『怪盗グルーのミニオン大脱走』 あれ、毒気が薄まった?
昨年の夏休み期間に公開された『怪盗グルー』シリーズの最新作『怪盗グルーのミニオン大脱走』。ずっとウチの子たちも観たいと言っていた。何を隠そう自分自身がこのシリーズの大ファンなので、観ないワケにはいかない。劇場で見逃していたので、レンタルにての鑑賞。
まず誰もがツッコミを入れたくなるのが、この邦題。原題は『Despicable Me 3』。『卑劣なオレさま』とでも言ったところか。怪盗グルーのことを言ってる。そもそも一作目でグルーは、とっくに泥棒を引退しちゃって怪盗グルーじゃなくなってる。ローカライズもほどほどにしないと、本編と折り合いがつかなくなる。
グルーの手下の黄色い小さな生き物たちミニオンの人気が上がってきたので、どうしてもタイトルに『ミニオン』と入れたい日本の配給会社。映画を観てあまりにミニオンが活躍しないので、ミニオン目当てで来た観客は詐欺にあったようで、ガッカリしちゃうんじゃないかしら? 本編はちっとも『ミニオン大脱走』じゃない。洋画ファンは、邦題がインチキでデタラメなのは、もう慣れっ子。
客引きにはミニオン人気にあやかって、どうしてもミニオン中心に宣伝したい気持ちがはやる。空回りが否めない。でも子どもたちは知っている。『怪盗グルー』シリーズの魅力は、ミニオンだけじゃないってことを。
ファースト・フード店のキッズ用メニューに、この映画のキャラクターのおもちゃが付いてくるキャンペーンがあった。何種類もあるおもちゃのほとんどがミニオン。子どもたちが狙うおもちゃはミニオンではなく、グルーの末娘のアグネス。あっという間にアグネスが店頭から無くなった。みんなすでにミニオンばかりには食傷気味。
『ミニオンズ』というミニオンが主人公のスピンオフ作品だってあるんだから、今回はメインにもってこない方が正しい。映画はホンスジのグルーが主役。このシリーズにもアグネスをはじめマーゴやイディスという他の娘たち、グルーの妻のルーシーやら、魅力的なキャラクターはたくさん出てくる。確かにミニオンはみんな好きだけど、だからといって他のキャラクターを完全無視しちゃうのはもったいない。この宣伝の仕方って、日本以外の他の国でも同じなのかしら?
本編を観てみたら、いままでのシリーズに比べて薄味な印象を受けた。『怪盗グルー』シリーズは、ファミリー向けなのに、シニカルなギャグが満載なのが特徴。出てくる人出てくる人みなキモチワルイ。とてもイジワルな視点。それが今回その毒気が少ない。人気が出るとクレームを恐れて表現がマイルドになるのか? それとも自分がこの作風に慣れてしまって、判断基準が高くなってしまったのか?
