*

『怪盗グルーのミニオン大脱走』 あれ、毒気が薄まった?

公開日: : 最終更新日:2021/03/10 アニメ, 映画:カ行, 映画館, 音楽

昨年の夏休み期間に公開された『怪盗グルー』シリーズの最新作『怪盗グルーのミニオン大脱走』。ずっとウチの子たちも観たいと言っていた。何を隠そう自分自身がこのシリーズの大ファンなので、観ないワケにはいかない。劇場で見逃していたので、レンタルにての鑑賞。

まず誰もがツッコミを入れたくなるのが、この邦題。原題は『Despicable Me 3』。『卑劣なオレさま』とでも言ったところか。怪盗グルーのことを言ってる。そもそも一作目でグルーは、とっくに泥棒を引退しちゃって怪盗グルーじゃなくなってる。ローカライズもほどほどにしないと、本編と折り合いがつかなくなる。

グルーの手下の黄色い小さな生き物たちミニオンの人気が上がってきたので、どうしてもタイトルに『ミニオン』と入れたい日本の配給会社。映画を観てあまりにミニオンが活躍しないので、ミニオン目当てで来た観客は詐欺にあったようで、ガッカリしちゃうんじゃないかしら? 本編はちっとも『ミニオン大脱走』じゃない。洋画ファンは、邦題がインチキでデタラメなのは、もう慣れっ子。

客引きにはミニオン人気にあやかって、どうしてもミニオン中心に宣伝したい気持ちがはやる。空回りが否めない。でも子どもたちは知っている。『怪盗グルー』シリーズの魅力は、ミニオンだけじゃないってことを。

ファースト・フード店のキッズ用メニューに、この映画のキャラクターのおもちゃが付いてくるキャンペーンがあった。何種類もあるおもちゃのほとんどがミニオン。子どもたちが狙うおもちゃはミニオンではなく、グルーの末娘のアグネス。あっという間にアグネスが店頭から無くなった。みんなすでにミニオンばかりには食傷気味。

『ミニオンズ』というミニオンが主人公のスピンオフ作品だってあるんだから、今回はメインにもってこない方が正しい。映画はホンスジのグルーが主役。このシリーズにもアグネスをはじめマーゴやイディスという他の娘たち、グルーの妻のルーシーやら、魅力的なキャラクターはたくさん出てくる。確かにミニオンはみんな好きだけど、だからといって他のキャラクターを完全無視しちゃうのはもったいない。この宣伝の仕方って、日本以外の他の国でも同じなのかしら?

本編を観てみたら、いままでのシリーズに比べて薄味な印象を受けた。『怪盗グルー』シリーズは、ファミリー向けなのに、シニカルなギャグが満載なのが特徴。出てくる人出てくる人みなキモチワルイ。とてもイジワルな視点。それが今回その毒気が少ない。人気が出るとクレームを恐れて表現がマイルドになるのか? それとも自分がこの作風に慣れてしまって、判断基準が高くなってしまったのか?

製作のイルミネーション・エンターテイメントは、内容で勝負するのではなく、あちこちに散りばめた小ネタで笑わせる作風。本編にチャチャを入れる役目はミニオンたちが担ってる。

本作ではサブキャラでしかないミニオンたち。必然的に出番は少ない。その少ない登場場面のほとんどが、予告編やらプロモーションで、映画公開前にほとんど観せてしまっていて、初見の場面があまりなかった。これから観ようとする映画の動画は、事前に検索しない方がいいらしい。

サントラは楽しくて仕方がない。常連のファレル・ウィリアムスは相変わらずカッコいい。敵が元子役のおじさんなので80年代ポップスがガンガン使われてる。『ベストヒットUSA』世代の我々親たちもグッとくる。合間にミニオンのへんな歌が入ってくるからたまらない。

今回は吹替版で観たが、オリジナル版ではスティーブ・カレルが主人公のグルーと、双子の弟ドルーを二役演じ分けている。この怪演も確かめたいものだ。ミニオンといい、グルー兄弟といい、似たようなキャラクターが複数出てくるおかしさ。イルミネーションの技術の進化がめまぐるしい。

