『下妻物語』 若者向け日本映画の分岐点
台風18号は茨城を始め多くの地に甚大なる被害を与えました。被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。
被害にあった茨城の地で下妻とあがっていて、すぐ映画『下妻物語』を思い出した。この映画がなければその土地の名前を知る由もなかったわけです。ロケになったあの場所が今回、どれほどの被害を受けたのかと想像すると胸が痛みます。
この映画『下妻物語』は中島哲也監督の名前も世に広めた作品でもあります。深沢恭子さん演じるロリータファッションの高校生と、土屋アンナさん演じるヤンキー娘の女の友情の物語です。嶽本野ばらさん原作の小説に忠実に映像化しているにもかかわらず、情報過多な演出で、観客を飽きさせない圧倒的なパワーで押し切る演出がとても面白かった。自分は予告編を観て「これ面白そう」とは直感で分かったのですが、如何せん若い女の子が主人公の映画なので観に行くのが恥ずかしかったのを記憶しております。でも観賞後の満足感は120%でしたね。
ロリータファッションの子もヤンキーの子も、お互いのセンスは嫌っているのです。でもそこへ向かうポリシーはお互い尊重し合っている。そうなんです、趣味が同じだからといって人生観が合うとは限らないのです。同じものを観て同じものに興味を持っていても、馬が合わないなんてことよくあります。趣味が違うのになぜか気があう人というのも存在します。そうなると俄然後者の人を親しい友人になってしまうわけです。ここで描かれている友情は、アツいマッチョなものと思えます。
この『下妻物語』が公開された2004年は、シネコンブームの真っただ中。日本映画は不人気で、映画館で観るといえばハリウッド映画が主流だった頃、この『下妻物語』の登場で「あれ、邦画もおもしろいじゃない」と思う人が増えたような気がします。で、今の邦画にも客が入るようになった時代を迎えたわけですが、では邦画が面白くなったのかと言えば、全然「NO」でしょう。『下妻物語』の類似作はいまだに続出しているし、何と言っても日本の映画のチャートにあがる作品はみんな似てる。アニメかマンガ原作、テレビシリーズの映画化ばかり。
日本映画はなぜか生活に密着していない作品が多い。これは日本人の不真面目さが現れているよう。現実の生活から目をそむけて、フィクションの世界へ逃げ込む。海外の作品が持っている問題意識のようなものは全く感じられない。どんなに派手なハリウッド作でも、なんら社会問題を明るく蹴飛ばしたりしている姿を見るとかなわない。
日常に興味がないから、生活がどんどん悪くなっていく。住みづらくなるような流れになっても気づけない。平生普段の生活にまじめに向き合っていれば、世の中がおかしな方向へ向かえば死守したいと感じる。政治に興味がないということは、自分の人生に興味がないということと同義語かも知れない。
この『下妻物語』の表層的な演出技術を模倣してみても、面白い作品は作れない。研究するなら、なぜ中島監督がこの演出を選んだのかの哲学を追究した方が良いのだろう。
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