『なつぞら』自分の人生とは関係ないドラマのはずだったのに……
「アニメーターってなによ?」7歳になる息子が、NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』の番宣でのセリフ「あたし、アニメーターになりたい!」というものへの質問。「イヤだな〜、おじいちゃんのお仕事じゃない?」と教えたら、意外な顔をされてしまった。あれ? アニメのお仕事、ご存知ない?
アニメは誰かが一枚一枚絵を描いて、それを動いているように見せるもの。脚本やら製作準備は、普通の映画となんら変わらないが、映像が作られていくのは、スタジオやロケ現場ではなく、小さな机の上。
もともとアメリカのディズニーの影響で始まった日本のアニメ産業。忍耐強くコツコツと没頭することや、絵が動くという幼稚趣味が、日本人のフィーリングにピッタリきたのだろう。
現在日本のアニメといえば、メインターゲットは10代20代に絞られる。世界のアニメとは異なり、今の日本アニメは、我々中年世代には観るのに勇気が必要。隠れて観なければならないちょっと恥ずかしいジャンルだ。若い世代が、なんら違和感なくすんなり日本のアニメを観ている姿に、ジェネレーションギャップを感じてしまう。
そんな万人向けではない日本のアニメだが、世界に視野を広げれば、同じような趣味嗜好の人間は大勢いるものだ。ジャンルの細分化。世界中で行われているアニメフェスティバルが盛況の姿は嘘ではない。塵も積もればなんとやら。偏ったファン層でも、世界中に散らばったアニメファンが総動員されれば、ものすごい人数となる。
最近になってようやく報道されるようになった、アニメ製作現場のブラック事情もいまだ解決のメドは立っていない。低賃金で、ものすごい時間と労力を必要とされるこの仕事の現実は華やかさからは程遠い。
日本の芸能界は、入り込むのは比較的広き門だが、それを継続していくのは大変。お金を稼ぐというよりは、時間とお金、労力を捧げるといったところも否めない。ましてドラマ『なつぞら』の舞台となる戦後間もない時代では、男女雇用機会均等法がなかった。働く女性がいい思いをしたとは到底思えない。
広瀬すずさん演じる主人公・なつのモデルとなった奥山玲子さんも、仕事では相当苦労したらしい。当初はアニメーターとして働いていたが、仕事の悪環境をきっかけに、組合運動に参加して、活動家のようになっていったらしい。
たぶんドラマは、そんなダークなものは描かないだろう。日本のアニメは、世界に需要はあれど、なかなか伸び悩んでしまった斜陽の産業。告発モノではないので、テンションの下がる展開にはしないだろう。でも若者に誤解を招く夢を抱かせてしまったら罪作りだよな〜。
『なつぞら』放送開始第一話早々、我が家はぶっ飛んだ。それはアニメ業界云々が理由ではなかった。
毎回朝ドラの初回二週目くらいまでは、主人公の幼少期が描かれるのは周知のこと。そこにうちの子の友だちが出演してるじゃないか! しかもかなり重要な役。
『なつぞら』初回放送日は4月1日。この日は新しい元号の発表日でもあった。でもそれを遥かに凌ぐ驚異の大事件。
なんでも今回の朝ドラは、100作目記念作らしい。自分もものごころつく前から、毎朝テレビでは朝ドラはついていた。
大抵主人公は、二十歳前後の女優さんが演じてる。小さな頃の自分にとっては、お姉さんの主人公の人生を見せられる。やがて同年代に自分の年齢が追いつく。そして妹のような年齢差になり、いつしか主人公の親世代になってしまった。朝ドラは、比較的若い役者さんが主人公の親役になる。自分と同年代の役者さんが、親になってる姿はショックだった。しかし、とうとう自分の子どもと同級生が子役になってしまうなんて!
誰かが何かに出演したとか、製作に携わったなんて話はよく聞く。でも大抵は成人した人の活動だ。ついに自分の子ども世代が活躍し始めた。バトンタッチがいきなりやってきた。
そのせいもあってか『なつぞら』は、幼少期編がいちばん盛り上がった。主人公なつは美人で活発な人。演じる広瀬すずさんの魅力もあってか、こんな人を周りがほっとくわけがない。普通に考えて、どんどん表舞台に駆り出されていくだろう。野山を馬に乗って走り回り、自然とともに生きる人。
果たしてそんな活発な人が、一日中机にかじりついているアニメーターになりたがるだろうか? 違和感は否めない。
この『なつぞら』はフィクションだが、モデルになった人物や事件は存在する。身内のかつての同僚や先輩がモデルのドラマ。このドラマの元となった現実の過去に身内がいたという不思議。
自分は一視聴者で、『なつぞら』のドラマとはまったく関係のない人生を送っている。でも、ここまで自分の身の回りの人たちが、直接的間接的にと関わりのあるドラマも珍しい。とても不思議だ。生きていると、いろいろ変わったことが起こるものだ。
果たして世界は近いのか遠いのか?
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