近年製作される映画の数は著しく増えているが、純粋なファミリー向け映画が少なくなっている。イルミネーション・エンターテイメントみたいな存在は貴重だ。

ただ日本の映画館の入場料が高いのが問題。家族全員で映画館で映画を観るとなると、小旅行くらいの予算が必要。夏休みに子どもたちに経験してほしいのは、映画鑑賞という受動的な体験ではなく、海や山でアクティブな能動的な経験。同じ値段がかかるなら迷わず後者を選ぶ。

日本の映画館の入場料は、世界でもダントツで高額だ。他国での映画鑑賞は、気楽に行ける娯楽といったところだが、日本では観劇やコンサートに行くような、ここぞと決めていく贅沢な娯楽という感覚になっている。

映画鑑賞は金銭だけでなく、時間や労力もかかるもの。それが楽しくもあるのだが、昨今そんな呑気なこともできない。

日本の物価は日々高騰していき、普通に働いたくらいではワーキングプアは余儀なくされる。長く続く不景気で、日本製品の精度も下がってきた。

さて、自分は映画が大好きなわけだが、生活に必要なものまで減らして映画三昧はすることはできない。もしかしたら独身だったら、三度の飯より映画ライフだったかもしれが、それでは現実逃避な生き方だ。

映画は映画館で観るものだし、それがベストだと思う。映画館に手間暇かけて出かけて観るからこそ、得るものがある。でも敢えて、映画館で観るばかりが映画を楽しむ方法でないことを模索していく。如何にカネをかけずに楽しむか?

これは映画鑑賞に限らず、あらゆることにあてはまる。この不景気な世の中で、更なる経済を求めることは不幸になる一方だ。経済に頼らないハッピーライフの追求。

映画ファンですら、映画に高額を払うのは考えてしまう現代社会。まだもう少し日本の経済状況は悪くなりそうだ。今後財布の紐は更にきつく閉じていくことだろう。そうなると本当に経済が回らなくなる。とことんシブチンライフを敢行して、何か買うときは厳選に厳選を重ねる。多くの人がそんなことを考え始めている。ある意味、経済社会の終焉の到来。

「映画にカネをかけないで楽しむ!」悲しいかな、これが自分の新年の抱負になってしまいそうだ。

関連記事

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍一さんの有名なテーマ曲の方が先

記事を読む

no image

『母と暮せば』Requiem to NAGASAKI

  残り少ない2015年は、戦後70年の節目の年。山田洋次監督はどうしても本年中にこ

記事を読む

『オオカミの家』考察ブームの追い風に乗って

話題になっていたチリの人形アニメ『オオカミの家』をやっと観た。人形アニメといえばチェコのヤン

記事を読む

『なつぞら』自分の人生とは関係ないドラマのはずだったのに……

「アニメーターってなによ?」7歳になる息子が、NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』の番宣での

記事を読む

『gifted ギフテッド』 お金の話はそろそろやめて人権の話をしよう

「ギフテッドを持つ子どもの支援を国をあげて始めましょう」というニュースがあがった。自分のSN

記事を読む

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』 問題を乗り越えるテクニック

映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、日本公開当時に劇場で観た。アメリカの91

記事を読む

『ローガン』どーんと落ち込むスーパーヒーロー映画

映画製作時、どんな方向性でその作品を作るのか、事前に綿密に打ち合わせがされる。制作費が高けれ

記事を読む

no image

『ラ・ラ・ランド』夢をみること、叶えること

ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』の評判は昨年末から日本にも届いていた。たまたま自分は日本公開初日の

記事を読む

no image

映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』

  クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネ

記事を読む

no image

『ひつじのショーン』おっと、子供騙しじゃないゾ!!

  ひつじ年を迎え『ひつじのショーン』を 無視する訳にはいかない。 今年はも

記事を読む

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

→もっと見る

PAGE TOP ↑