*

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』虐待がつくりだす歪んだ社会

公開日: : 最終更新日:2018/06/02 映画:ハ行,

http://wwws.warnerbros.co.jp/fantasticbeasts/

ウチの子どもたちも大好きな『ハリー・ポッター』シリーズ。こわいこわいと言いながらも、「エクスペクト・パトローナム!」とか魔法の呪文を唱えてあそんでる。映画版の当初はクリス・コロンバスが監督担当で、キッズムービーの可愛らしいタッチだった。シリーズも回を重ねるごとに、だんだんと暗く重い展開へとなっていった。シリーズ全8作のうち、後半4作はデビッド・イェーツがメガホンをとっている。

この『ハリー・ポッター』のスピンオフの新シリーズ『ファンタスティック・ビースト』もデビッド・イェーツが監督を続投している。どうやら彼の演出が、原作のイメージに近いと定着したらしい。しかも『ファンタスティック・ビースト』は、映画のための書き下ろし。原作者のJ.K.ローリング自ら脚本を書いている。当初は三部作の予定だったが、手ごたえを感じたのか、後に五部作になると発表した。こりゃ長い旅路になりそうだ。出演者も健康に気をつけなけりゃならないだろうな。ついつい要らぬ心配をしてしまう。

スタッフは引き続きなので、作品世界のフォーマットはすでに完成している。人気もあるし、『ハリー・ポッター』は見事なシリーズ構成だったし、観客はただ信頼して観ていればいい。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』は、『ハリー・ポッター』から100年時代が遡る。オリジナルシリーズを知っても知らずとも楽しめる。リンクネタもあるけれど、さほど気にならない。同じ世界観での、まったく別の物語。舞台もイギリスからアメリカに移ってる。

新シリーズの第1話なので、新たな設定やら登場人物紹介がやたら丁寧。少しまどろっこしくも感じてしまうが、ここで把握しておかないと後々の展開で楽しめる度合いが変わってきそうだから辛抱辛抱。どこに伏線が忍ばせてあるかわからったもんじゃない。しばし忍耐強く付き合いましょう。

全体的にコメディタッチなんだけど、きっとこれもはじめのうちだけなんだろな。ちなみに幼稚園児の息子は、主人公ニュート・スキャマンダーのコートのポケットに隠れてる木のビーストが気に入ったらしい。

敵は相変わらず排他的な考えの集団。魔女狩りを彷彿させる。黒い魔力は虐待された子どもの心の化身。社会悪へのメタファー。

原作者のローリングはシングルマザー。女手一つで育児をしながら、『ハリー・ポッター』の執筆をしていた苦労話はあまりに有名。子どもへの虐待は、貧困が原因のひとつにある。ローリング自身も、いつ自分も虐待の加害者になりかねないと怯えていたことだろう。彼女の作品は、常に子どもに対する虐待がテーマにある。ハリー・ポッターも、その敵対するヴォルデモートも、幼少期に虐待を受けている。似た境遇の両者が、善と悪に別れることに意味がある。

人は誰かに愛されている自信がないと、他者に批判的になる。排他的だったり偏った思想に走る人は、多かれ少なかれ自分自身が愛せていない。そんな人に限って愛を軽々しく口にしたりする。相手の意見が聞けないので、より良い世の中になるための建設的な話し合いがなかなかできない。

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』の中で、悪役のヴォルデモートがハリーを倒したと早合点する場面がある。ヴォルデモートが「ハリー・ポッターが死んだ!」と狂喜する。演じるレイフ・ファインズは、本当に無邪気にハリーの死を、喜びはしゃいでる。特殊メイクで顔が隠れてるのに、キラッキラした笑顔が伺える。だからハリーが死んでなかったと知ったとき、真に悲しそうな表情を浮かべる。ヴォルデモートにとっては、世界を暗黒に染めることは、崇高な正しい行いでしかない。

