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『アリオン』 伝説になれない英雄

公開日: : アニメ, 映画:ア行, , 音楽

安彦良和監督のアニメ映画『アリオン』。ギリシャ神話をモチーフにした冒険活劇。いまアリオンという名前を聞くと、トヨタの車だと連想してしまう。なんでもアリオンという名前は、ギリシャ神話に登場する駿馬だとか。このアニメに登場するアリオンは少年。作中に登場するキャラクターの名前は、みなギリシャ神話に基づくもの。内容はギリシャ神話のアニメ化ではなく、まったくのオリジナルなストーリー。

このアニメ映画を久しぶりに観た。安彦良和監督は『機動戦士ガンダム』のファーストシリーズのメインスタッフ。小学生の自分がガンダムが好きだったのは、メカニックのカッコ良さよりも先に、安彦監督の描くキャラクターの絵が好きだったから。たとえ安彦監督がキャラクターデザインや監督で参加していても、作画監督を別のスタッフが担当していると、ぜんぜん絵のタッチが変わってしまう。親しみやすい安彦監督の絵柄は、模写するのが結構難しい。線が少ないわりにはカーブが多く、とにかく手の描写が特徴的。今となっては古いキャラクターデザインの部類だろうけど、この絵の魅力で押し切られてしまうのは否めない。自分は安彦良和監督の絵がとても好き。

この映画の音楽は久石譲さんが担当している。スタジオジブリの『風の谷のナウシカ』の直後の1985年制作の『アリオン』の音楽。区別がつかないほどそっくりさん。まあ一時期のジョン・ウイリアムズの音楽も、どれがどれだか判別困難だし、作家性といえばごもっとも。きっと仕事依頼も「以前の作品のアレみたいなものをやってください」と求められるはず。アニメ映画『アリオン』の絵はガンダムで、音楽はナウシカという、当時のアニメファンとしては夢のような、もうそれだけでなんでも許せてしまう高級ブランド。

映画『アリオン』は、友人と一緒に新宿スカラ座に観にいった。現在ユニクロがある場所ら辺に劇場はあった。なんでもこの劇場は2007年に閉館したとか。600人ぐらい収容できるそこそこ大きな映画館。一緒に映画を観にいった友人は、クラスでもいちばん成績の良かった人。自分は学校の勉強はてんでダメだったが、なぜか優等生の友人が多かった。優等生の人は、紳士的な大人っぽい人物が多かった。だからこそ安心して友人になれたのだろう。小中学校時代は、様々な種類の子どもたちが一斉に会する。高校生になれば、本人の成績や家庭の経済状況で、学校に集まってくる生徒たちのタイプは似てくる。優等生の友人が欲しければ、自分も優等生になる努力をすればよかったのだが、どうもそこのところが当時の自分は理解していなかったらしい。

安彦良和監督によって書かれた原作漫画は、当時アニメーターだった彼の初めての漫画作品。漫画のコマ割りも、アニメ的な動きを強調したレイアウト。絵なのにフィルムっぽいところが、普通の漫画と違って面白かった。

映画観賞後、友人と一緒に原作との違いを語り合った。友人も原作の『アリオン』は読んでいた。その友人とは中学卒業後、別の高校に進学してもしばらく会っていたと思う。勉強のできる人はみな、勉強が楽しくて仕方がないと言う。成績のために勉強しているのではなく、楽しいから勉強している。世のニーズと自分の趣味がマッチすることほど幸せなことはない。

アニメ『アリオン』を観ると、いろいろなことが思い出されてくる。どうやら自分はこの映画を映画館で観た後も、何度もビデオで観直していたようだ。このアニメ映画だけ観てしまうと、話の展開が早すぎてなにが起こっているのかよくわからない。世界観やキャラクター設定が複雑すぎる。せめて相関図が欲しい。そうやって「わかりづらいからこそ面白いんだ」と、オタク心をくすぐられるのも情けない。でもちょっと登場人物たちが記号的すぎてしまって、感情移入しづらい。

主人公のアリオンは、出自の良さと人並外れた身体能力を見込まれて、刺客として教育されていく。なんとも哀れな存在なのだが、安彦監督の絵は、凛々しい青年の姿としてアリオンを描いている。男女問わず誰もが一目で好きになってしまうようなイケメンキャラ。お相手のヒロイン・レスフィーナも超絶美少女。観客は無条件でこのベストカップルを応援したくなる。でも忘れてはいかないのは、この美男美女の手は、ドロドロに血で染まっていること。

このアニメ映画以降も、ファンタジー作品は世界中で数多に制作されてきた。むしろファンタジー映画の先駆的存在。戦争に対する考え方も1985年当時とは随分変わってきた。大勢人を殺してきた人物が、たとえ生き残ったとしても、明るく豊かな生活に戻ることができるのかはわからない。当時の感覚では、美男美女なら許されてしまったのかもしれないが、なんとも利己的な考え方だ。ルッキズムの魔法。絵が魅力的だから、物語の違和感もそっちのけでグイグイ引き込まれてしまう。

劇中でもアリオンは、手練れの優れた兵士ではあれど、いまいち活躍していない。敵陣主格までたどり着けても、ピンチにおちいり、誰かに助けられてトドメは別の人が刺す場面の繰り返し。英雄になりきれない英雄。ルックスが良いというだけで観客は、この哀れな主人公を嫌いになることはない。イケメン恐るべし。

実際の歴史もこんなふうに、権力に利用されてボロボロになっていく若者の姿でいっぱいなのだろう。『アリオン』は、当時ありそうでなかった神話や歴史戦記ものの再現もの。当時観たかった映像をふんだんに創り出したのだろう。ビジュアル優先のカッコ良さ。戦争がファンタジーで描かれるにデリケートさが求められていくのは、もう少し後の2000年代になってから。アニメに文学的要素を取り込んだ挑戦は、今観ても好感が持てる。

幸せになれるはずもない主人公に希望を託す。画力という力技でみせてしまうアニメ映画。あんまり話題にならない作品だけど、自分は嫌いじゃない。一時期アニメは引退すると発言していた安彦良和監督。来年は『機動戦士ガンダム』の新作アニメを監督するらしい。ご本人からすると、もしかしたら駆り出されてしまったのかもしれないけれど、ファンとしては楽しみな限り。

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