*

社会風刺が効いてる『グエムル ー漢江の怪物ー』

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, 映画:カ行

 

韓国でまたMERSが猛威を振るっていると日々の報道で伝わってきます。このMERSを含めて自国の社会風刺も織り交ぜたポン・ジュノ監督の『グエムル ー漢江の怪物ー』。ハリウッドナイズされた軽やかなポン・ジュノ監督の演出は、のちにハリウッド進出の足がかりとなる大出世作と言ってもいい。

アメリカが漢江に流した有毒廃棄物が原因で、川の生物が奇形化してグエムルという怪獣となり、もの凄いスピードで人を襲いまくる。このアイディアの着想、実際にあった在韓米軍の不法廃棄の事件もあるし、日本のアニメ映画『WXIII 機動警察パトレーバー』からも発展させている。このグエムルに末娘をさらわれたソン・ガンホを父とする一家が、グエムルと対決するといった話。警察も軍隊も国も頼りにならないなら、自分たちで戦うしかない。まるで『七人の侍』のよう。家族の個性も一人ひとり魅力的に描かれているのもイイ。

最初のグエムルの襲撃で、末娘が殺されてしまったと号泣する家族の描写が興味深い。娘の遺影を前に一家がのたうち回って号泣してる。それをロングショットで長回しでとらえてる。最初のうちは家族の悲しみに共感するのだけれど、なにもそこまで大暴れして泣かなくてもって笑えてしまう。けっこうキワドい笑い。そう、ニュースを見ていつも気になるのは、韓国で大事故が起こったときに、家族がものすごく号泣したり、芝居がかったくらいにポーズをとっている姿。メディアも絵になるから、どんどんそんな映像を流すのだろうけど、感情をここまで大げさに表現するのは日本人にはあまりない。日本と言えば、悲しさも悔しさもグッとこらえる姿に、どうしても共感と知性を感じてしまう。国が違えば感情表現も違うんだなと思っていたが、このポン・ジュノ監督はそれこそ見事に風刺している。やっぱり韓国人もヘンだと思っているのね。

グエムルに感染性があるとメディアが報道すれば、街行く人はみなマスクをつけ、車が雨水をはねたらパニックになって騒ぐ。このヒステリックに情報に踊らされている雰囲気、日本人も苦笑です。これやりたかったんだろうなと、作り手のニヤニヤしている姿が浮かぶ。

単純明快な特撮アクション映画ではあるけれど、要所要所に社会風刺を織り交ぜているところに、知的センスを感じます。SFやファンタジーは、やはり世を映す鏡であったり、警鐘を鳴らす要素がないとつまらない。こういったちょっとイジワルな視点がないと、娯楽もただのスカスカなハリボテになってしまう。自粛ムード漂う最近の日本では、娯楽映画で風刺表現なんて、なかなかできないんでしょうけどね。

関連記事

no image

『誰がこれからのアニメをつくるのか?』さらなる大志を抱けたら

  「日本が世界に誇るアニメ」などという手前味噌な恥ずかしいフレーズも、すっかり世の

記事を読む

『アナと雪の女王2』百聞は一見にしかずの旅

コロナ禍で映画館は閉鎖され、映画ファンはストレスを抱えていることだろう。 自分はどうか

記事を読む

『クレヨンしんちゃん』 子どもが怖がりながらも見てる

かつて『クレヨンしんちゃん』は 子どもにみせたくないアニメワースト1でした。 とにか

記事を読む

『塔の上のラプンツェル』 深刻な問題を明るいエンタメに

大ヒット作『アナと雪の女王』もこの 『塔の上のラプンツェル』の成功なしでは 企画すら通ら

記事を読む

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』 サブカルの歴史的アイコン

1995年のテレビシリーズから始まり、 2007年から新スタートした『新劇場版』と 未だ

記事を読む

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している『世にも奇妙な物語』をすぐ思い

記事を読む

『ドラえもん のび太の宇宙英雄記』 映画監督がロボットになる日

やっとこさ子ども達と今年の映画『ドラえもん』を観た。毎年春になると、映画の『ドラえもん』が公

記事を読む

『シェイプ・オブ・ウォーター』懐古趣味は進むよどこまでも

今年2018年のアカデミー賞の主要部門を獲得したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・

記事を読む

『聲の形』頭の悪いフリをして生きるということ

自分は萌えアニメが苦手。萌えアニメはソフトポルノだという偏見はなかなか拭えない。最近の日本の

記事を読む

no image

『東のエデン』事実は小説よりも奇なりか?

  『東のエデン』というテレビアニメ作品は 2009年に発表され、舞台は2011年

記事を読む

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

→もっと見る

PAGE TOP ↑