製作のイルミネーション・エンターテイメントは、内容で勝負するのではなく、あちこちに散りばめた小ネタで笑わせる作風。本編にチャチャを入れる役目はミニオンたちが担ってる。
本作ではサブキャラでしかないミニオンたち。必然的に出番は少ない。その少ない登場場面のほとんどが、予告編やらプロモーションで、映画公開前にほとんど観せてしまっていて、初見の場面があまりなかった。これから観ようとする映画の動画は、事前に検索しない方がいいらしい。
サントラは楽しくて仕方がない。常連のファレル・ウィリアムスは相変わらずカッコいい。敵が元子役のおじさんなので80年代ポップスがガンガン使われてる。『ベストヒットUSA』世代の我々親たちもグッとくる。合間にミニオンのへんな歌が入ってくるからたまらない。
今回は吹替版で観たが、オリジナル版ではスティーブ・カレルが主人公のグルーと、双子の弟ドルーを二役演じ分けている。この怪演も確かめたいものだ。ミニオンといい、グルー兄弟といい、似たようなキャラクターが複数出てくるおかしさ。イルミネーションの技術の進化がめまぐるしい。
近年製作される映画の数は著しく増えているが、純粋なファミリー向け映画が少なくなっている。イルミネーション・エンターテイメントみたいな存在は貴重だ。
ただ日本の映画館の入場料が高いのが問題。家族全員で映画館で映画を観るとなると、小旅行くらいの予算が必要。夏休みに子どもたちに経験してほしいのは、映画鑑賞という受動的な体験ではなく、海や山でアクティブな能動的な経験。同じ値段がかかるなら迷わず後者を選ぶ。
日本の映画館の入場料は、世界でもダントツで高額だ。他国での映画鑑賞は、気楽に行ける娯楽といったところだが、日本では観劇やコンサートに行くような、ここぞと決めていく贅沢な娯楽という感覚になっている。
映画鑑賞は金銭だけでなく、時間や労力もかかるもの。それが楽しくもあるのだが、昨今そんな呑気なこともできない。
日本の物価は日々高騰していき、普通に働いたくらいではワーキングプアは余儀なくされる。長く続く不景気で、日本製品の精度も下がってきた。
さて、自分は映画が大好きなわけだが、生活に必要なものまで減らして映画三昧はすることはできない。もしかしたら独身だったら、三度の飯より映画ライフだったかもしれが、それでは現実逃避な生き方だ。
映画は映画館で観るものだし、それがベストだと思う。映画館に手間暇かけて出かけて観るからこそ、得るものがある。でも敢えて、映画館で観るばかりが映画を楽しむ方法でないことを模索していく。如何にカネをかけずに楽しむか?
これは映画鑑賞に限らず、あらゆることにあてはまる。この不景気な世の中で、更なる経済を求めることは不幸になる一方だ。経済に頼らないハッピーライフの追求。
映画ファンですら、映画に高額を払うのは考えてしまう現代社会。まだもう少し日本の経済状況は悪くなりそうだ。今後財布の紐は更にきつく閉じていくことだろう。そうなると本当に経済が回らなくなる。とことんシブチンライフを敢行して、何か買うときは厳選に厳選を重ねる。多くの人がそんなことを考え始めている。ある意味、経済社会の終焉の到来。
「映画にカネをかけないで楽しむ!」悲しいかな、これが自分の新年の抱負になってしまいそうだ。
関連記事
-
-
日本人が巨大ロボットや怪獣が好きなワケ
友人から「日本のサブカルに巨大なものが 多く登場するのはなぜか考えて欲しい」と
-
-
『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで
作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい
-
-
『aftersun アフターサン』 世界の見え方、己の在り方
この夏、イギリス映画『アフターサン』がメディアで話題となっていた。リピーター鑑賞客が多いとの
-
-
『メダリスト』 障害と才能と
映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶
-
-
『風立ちぬ』 招かざる未来に備えて
なんとも不安な気分にさせる映画です。 悪夢から覚めて、夢の内容は忘れても、 ただただ不安
-
-
『チャレンジャーズ』 重要なのは結果よりプロセス!
ゼンデイヤ主演のテニス映画『チャレンジャーズ』が面白いとネットで話題になっていた。なんでも劇
-
-
『トクサツガガガ』 みんなで普通の人のフリをする
ずっと気になっていたNHKドラマ『トクサツガガガ』を観た。今やNHKのお気に入り俳優の小芝風
-
-
『グレイテスト・ショーマン』 奴らは獣と共に迫り来る!
映画『グレイテスト・ショーマン』の予告編を初めて観たとき、自分は真っ先に「ケッ!」となった。
-
-
『アン・シャーリー』 相手の話を聴けるようになると
『赤毛のアン』がアニメ化リブートが始まった。今度は『アン・シャーリー』というタイトルになって
-
-
『境界のRINNE』やっぱり昔の漫画家はていねい
ウチでは小さな子がいるので Eテレがかかっていることが多い。 でも土日の夕方
- PREV
- 『惑星ソラリス』偏屈な幼児心理
- NEXT
- 『ハイドリヒを撃て!』 スタイリッシュな実録モノ
