの家も「問題がない家」と、「普通の家」を装う。それではとても生きづらい世の中となってしまう。

観山家が明るいのは、そもそも最初から問題をみんなが受け入れているところ。「自分はなんの問題がない」「自分は常識的な人間だ」と言い切れてしまう人ほど怖いものはない。自分の感覚を、ときには疑う勇気も必要。

寿一は「自分はこうあるべき」と無理をして追い込んで生きてきた。中年になって、それなりの失敗を重ねる。自分がなるべきだと思っていた自分と、周囲が望んでいた自分の姿に乖離があったことに気づいていく。人生は失敗の繰り返し。どこかでそれを認めて立て直していくことができなければ、棺桶に片足突っ込んだ時に、後悔ばかりが浮かんでしまう。過去はどうでもいい。未来ももしかしたらどうでもいい。今現在、自分が幸せかどうかを見返る勇気。果たして人生を楽しんでいるかどうか。個々が幸せな人生を送ることが、大きな意味で世界平和へとつながっていく。

認知症で要介護だろうが、障害があろうが、家族は家族。相手を尊重する気持ちが、明るさへとつながってくる。人の尊厳が失われがちな現代社会。唯物主義ではあまりに殺伐としていてつまらない。相手を尊重することは、愛情の現れでもある。愛と言う言葉は、日本人にとっては、ファンタジックな意味合いしかないけど、互いを尊重することが愛ならば、なんだかしっくりしてくる。

コロナ禍で、どこの家も自分の家と向き合う機会が増えてきた。ドラマはコロナ禍をうまく使った演出もたくさん駆使されている。忙しさにかまけて、足元を見て見ぬふりをしていた日本人たち。コロナ禍で、さまざまな放置されっぱなしの膿が可視化されてきた。これらはコロナのせいで悪化したのではなく、いつもそこにあって、燻っていた問題ばかり。ここで見えてきた問題に向き合えるかどうかが、大きな分かれ道。

問題は早い段階で向き合って、受け入れた方が、修復するのが簡単だ。「自分は普通だ」と言い切るのはやめておこう。「自分はこうあるべきだ」と、自分をいじめるのもやめにしよう。ダメでもいいじゃないか。クドカンのドラマは、愛すべきダメ人間の症例図鑑。ドラマのテーマはものすごく地味。クドカン作品は視聴率が低くて有名。そしてそれに反して評価が高いのも毎度のこと。回を重ねるごとに、ドラマ『俺の家の話』が楽しみになってくる。最初はいけ好かなかった登場人物たちも、いつの間にか好きになってしまっている。このドラマの行き着く先は「死」なのだけれど、それでもこの登場人物たちともっと時間を過ごしたくなっている。

誰だっていつかは必ず死ぬ。「死」も生きる上では大問題。でも「死」を意識しているからこそ、人は一生懸命生きることができるのも確か。コロナ禍という未曾有の疫病の時代、家族や人生に向き合うのはとても大事なこと。それもユーモアたっぷりに、笑いの要素を探しながら進んで行けたら、人生はそれも楽しい。

問題があるのが普通でないのなら、普通でなくて結構。いっけん暗いと感じるところへ目を向けていくことは、行為としてはけっして暗くはない。問題を受け入れて、改善していく努力をする。それは建設的で、もっとも明るい行動だ。人生は短い。楽しんでなんぼ。人間らしいユーモアを持って前へ進みたい。

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