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『THIS IS US』人生の問題は万国共通

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 ドラマ, 映画:タ行

アメリカのテレビドラマ『THIS IS US』を勧められて観た。ゴールデングローブ賞やエミー賞を獲ったドラマというので興味が湧くが、テレビドラマシリーズは何せ長いので、観はじめるまで気合いを入れないといけない。途中挫折してしまうかもしれないし。

家族を題材にしたこのドラマ。地味なテーマにも関わらず、場面はスピーディーに展開し、あたかもアクション作品やミステリー作品のような演出テクニックが駆使されている。まったく飽きさせない。

登場人物が多い群像劇なので、関係のない複数の話が同時進行しているのかと思いきや、途中で、ひとつの家族の物語だと気付いた時に驚かされる。時系列を意図的にバラバラにズラした構成。このアイデアだけでも、テレビドラマの表現法はまだまだあるのだと感じさせられる。

『36歳、これから』と、邦題にはサブタイトルがついている。メインの登場人物はみな36歳。なぜ36歳?と思いがちだが、振り返れば自分もちょうど36歳で人生の転機があった。人生において意味がある年齢なのだろう。もう若さを売りにはできない。でもまだまだ年寄りとは言えない。社会でも中堅の微妙なポジション。世代交代の時期でもあるし、いろいろ問題も起こってくる。

マンディ・ムーア以外の出演者は、自分の知らない役者さんばかり。果たして登場人物を覚えられるか心配だったが、あまりに個性的で、濃いキャラクターばかり出てくるので、混乱するどころか、楽しくて仕方がない。

作品のテーマは、育児・出産・結婚・仕事・差別に親の介護、そして死……と、身近なものばかり。ちょっと前なら、こんな地味なテーマでは、観客は興味を示さなかっただろう。アメリカも社会が不安定なぶん、こういった普遍的なテーマこそ、多くの観客の共感を得るのだろう。

物語はある若夫婦の出産場面から始まる。子どもが生まれるときの不安な気持ちは、親になった人なら痛いほど分かる。

羨ましく感じたのは、病院で主治医が妊婦につきっきりになってくれているところ。日本の病院は施設や人員が足らず、妊娠しても病院のベッドを確保するのすら困難。主治医がじっくりついて面倒みてくれるなんて、夢のまた夢。なんとなくベルトコンベアに乗って、生産されていくような誕生場面になってしまう。忙しさからか、医師と看護師の軋轢なんかが見えてきてしまうと、ただでさえ不安なのに、更にそれがつのる。重要な仕事に人材がいないというのはとても問題だ。

本編での会話で、「育児が始まってからロクに本も読めない」というのがある。この数年間、『ミザリー』を最初の3ページからぜんぜん先に進まないと。スティーブン・キングなんて、読み始めたらサクサク進みそうな作品だ。日々24時間、赤ん坊の世話につきっきり。自分の時間なんか、とれやしない。やっとこさ時間ができて、さあ本でも読もうとすると、日頃の睡眠不足ですぐ寝てしまう。

自分は独身時代は、毎日浴びるように映画を観ていた。ちょっと時間ができれば、映画館に入ってしまう。家のテレビは絶えずついているが、放送してる番組を観るのではなく、映画がいつも流れていた。まさに「三度の飯より映画好き」。年間200本以上は観ていた。

それが、子どもが生まれると同時に、まったく映画が観れなくなった。その頃の5年間くらいのヒット映画が、完全にブラックアウトしてしまっている。かつて「映画を観なければ、死んでしまう」と思っていたほどの自分。実際には映画を観ずとも死にやしない。当たり前のことに気づかされた。

人生において趣味は大事だが、それよりも大事なものがある。『THIS IS US』の主人公たちは、子どもが親ばなれしていくにつれ、新たに子作りしないかとさえ提案している。あんなに大変だったにもかかわらず。単純に作中の人物たちを尊敬してしまう。

ドラマや映画などの特徴で、恋愛モノといえば、若い男女が出会い結ばれるまでの「ボーイ・ミーツ・ガール」というジャンルが圧倒的に多い。フワフワっとしたものや、妄想的なものは、わかりやすいので商売になりやすい。

でも人生の大半は「ボーイ・ミーツ・ガール」以降から。日本での映画やドラマのメインの客層は若い学生か老人しかいない。どうしても集客率の高い学生メインに考えると、学生の恋愛モノばかりになってしまう。相手にああ言われたい、こんなことしてもらいたいの妄想を、手を替え品を替えつくっている。限界がある。

『THIS IS US』は、大人の鑑賞に耐えうる理論的な作品だ。欧米の作品は情に訴えかけてこない。ドライな演出にもかかわらず、毎回泣かされてしまう。こんな厳しい世の中だからこそ、センチメンタルはもうけっこう。ドラマだって、シビアに現実と向き合いたい。

自分はこのドラマの後半、鑑賞のペースが遅くなってしまった。登場人物たちに共感してしまったからだ。時系列をバラバラにしている構成だからこそ、この先死んでしまうのが分かっているキャラクターもいる。できることならこのまま誰も死んで欲しくない。先が観たいけど観たくない。

ふとラストは尻切れトンボで終わってしまった。なんでもセカンドシーズンがあるとか。バラバラのストーリーの隙間を膨らませて、更なるエピソードを構築していくのだろう。

アメリカのテレビドラマは、人気が出ればすぐセカンドシーズン、サードシーズンと続いていく。最初のシーズンを作っているときに反響をリサーチして、続編を作るか、このまま終わらせるか舵をとるのだろう。

ひと昔前のドラマだと、途中でセカンドシーズンが決定した作品は、本当に後から付け足したのが分かってしまうような、蛇足な展開になりがちだった。今のドラマは、どこまで先の展開を予想して作り始めたのかわからないくらい、シリーズ構成が巧みになった。

企画の出発時点では、どこに着地するかわからないまま走り出さなければならない。あらゆるパターンを想定しながらシリーズ構成していく。新しい物語の作り方だろう。

こういったドラマの構築法は、最近急速に進化した。これから研究もどんどんなされて、利点や弊害がみえてくるだろう。商売あっての物語の作り方だ。

自分の個人的な好みとしては、物語のゴールがどんなものかは、作者がしっかりと分かって欲しい。なんだかアメリカのテレビドラマは、ロールプレイング・ゲームみたいだ。時として物語は、作者の計算を無視して展開していくこともある。作品は生きていると解釈するならば、これはこれでアリなのかも知れないけど。

しかし劇中で、ロン・ハワード監督が本人役で登場したのにはブッとんだ。次回作は『スターウォーズ』のスピンオフ『ハン・ソロ』。なんで彼が出てきたんだろ?

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