もし人の上に立てる才能がある者の根底がズレていたら、社会は真っ逆さまに悪い方へ向かっていく。そのことの表れ。まさにヒトラーも、幼少期に虐待を受けていた。

子どもが悪いんじゃない。子どもを育む環境が大事なのだ。ローリングの声なき声が聞こえてくる。

今後この『ファンタスティック・ビースト』も社会問題をどんどん描いていくことだろう。アメリカが舞台だし、多種族の確執も移民問題になぞらせていくかも知れない。

今後何十年も読み継がれ観継がれていくであろう作品の誕生に、リアルタイムで立ち会えることの楽しさ。数十年後、今の時代の雰囲気を伝える媒体になったとしたら、果たして次世代の人たちは、この作品を通して如何に現代社会を読み解くのだろうか。

第2話は2018年の5月公開になるらしい。今シリーズは、成人した魔法使いの物語。コリン・ファレルやジョニー・デップなど、スター俳優の起用で混乱する。なんでも次回作では、若き日のダンブルドアも登場して、ジュード・ロウが演じるとか。前作でダンブルドアを演じたリチャード・ハリスやマイケル・ガンボンにぜんぜん似てないぞ! しかもヤング・ダンブルドアって言っても、ジュード・ロウ、中年なんですけど。ダンブルドアは『ハリー・ポッター』の時代では150歳の設定らしいから、まあ中年でもいいのかな? イケメン中年スターが多々キャスティングされるのは、もしかしてローリングの趣味なのかしら?

大人から子どもまで、万人が楽しめて、社会風刺も交えた深みのあるエンターテイメント・シリーズの始まりだ。みんなでワクワクして祝福しようじゃありませんか。

関連記事

『境界のRINNE』やっぱり昔の漫画家はていねい

ウチでは小さな子がいるので Eテレがかかっていることが多い。 でも土日の夕方の、青年向け

記事を読む

『ツレがうつになりまして。』鬱を身近に認知させた作品

鬱病を特別な人がなる病気ではなく、 誰をもいつなりうるか分からな事を 世間に広めるきっか

記事を読む

『はじめて投票するあなたへ、どうしても伝えておきたいことがあります。』って、はじめてじゃないけどね

7月10日に参議院選挙がある。今回から選挙権が18歳以上に引き下げになる。それに対して発売さ

記事を読む

『猿の惑星:新世紀』破滅への未来予測とユーモア

2011年から始まった『猿の惑星』のリブートシリーズ第二弾にあたる『猿の惑星:新世紀』。前作

記事を読む

『ベイビー・ドライバー』洗練革新されたオールドファッション

http://www.bd-dvd.sonypictures.jp/babydriver/[/ca

記事を読む

『沈黙 -サイレンス-』閉じている世界にて

©2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.[/captio

記事を読む

『フラガール』生きるための仕事

史実に基づいた作品。町おこしのために常磐ハワイアンセンターを設立せんとする側、新しいものを拒

記事を読む

『鉄道員』健さんなら身勝手な男でも許せちゃう?

高倉健さんが亡くなりました。 また一人、昭和の代表の役者さんが逝ってしまいました。

記事を読む

『3S政策』というパラノイア

『3S政策』という言葉をご存知でしょうか? これはネットなどから誕生した陰謀説で都市伝説のよ

記事を読む

負け戦には精神論が常『ヒトラー 〜最期の12日間〜』

「欲しがりません勝つまでは」 戦後70年たった今となっては、こんな我慢ばかりを要求する言葉

記事を読む

『レゴバットマン/ザ・ムービー』男のロマンという喜劇

http://wwws.warnerbros.co.jp/legob

『鑑定士と顔のない依頼人』人生の忘れものは少ない方がいい

映画音楽家で有名なエンニオ・モリコーネが、先日引退表明した。御

『フェイクニュース』拮抗する日本メディア

https://www.nhk.or.jp/dodra/fakene

『否定と肯定』感情を煽るものはヤバい

http://hitei-koutei.com/[/caption]

『聲の形』頭の悪いフリをして生きるということ

「町山智浩の映画ムダ話」https://tomomachi.stor

→もっと見る

PAGE TOP ↑