*

『バードマン』あるいはコミック・ヒーローの反乱

公開日: : 最終更新日:2015/11/08 アニメ, メディア, 映画:ハ行

t02200165_0800060013290475782

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の

新作がコメディと聞いて、まず疑った。

生真面目な完璧主義者のイメージが強い
イニャリトゥ監督がコメディだって?
ふたを開けてみると、
コメディはコメディだけど
ブラックコメディだった!!
やっぱりね。

全編ワンカット長回しだとか、
サントラがドラムの即興だとか、
どうしても技術的なところに
ひっぱられてしまうのだが、
映画が始まってしまえば、
それは作品の魅力の一要素にすぎない。

この笑えないヒリヒリと突き刺さるコメディ。
完全に今のアメリカカルチャーの
コミックやCGにおされ、
ブロックバスター化された
エンターテイメントに対する皮肉。

キャスティングもみんな、
スーパーヒーローもので
痛い目にあった役者ばかり。
もう現実か虚構かサッパリわからなくなる。

主人公はかつてヒーローもので
一世風靡したにもかかわらず、
後の役者人生はパッとしない俳優。
起死回生でアート作品の
戯曲の主演演出を試みるが、
ストレスで幻覚を見続けている。

笑える要素は、
追いつめられた登場人物達が、
現実逃避の幻覚を
見続けるところなのだが、
これは映画的で
驚きのイマジネーション。
予告編でそこばかりが
フィーチャーされているのが難点。
予告編が作りづらい映画なのだろう。

で、この幻覚のシーン。
人物達の心の開放でもあり、
それは死とも隣り合わせ。
美しい音楽と空を飛ぶ場面がでてくると、
自分はヒヤヒヤしっぱなし。
イニャリトゥ監督なので、
いきなりグシャリと
グロテスクな死の描写に
いくんじゃないかと……。

役に殺されるとうのは
ダーレン・アロノフスキー監督の
『ブラック・スワン』と同じテーマ。

この映画は、
今のアメリカの軟弱なカルチャーを
おもむろに批判している。

そんな映画が作れてしまうのも凄いし、
そんな映画が評価されるのも凄い。
そしてなにより、
役者達が自虐的にもなりかねない
自分とあまりに似すぎた状況の
登場人物を演じるという、
器量がデカいのだか、
トチ狂っているのか分からない
危うさがこの映画の最大の魅力。

この限界ギリギリの精神状態を、
手放しで笑えるのは、
なかなか知的センスを試される。

見終わったあと、笑ったというよりは
緊張して肩が凝ってしまった自分は、
まだまだ修行が足りないようです。

関連記事

『トゥモロー・ワールド』少子化未来の黙示録

人類に子どもが一切生まれなくなった 近未来を描くSF作。 内線、テロ、人権無視、

記事を読む

『おさるのジョージ』嗚呼、黄色い帽子のおじさん……。

もうすぐ3歳になろうとするウチの息子は イヤイヤ期真っ最中。 なにをするにも否定するので

記事を読む

『炎628』戦争映画に突き動かす動機

『炎628』は日本では珍しい旧ソビエト映画。かつて友人に勧められた作品。ヘビーな作品なので、

記事を読む

『ドリーム』あれもこれも反知性主義?

近年、洋画の日本公開での邦題の劣悪なセンスが話題になっている。このアメリカ映画『ドリーム』も

記事を読む

『さとうきび畑の唄』こんなことのために生まれたんじゃない

70年前の6月23日は第二次世界大戦中、日本で最も激しい地上戦となった沖縄戦が終了した日だそ

記事を読む

愛すべき頑固ジジイ『ロボジー』

2015年のゴールデンウィーク映画で『龍三と7人の子分たち』という映画があって、ジジイ達のコ

記事を読む

『コクリコ坂から』横浜はファンタジーの入口

横浜、とても魅力的な場所。都心からも交通が便利で、横浜駅はともかく桜木町へでてしまえば、開放

記事を読む

実は主人公があまり活躍してない『あまちゃん』

NHKの視聴率稼ぎの看板番組といえば 『大河ドラマ』と『朝の連続テレビ小説』。 『大

記事を読む

『ミニオンズ』子ども向けでもオシャレじゃなくちゃ

もうすぐ4歳になろうとしているウチの息子は、どうやら笑いの神様が宿っているようだ。いつも常に

記事を読む

『サウルの息子』みせないことでみえてくるもの

(C) 2015 Laokoon Filmgroup[/caption] カンヌ映画祭やアカ

記事を読む

PAGE TOP ↑