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『君たちはどう生きるか』誇り高く生きるには

公開日: : テレビ, メディア, 映画:カ行,

今、吉野源三郎著作の児童文学『君たちはどう生きるか』が話題になっている。

引退撤回宣言をした宮崎駿監督の新作のタイトルが『君たちはどう生きるか』というこの小説と同名のものらしい。そして昨年末、この小説を漫画化した本がベストセラーになっている。宮崎監督の新作の原作なのかと勘違いして手に取った人が多いだろうし、それが狙いで漫画化の企画もされているだろう。でも宮崎監督が拝借したのは、このタイトルだけ。本編は冒険活劇ファンタジーになるとのことなので、全く違った内容になることが想像される。これからもさらに苦しくなっていくであろう閉塞感ある世の中を、若い人たちに向けて問いかけてくる。厳しいものをこのタイトルから感じる。逆境をどうポジティブに持っていくか? 私たちはどう生きるべきか?

この小説は1930年代に発表されたもの。日本がアジア中で戦争を始め、第二次世界大戦へと流れ込んでいく前夜。軍国主義が大手を振る社会において、いかに人が理性を失わずに、人間らしく生きていくか問いかけている。

主人公は中学生のコペル君とあだ名される少年。その子の目を通して、良い友人と良い関係を作ることや、社会の成り立ちを想像していく力をつけていく。ものごとを模索していく物語。とにかくコペル君を取り巻く登場人物たちがみな、カッコイイ。たとえ年端のいかぬ子どもであっても、カッコイイ人は若い時からカッコイイのだ。

コペル君は育ちのいいお坊ちゃんではあるのだが、とても素直。彼が惚れ込む友人たちも、とても立派な信念を抱いている。裕福な家に生まれると、それだけで受けられる教育や将来も有利だ。でもコペル君は決して裕福な家の子ばかりと友人関係になっていくわけではない。貧しい家の子にも魅力的な子はいると、家業を手伝う友人に「彼はすでに社会の役に立っている。僕はまだ何も生産していない。彼は立派だ」と素直に敬意を払っている。貧しいからといって心までも貧しくなってはならない。彼らがお互いを認めあう姿にただ感動する。現代人は相手に敬意の念を抱くことを忘れがち。

コペル君はすでに父親が他界しているのだが、父親代わりのおじさんが相談役になっている。コペル君がつど疑問に思ったり悩んだりしたことを、おじさんは優しく説明してくれたり、時には叱咤したりして背中を押してくれる。おじさんは言うなればファンタジーに登場する賢者の役割。胡散臭い言い方をするならばメンター。

どうしても自分は、コペル君よりもおじさんの言動の方が気になってしまう。自分が親目線なのだ。子どもにそんな相談をされたらどう返すか? おじさんの知的な返答を脳内シミュレーションしてしまう。人にものを教えるということは、自分ももっとも身になる勉強法。そんな視点になるなんて、自分も歳をとったものだ。ただ、歳をとることによって、主人公のコペル君に感情移入しつつも、おじさんの立ち位置にもなれる。一つの物語で二度美味しいわけで、これはお得感。

戦争のきな臭さを感じさせる世の中で、たとえ人に何を言われようとも、いじめられようとも、人として誇り高く生きていくこと目指す少年たちの姿は美しく、すでに大人である自分でさえ見習うべきものが多い。

思えば日々メディアを通して見えてくる人や社会、日常散見する人々の行動が、あまりに自分勝手でかっこ悪いものばかりになってきた。カッコイイ人なんて、ファンタジーでしかない。誰もが口にする愚行への言い訳は「みんながやってるから」とか「仕方がない」という言葉。

それでも人は常に高みを目指していかなければならない。人間死ぬ瞬間まで勉強だ。もしそれができなかったら、待っているのは衰退のみ。夢も、高みを目指しすぎてなかなかそれが実現しないことがある。間違った目標プランなら、代案を考えて軌道修正すればいい。もしその道がしっくりいくものであったら、その夢は叶わなくとも、振り返ればそこへ向かう過程で、小さな夢がいくつも叶っていってるはずだ。

先日NHKの番組でこの作品の再ブームを取り扱っていた。若い人たちは新たに出版された漫画版を読んで涙している。その涙の理由はそれぞれ違う。戦前を知る人からよく、今の日本の雰囲気は戦争に向かっていったあの頃によく似ていると聞く。不寛容で閉塞感のある現代社会。

気をつけなければいけないのは、漫画版は現代の商業主義で書かれたもの。当時の軍国主義の言論規制の厳しい中で書かれたオリジナル小説とは出版される意図が違う。そこにも想像力を働かせた方が、作品をもっと楽しめそうだ。

このウェルメイドな作品を書いた吉野源三郎を始め、関わったスタッフたちは偉業を成し遂げたことになる。こんなに立派な考え方をした人たちが当時の日本にもいたのに、日本は戦争へと突き進んでいったといこと。

誇り高く生きることは勇気がいることだ。恥ずかしい生き方をして、果たして幸せな人生と言えるのだろうか? 学ぶということ、視野を広げていくことの大切さをこの小説は教えてくれる。現代の幼稚化した大人たちこそ、見つめ直さなければならないことがここに書いてあるようだ。

いつか漫画版も読んでみよう。

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