『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』 そこに自己治癒力はあるのか?
自分はどストライクのガンダム世代。作家の福井晴敏さんの言葉にもあるが、あの頃の小学生男子にとってガンダムは義務教育の一環みたいなもの。いわばガンダムを知らなければ、友だちと会話ができない。
当時、ガンプラと呼ばれるガンダムのプラモデルが大人気。教室では、どこのおもちゃ屋に、いつどれくらいのプラモデルが入荷されるかの情報が飛び交っていた。ガンプラは、今ではプラモデルのひとつのジャンルにまで成長している。
友だちたちとの会話は、劇中『モビルスーツ』といわれるロボットのことがメイン。どのモビルスーツが好きだとか言い合って楽しんでいた。
当時小学校低学年だった自分は、そりゃあロボットも好きだったけれど、ガンダムが勧善懲悪の1話完結のアニメではないところに魅力を感じていた。なんだか大人が観てる大河ドラマみたいで、背伸びした気分で観ていた。
劇中の会話が何を言っているのかわからないけれど、きっと大人になったら分かるものだと思っていた。でも、大人になって観なおしてみてもやっぱりわからない。富野由悠季総監督も言っているが、文才がないのが独特の言い回しになってしまって、『富野節』なんて崇められてしまったらしい。なんとも居心地が悪いとのこと。皮肉なことだ。
富野監督も最近までは、アニメばかり観て自分の人生に向き合わないまま中年になってしまったファンたちに説教をしていたが、最近ではすっかり諦めてしまったみたい。時代が変わって、人生にはさまざまな生き方が選べるようになった。一概にこれが正しいと言えない。それにアニメやアイドル文化が、世間とのつながりの最後の砦となっている人もいなくもない。なにかの作品がリリース発表されるたび、「ああ、それが観れるまでは生きていける!」なんて自虐的な言葉がネットを飛び交うが、あながちそれも冗談ではないのだろう。
今ではメイキングすらエンターテイメント化されている。ファンをがっかりさせたり、炎上させないように、慎重に調整してから公開されているように感じる。
自分も仕事でクタクタになって、心身ボロボロになったときにガンダムを観たら、元気が回復したことがあった。小さい時から刷り込まれている作品を、頭を使わずに鑑賞することで治癒効果があるみたいだ。
たぶん、普通に初見で作品を観てしまったら、製作当時の価値観や技術に古さを感じたり、登場人物がイヤなヤツばかりだと荒んでしまうことだろう。でもそんなことは関係ない。ロボットが出てきて、小難しい言い回しのセリフはリズムを楽しめばいい。疲れ切った脳みそには、新しい情報や斬新なアイデアは入ってこないものだ。
今年は第一作目のテレビシリーズが始まって40周年記念らしい。まさか自分も50近くになるまで、ガンダムを観ているとは夢にも思っていなかった。当時小学生だった自分が、おじさんになるまでずっとガンダムを観続けている今の自分の姿を知ったら、さぞ呆れて引くことだろう。
未見だったOVAの『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』が展開されているのはずっと知っていた。安彦良和さんが描く、アニメのコミカライズの映像化。オリジナルのアニメ作品の前日談にあたる部分のアニメ版。
要するにオリジナルはアニメの『機動戦士ガンダム』で、そのコミカライズが『THE ORIGIN』。その漫画の映像化されていなかった部分がこのOVA。
「えー、まだガンダムやってるの?」というのが、当初の自分の印象だった。原作漫画は読んでいたが、そのままの映像化なので、本腰入れて鑑賞することはなかった。
それがNHKで再編集版の連続シリーズとして、この春から放送し始めた。観てみると、テレビアニメにしてはハイクオリティな出来栄えなので、とても贅沢に鑑賞してしまっている。ターゲットが自分のようなおじさんなので、登場人物もおっさんばかりの骨太な作りだ。結構面白い! 意外にもハマってしまった。
いい歳をして2Dアニメを観ていると、家人の目は冷たい。やっぱりアニメは幼稚性の象徴なのだろう。奥さんにはシラーっと、「でもこの人(シャア)って、赤色の服、似合わないよね」と、身も蓋もないことを言われてしまう。
自分は中年になってもまだまだトンがったところがあって、人様の趣味にとやかく口を挟んでしまうところがある。でも、いい歳をしてアニメ作品に夢中になるということは、世間ではあまり尊敬される趣味ではない。
かつてオタクと呼ばれる人は、博識な人が多かった。映画好きのオタクなら、さまざまなジャンルの映画を観るだろう。映画を観ていて分からないことがあれば、自分で調べる。調べているうちに、また新たな疑問が生まれて、さらに別のものを調べ始める。20年くらい前までの映画好きの人と話をするのは面白かった。
今はひとつの作品の同じファン層からの財布を何度も開かせる戦略が進んでいる。新たなファンに興味を持ってもらうのではなく、お得意様に何度もお金を使ってもらおうという商売。そうするとひとつの作品がどんどん深いものになっていく。続編やらスピンオフやら、関連商品が続々と販売される。そうなるとファンの視野はどんどん狭まっていく。自然とその作品の沼にどっぷりはまってしまう。自分で選んでいるとはいえ、ちょっとした洗脳。
そうなるのは怖いから、作品との距離は自己管理でとっていったほうがいい。すくなくとも自分は、ガンダムで癒されてしまった。そうとう疲れているのだと実感した。
映画を観るのは、ストレス解消でもあり、新しい知識を得たい欲望でもある。その学習意欲と遊びの心が弱っているときは、いつまでたっても新しい文化や作品が生まれてこない。自分が今観たい作品が、今の精神状態のバロメーターになるのなら、またこれも新しいポップカルチャーの楽しみ方なのかもしれない。
関連記事
-
-
『DUNE デューン 砂の惑星』 時流を超えたオシャレなオタク映画
コロナ禍で何度も公開延期になっていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF超大作『DUNE』がやっと
-
-
『ひつじのショーン』おっと、子供騙しじゃないゾ!!
ひつじ年を迎え『ひつじのショーン』を 無視する訳にはいかない。 今年はも
-
-
さよならロビン・ウィリアムズ = ジーニー『アラジン』
ロビン・ウィリアムズが 8月11日に亡くなったそうです。 彼の作品には名
-
-
『ダイナミック・ヴィーナス』暴力の中にあるもの
佐藤懐智監督と内田春菊さん[/caption] 今日は友人でもある佐藤懐智監督の『ダイナミッ
-
-
『キングスマン』 威風堂々 大人のわるふざけ
作品選びに慎重なコリン・ファースがバイオレンス・アクションに主演。もうそのミスマッチ感だけで
-
-
『ホドロフスキーのDUNE』 伝説の穴
アレハンドロ・ホドロフスキー監督がSF小説の『DUNE 砂の惑星』の映画化に失敗したというの
-
-
映画づくりの新しいカタチ『この世界の片隅に』
クラウドファンディング。最近多くのクリエーター達がこのシステムを活用している。ネ
-
-
『サマーウォーズ』 ひとりぼっちにならないこと
昨日15時頃、Facebookが一時的にダウンした。 なんでもハッカー集団によるものだった
-
-
アーティストは「神」じゃない。あなたと同じ「人間」。
ちょっとした現代の「偶像崇拝」について。 と言っても宗教の話ではありません。
-
-
『グレイテスト・ショーマン』 奴らは獣と共に迫り来る!
映画『グレイテスト・ショーマン』の予告編を初めて観たとき、自分は真っ先に「ケッ!」となった。