『百日紅』天才にしかみえぬもの
この映画は日本国内よりも海外で評価されそうだ。映画の舞台は江戸時代。葛飾北斎の娘のお栄(葛飾応為)が主人公のアニメ。監督は『クレヨンしんちゃん』や『河童のクゥの夏休み』など、アニメ作品でも限りなく実写に近い演出をする原恵一氏。本作『百日紅』も同様、アニメらしからぬ演出で、ボイスキャストも実写の役者ばかり。しかしもしこの題材を実写で撮っていたならば、客層は日本の老人だけに絞られてしまう。アニメで北斎を扱うことで、海外へアピールしやすくなるだろう。制作は『攻殻機動隊』のProduction I.G.というのも海外を意識してのことだろう。
葛飾北斎というと、自分の死期を悟ったとき「あと10年、いや5年寿命があれば、神の域に自分の画力が達したのに」と泣いたと聞くから、なんてロックンロールな人なんだと楽しくなってしまった。その娘お栄は北斎とならぶ才能を持ち、北斎のアシスタントとして活動していたことは有名。いわば天才親子。とても興味深い。
日本という国はどうも絵を描いたり観たりするのが好きな民族らしく、100年以上前から北斎のような絵が好まれていた。浮世絵は当時の大衆芸能、今で言うならアニメやマンガと同じようなもの。アニメだって今後100年残れば、芸術作品として研究対象にされていくことだろう。その北斎親子が21世紀の今、アニメというカタチで取り扱われているのも文化のフォーマットの変遷としてとても面白い。
作中では天才がゆえ、凡人には見えないものが見えている北斎親子の姿が淡々と描かれている。自分の周りにも、この人は天才肌だな〜と思える人が数人いるが、その人達は明らかに人と違うものを見ている。それが時として苦悩の対象だったりしている。それら目に見えないものが直感やら霊的なものかは、見えない凡人の自分には分からない。そういったものが見える人は、おそろしく感性が鋭い人か、超悲観的被害妄想のパラノイア状態の人かのどちらかだ。自分には霊感はまったくないが、感性が鋭い人とパラノイアの区別ぐらいならつく。前者は尊敬の対象だが、後者は明らかに関わらない方がいいタイプ、はやいとこ治療に専念して欲しいものだ。だからこの作品で描かれている天才親子の様子は、それほど驚くようなものではなく、極々納得のいくような共感しやすいエピソードだった。北斎親子が二人で何かを追いかける目線をしたとき、「なにかみえるんですかい?」と慌てる内弟子と自分は同じ感性である。
映画の中でお栄が描いた地獄絵図で、人が惑うというエピーソードがある。父の北斎が「お前にはけじめがとれてない」と作品の中に救いの要素を付け足すことですべてが丸く収まる。このエピソードから、現代の世にはびこるサブカルチャーのほとんどが、この創作者がけじめをつけないまま世に晒してしまっているのがわかる。そんな制御されていないものに触れた人々は当然迷い、人生を踏違えたりする。そんなものを無責任に世に放つ行為はクリエーターとしてもっとも罪深いことである。
お栄が盲目の幼い妹と交流する場面はどれも涙が出るくらい優しい。はすっぱなお栄が唯一素直になれる存在が、この妹と過ごすひととき。監督の優しさが伝わってくる演出。
日本を描いた日本のアニメ。でもこれを面白いという感性は今の日本人よりも、欧米の人たちの方がありそうだ。今後の海外での評価が気になるところです。
関連記事
-
-
『ソーシャル・ネットワーク』ガキのケンカにカネが絡むと
ご存知、巨大SNS・Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグの自伝映画。
-
-
『聲の形』頭の悪いフリをして生きるということ
自分は萌えアニメが苦手。萌えアニメはソフトポルノだという偏見はなかなか拭えない。最近の日本の
-
-
『おおかみこどもの雨と雪』 人生に向き合うきっかけ
『リア充』って良い言葉ではないと思います。 『おおかみこどもの雨と雪』が テレビ放映
-
-
自国の暗部もエンタメにする『ゼロ・ダーク・サーティ』
アメリカのビン・ラディン暗殺の様子を スリリングに描いたリアリスティック作品。
-
-
『1987、ある闘いの真実』 関係ないなんて言えないよ
2024年12月3日の夜、韓国で戒厳令が発令され、すぐさま野党によってそれが撤回された。日本
-
-
『スワロウテイル』 90年代サブカル・カタログ映画
岩井俊二監督の『スワロウテイル』。この劇中の架空のバンド『YEN TOWN BAND』が再結
-
-
『機動戦士ガンダムUC』 小説から始まり遂に完結!!
2010年スタートで完結まで4年かかった。 福井晴敏氏の原作小説は、遡る事2007年から。
-
-
『Shall we ダンス?』 まじめなだけじゃダメですか?
1996年の周防正行監督の名作コメディ『Shall we ダンス?』。これなら子どもたちとも
-
-
『東京卍リベンジャーズ』 天才の生い立ちと取り巻く社会
子どもたちの間で人気沸騰中の『東京卍リベンジャーズ』、通称『東リベ』。面白いと評判。でもヤン
-
-
『おさるのジョージ』嗚呼、黄色い帽子のおじさん……。
もうすぐ3歳になろうとするウチの息子は イヤイヤ期真っ最中。 なにをするにも
