映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』
クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネットを通して自分の表現の企画実現のために、一般に投資を投げかけるものである。一般の人でも、共感できるクリエーターのパトロンになれるわけです。そのクラウドファンディング史上最大の3,600万円というお金が集まった『この世界の片隅に』のアニメ化への資金ぐり。この作品を愛している人が多いことが伺われます。
『この世界の片隅に』は、こうの史代さんのマンガが原作。第二次大戦中の広島を舞台に、市井の人々の淡々とした生活を優しいタッチで描いている。こうの史代さんは前作『夕凪の街 桜の国』で原爆にについて描いていました。この作品も名作で実写映画もされました。『この世界の片隅に』は、戦争という暴力の狂気を直接的に描かないという、ものすごく知的な作品です。
静かな作品なので、映像化されるのなら実写だろうと思っていました。そしたら2011年に北川景子さん主演でドラマ化されていたのね。でも雰囲気がちょっと違う。センシティブな作品ゆえ、根幹を掴み損ねると、ただただ退屈な作品になってしまいかねない。諸刃の刃のような作品です。
日本は原作付映像化が大好き。むしろオリジナルで作品を作りたがる欧米とは大違い。原作がヒットしているという保証がなければ、日本の企業はなかなかお金を出してはくれない。原作の揺るぎないヒットがあってこそ、映像化への切符が手に入るのが日本のエンタメ事情なのです。悪く言えばオリジナルで企画を通す勇気が日本にはないのです。自分は原作があるものの映像化、ましてやマンガ原作のアニメ化にはあまり意味を感じないと思っています。両者があまりに似通ったメディアなので、焼き直す意味がよくわからない。
今回、クラウドファウンティングで出資者が多勢集まった。ただ3,600万円では劇場用アニメは作れない。どういった経緯でまずクラウドファンディングから資金集めを開始するのに至ったのか分からないが、『この世界の片隅で』くらいの作品なら、メジャー作品として十分企業がお金を出してくれそうに思えそうなのだが、そうならなかったことに違和感を感じます。
「日本が世界に誇るアニメ・マンガ」とメディアではこぞってあおり立てているけれど、アニメの現場はブラック中のブラックで、今後存続は難しい状況。日本の企業もなかなか作品づくりの企画に耳をかしてはくれていない。だから『この世界の片隅に』ですら、暗礁に乗り上げてしまったのだろう。クラウドファンディングで話題づくりをして、それで企業を動かそうという作戦なのかも知れません。もうそれくらい日本で映画を作るのは難しいことなら、本当に嘆かわしい。
今回、普段制作段階ではなかなか一般に公開されることがない、制作途中の絵コンテやレイアウト画がみれた。原作に忠実な映像化がされそうで、先ほどマンガ原作のアニメ化を否定的に言ったにもかかわらず、期待してしまう。作品の根幹を変えずにいて欲しいものです。
これだけの名作なので、映像化はやっぱり楽しみです。
関連記事
-
-
『死霊の盆踊り』 サイテー映画で最高を見定める
2020東京オリンピックの閉会式を観ていた。コロナ禍のオリンピック。スキャンダル続きで、開催
-
-
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』アメコミみたいなアイツ
トム・クルーズが好きだ! 自分が映画を観るときに、監督で選ぶことはあっても、役者で決めることはほとん
-
-
『未来少年コナン』 厄介な仕事の秘密
NHKのアニメ『未来少年コナン』は、自分がまだ小さい時リアルタイムで観ていた。なんでもNHK
-
-
『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験
今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが獲得した。クラスナホルカイ・ラ
-
-
『ルックバック』 荒ぶるクリエーター職
自分はアニメの『チェンソーマン』が好きだ。ホラー映画がダメな自分ではあるが、たまたまSNSで
-
-
『俺の家の話』 普通って何なの?
現在放送中の『俺の家の話』がおもしろい。脚本がクドカンこと宮藤官九郎さんで、主演は長瀬智也さ
-
-
『ハイキュー‼︎』 勝ち負けよりも大事なこと
アニメ『ハイキュー‼︎』の存在を初めて意識したのは、くら寿司で食事していたとき。くら寿司と『
-
-
『ブラッシュアップライフ』 人生やり直すのめんどくさい
2025年1月から始まったバカリズムさん脚本のドラマ『ホットスポット』がめちゃくちゃ面白い。
-
-
『AKIRA』 ジャパニメーション黎明期
日本のアニメが凄いと世界に知らしめた エポックメーキング的作品『AKIRA』。 今更
-
-
『帰ってきたヒトラー』 これが今のドイツの空気感?
公開時、自分の周りで好評だった『帰ってきたヒトラー』。毒のありそうな社会風刺コメディは大好物
