*

『ラ・ラ・ランド』夢をみること、叶えること

公開日: : 最終更新日:2019/06/11 映画:ラ行, 映画館, 音楽

ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』の評判は昨年末から日本にも届いていた。たまたま自分は日本公開初日の夜に予定がついて、この映画を観た。話題作の初日もあってか、プレミアムフライデーなるものの初日効果もあってか、平日にもかかわらず映画館は大入り。

映画はシンプルなストーリーに、歌にダンスに恋と、楽しい要素でてんこ盛り。新旧名作ミュージカルのオマージュも散りばめ、驚くほどオーソドックスなつくり。監督のデミアン・チャゼルは32歳。若い監督なのに、トンがった演出の匂いはなく、肩の力が抜けた徹底したエンターテイメントぶり。

いま世界は殺伐としたニュースばかり。みんなが落ち込んでいる世の中だからこそ、明るく楽しいシンプルな作品を観客が望んでいる。時代性をしっかりとらえた企画だ。

映画が始まる。音楽に乗ってスルスル物語が進んでいく。恋の始まりのフワフワ感は、ミュージカルの非現実的なファンタジー性に似てる。そういえばずっと長回しでカット割りしてないぞ。どうやって撮影してるんだろ? なにげにハイテク映画だ。

主役のピアニストを演じるライアン・ゴズリングのキーボードを叩くさまのカッコイイこと。ただ演奏の指が合っていればいいのではなく、楽器も自我の延長と、演奏そのものもキャラクター化してる。もうこっちもショルキー担ぎたくなってしまう!

ヒロイン役は当初『ハリー・ポッター』のエマ・ワトソンが配役されていたらしい。途中でミュージカルつながりで、ディズニーの大作『美女と野獣』に鞍替えしたらしい。おかげで役がまわってきたエマ・ストーンは、オスカーまでゲットしてしまった! すっかりスパイダーマンのガールフレンドのイメージを払拭できた。ネームバリューのある『美女と野獣』と、かたや小品の『ラ・ラ・ランド』。作品選びもシビアだ。女優たちの作品選びの顛末も今後のみどころ。

「表現者のこだわり」についてが、この『ラ・ラ・ランド』のテーマ。自分がやりたいことと、世の中が望んでいるものとは乖離があるもの。才能がある人は、常に先見の明があり、時代より数歩先の場所を見ている。だから凡人には突拍子もないエキセントリックなことを言う人にしかみえなかったりする。数年たってその言葉の意味がわかるなんてことはよくある。実はその才人から発言は、道理にかなったしごく当たり前の言葉だったのだと、後になって気づくもの。凡人の我々に理解力がないだけなのだ。

以前ラジオで「映画とファッション」という題目の番組を放送していた。90年代を中心に流行した映画のサントラがかかりまくる。どの曲もどの映画もハマったものばかり。楽しくなるのかと思いきや、だんだん違和感を覚えはじめた。当時はトンガリまくってた作品たちも、時代を経てすっかりスタンダードになってしまった。すでに誰もが良いものと認められた過去作品を、「いいでしょ?」って陳列されてしまうと、かえってダサく感じてしまう。

MCはママさんモデルと、有名輸入雑貨のフラグ店の店長。なんびとたりとも文句がつけられないオシャレ番長たち。発言する人によって情報はパワーを持ってしまう。

大衆は個性的なものを望んでいるようでいて、やっぱりわからないものは受け入れられない。先を行っているようでいても、普段見慣れたもののアレンジぐらいでないと、ヒットすることはない。

才人からすると、なんとも物足りないレベルまで敷居を下げないと、周囲は認めてくれない。ある意味妥協しなければ、なかなかそれでメシは食っていけない。じゃあ魂を売って、やりたくもないことをやればいいのかとなるが、それはそれで違ってる。その「己のこだわり」と「大衆の求めるもの」との折り合いをつけるのも、表現者のセンス。

「己のこだわり」を引っ込めただけで、成功する人もいる。こだわり続けた方が表現者としてはカッコイイが、もしここで協調して上手く乗っかったとしたら? 次の高みについてしまったら? きっとみえてくるもの、できることが変わってくる。こだわり続けて固執しているだけなら、ただこのままで終わっちゃう。次のステージに上がる賭けも時には必要なのかと。

金銭的なギャンブルは身を滅ぼす。でも人生において、適材適所でギャンブルをしていかないと、やはり緩やかに身を滅ぼしてしまう。

若き32歳の映画監督は、表現者としてのこだわりをどのようにして折り合いつけたのだろうか? そんな想像を巡らせてしまう映画だった。

ちなみに主人公ミアのボーイフレンドたちが語るくだらない話は、ホームシアターについて。いま自分もホームシアターを検討中だったので、爆笑してしまった。晴れてマイ・ホームシアターが完成の暁の頃には、きっと『ラ・ラ・ランド』もソフト化されていることだろう。そのくだらないホームシアターで、『ラ・ラ・ランド』がヘビーローテーションされるのはほぼ確実だろう。

関連記事

『チャーリーとチョコレート工場』 歪んだ愛情とその傷

映画が公開されてから時間が経って、その時の宣伝や熱狂が冷めたあと、あらためてその映画を観直す

記事を読む

『レザボア・ドッグス』 せっかちさんはチャンスをつかむ?

新作準備の『ザ・ヘイトフル・エイト』 の脚本流出で制作中止を発表し、 先日それを撤回した

記事を読む

no image

『幕が上がる』覚悟の先にある楽しさ

  自分はアイドル文化や萌えとかよくわからない。だから『ももいろクローバーZ』の存在

記事を読む

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶

記事を読む

『SUNNY』 日韓サブカル今昔物語

日本映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』は、以前からよく人から勧められていた。自分は最近の

記事を読む

『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者

御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時

記事を読む

『RRR』 歴史的伝統芸能、爆誕!

ちょっと前に話題になったインド映画『RRR』をやっと観た。噂どおり凄かった。S・S・ラージャ

記事を読む

no image

『ローレライ』今なら右傾エンタメかな?

  今年の夏『進撃の巨人』の実写版のメガホンもとっている特撮畑出身の樋口真嗣監督の長

記事を読む

no image

キワドいコント番組『リトル・ブリテン』

  『リトル・ブリテン』という イギリスのコメディ番組をご存知でしょうか?

記事を読む

『ブレードランナー2049』 映画への接し方の分岐点

日本のテレビドラマで『結婚できない男』という名作コメディがある。仕事ができてハンサムな建築家

記事を読む

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自

→もっと見る

PAGE TOP ↑