社会風刺が効いてる『グエムル ー漢江の怪物ー』
韓国でまたMERSが猛威を振るっていると日々の報道で伝わってきます。このMERSを含めて自国の社会風刺も織り交ぜたポン・ジュノ監督の『グエムル ー漢江の怪物ー』。ハリウッドナイズされた軽やかなポン・ジュノ監督の演出は、のちにハリウッド進出の足がかりとなる大出世作と言ってもいい。
アメリカが漢江に流した有毒廃棄物が原因で、川の生物が奇形化してグエムルという怪獣となり、もの凄いスピードで人を襲いまくる。このアイディアの着想、実際にあった在韓米軍の不法廃棄の事件もあるし、日本のアニメ映画『WXIII 機動警察パトレーバー』からも発展させている。このグエムルに末娘をさらわれたソン・ガンホを父とする一家が、グエムルと対決するといった話。警察も軍隊も国も頼りにならないなら、自分たちで戦うしかない。まるで『七人の侍』のよう。家族の個性も一人ひとり魅力的に描かれているのもイイ。
最初のグエムルの襲撃で、末娘が殺されてしまったと号泣する家族の描写が興味深い。娘の遺影を前に一家がのたうち回って号泣してる。それをロングショットで長回しでとらえてる。最初のうちは家族の悲しみに共感するのだけれど、なにもそこまで大暴れして泣かなくてもって笑えてしまう。けっこうキワドい笑い。そう、ニュースを見ていつも気になるのは、韓国で大事故が起こったときに、家族がものすごく号泣したり、芝居がかったくらいにポーズをとっている姿。メディアも絵になるから、どんどんそんな映像を流すのだろうけど、感情をここまで大げさに表現するのは日本人にはあまりない。日本と言えば、悲しさも悔しさもグッとこらえる姿に、どうしても共感と知性を感じてしまう。国が違えば感情表現も違うんだなと思っていたが、このポン・ジュノ監督はそれこそ見事に風刺している。やっぱり韓国人もヘンだと思っているのね。
グエムルに感染性があるとメディアが報道すれば、街行く人はみなマスクをつけ、車が雨水をはねたらパニックになって騒ぐ。このヒステリックに情報に踊らされている雰囲気、日本人も苦笑です。これやりたかったんだろうなと、作り手のニヤニヤしている姿が浮かぶ。
単純明快な特撮アクション映画ではあるけれど、要所要所に社会風刺を織り交ぜているところに、知的センスを感じます。SFやファンタジーは、やはり世を映す鏡であったり、警鐘を鳴らす要素がないとつまらない。こういったちょっとイジワルな視点がないと、娯楽もただのスカスカなハリボテになってしまう。自粛ムード漂う最近の日本では、娯楽映画で風刺表現なんて、なかなかできないんでしょうけどね。
関連記事
-
『モアナと伝説の海』 ディズニーは民族も性別も超えて
ここ数年のディズニーアニメはノリに乗っている。公開する新作がどれも傑作で、興行的にも世界中で
-
『BLUE GIANT』 映画で人生棚卸し
毎年年末になると、映画ファンのSNSでは、その年に観た映画の自身のベスト10を挙げるのが流行
-
『コジコジ』カワイイだけじゃダメですよ
漫画家のさくらももこさんが亡くなった。まだ53歳という若さだ。さくらももこさんの代表作といえ
-
『マイマイ新子と千年の魔法』 真のインテリジェンスとは?
近年のお気に入り映画に『この世界の片隅に』はどうしも外せない。自分は最近の日本の作品はかなり
-
『カメラを止めるな!』虚構と現実、貧しさと豊かさ
春先に日テレ『金曜ロードSHOW!』枠で放送された『カメラを止めるな!』をやっと観た。ずいぶ
-
何が来たってへっちゃらさ!『怪盗グルーのミニオン危機一発』
世界のアニメ作品はほぼCGが全盛。 ピクサー作品に始まり、 母体であるディズ
-
『推しの子』 キレイな嘘と地獄な現実
アニメ『推しの子』が2023年の春期のアニメで話題になっいるのは知っていた。我が子たちの学校
-
『ヴァチカンのエクソシスト』 悪魔は陽キャがお嫌い
SNSで評判だった『ヴァチカンのエクソシスト』を観た。自分は怖がりなので、ホラー映画が大の苦
-
『クラフトワーク』テクノはドイツ発祥、日本が広めた?
ドイツのテクノグループ『クラフトワーク』が 先日幕張で行われた『ソニックマニア
-
『黒い雨』 エロスとタナトス、ガラパゴス
映画『黒い雨』。 夏休みになると読書感想文の候補作となる 井伏鱒二氏の原作を今村昌平監督
- PREV
- 王道、いや黄金の道『荒木飛呂彦の漫画術』
- NEXT
- 『ラストサムライ』渡辺謙の作品選び