*

『スノーマン』ファンタジーは死の匂いと共に

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 アニメ, 映画:サ行, , 音楽

4歳になる息子が観たいと選んだのが、レイモンド・ブリッグスの絵本が原作の短編アニメーション『スノーマン』。お、なかなかナイスなチョイスじゃないの。これならお父さんも観たい! 久しぶりに観ようじゃないの『スノーマン』!

このアニメーション作品『スノーマン』は、原作の雰囲気にものすごく忠実で、絵本の手書きのイラストがそのまま動きだすような、一枚一枚手間ひまかけて描いて動かしている丁寧なつくり。本編はサイレントで、セリフも効果音もなく、映像と音楽のみで展開する。

少年が作った雪だるま・スノーマンが夜な夜な動きだし、少年の良き友人として一緒になって遊ぶ。少年はスノーマンに自分の取り巻く世界を紹介する。そのお礼なのか、スノーマンは少年を不思議な世界へ誘ってくれる。スノーマンと一緒に空を飛び、夢のような楽しい世界へ連れて行ってくれる。

スノーマンと少年が空を飛ぶ場面でかかるのが『Walking in the air』という曲。自分がこの曲を初めて聴いたのはラジオ番組だった。当時『PSY・S』という音楽ユニットで活躍されていた松浦雅也さんのNHKFMのラジオ番組『サウンドストリート』で紹介されていた。リスナーの皆さんも気にいるでしょうとおすすめしてました。なんでも友人の記念日にこのビデオをプレゼントしたとのこと。のちにこれほど有名な作品になるとは。かなりの先見の明でした。松浦さん、流石!

そういえば、この『サウンドストリート』のホスト前任者は坂本龍一さんだった。松浦雅也さん当時のあだ名は「博士」。坂本龍一さんが「教授」と呼ばれているからか? この曲を初めて聴いたとき、この美しくも悲しい曲が、まさかこんな可愛らしいスノーマンの映像のものとは思いもしなかったが、まったく違和感なく受け入れることができた。

『スノーマン』では、サイレントなので、本編では基本的に人の肉声は入らない。唯一このスノーマンと少年が飛翔する場面にかかる『Walking in the air』は歌曲なので、人の声が入る。ボーイソプラノのシンプルな曲。空を飛ぶという、心が解き放たれる象徴的な場面にしては切ない。人の声が入るということは、ここまでインパクトのあることなのかと思うほど、強調され印象的な場面となる。人の声のもつ力。

ここでは死の匂いを感じずには得られない。ファンタジーとはそもそも死と隣り合わせの世界。その死とのスリルが、想像世界の魅力となる。スノーマンが連れて行ってくれる世界は楽しいことばかり。これは死の直前にみる走馬灯の世界に近い。スノーマンは少年が作り出した理想の心の友達。心の友達は厄介だ。未成熟な時期にみる幻は、居ごこちが良すぎて抜け出られなくなる危険性がある。

ピクサーの最近作『インサイド・ヘッド』の中でも、ローティーンの少女の脳内には「ビンボン」という心の友達がいる。このビンボンが登場するときは、少女の精神状態がかなりまずいとき。物語上ビンボンは消えゆくべき存在。スノーマンも然り。

スノーマンと楽しい一夜の旅を経験した少年は、朝目覚めると無残に溶けてしまったスノーマンの姿にがく然として物語は終わります。自分が初めて『スノーマン』を観たのは10代前半。なんて悲しい終わり方なんだろうとショックを受けました。しかしレイモンド・ブリッグスが選んだこのラストシーンは正しい結末なんだと、後になって思えてきた。スノーマンとの世界は、妄想の世界。人にはときに現実逃避も必要だけど、そこにどっぷりハマり過ぎては、現実世界では障壁となってしまう。スノーマンの姿が儚く溶けてなくなってしまうことで、少年は本当に目が醒めるのです。残酷で悲しい終わり方にみえるけど、これこそ現実。少年は一瞬死にかけて、生きることについて見せつけられたことになる。

こんなに可愛いタッチの絵柄なのに、音楽や演出が悲しげだった意図はハッキリとした。

2013年の最近になって『スノーマン』の続編『スノーマンとスノードッグ』という作品が発表された。技術も前作よりも進化して、前作へのオマージュがいっぱい。でもこの新作には死の匂いはしない。まったくもってマイルド。独立した作品というよりは、ファンサービスに力点を置いている作品。それはそれでアリでしょう。でもやはり死や狂気と隣り合わせだからこそ、ファンタジーはおもしろい。

あんなに楽しかったのに、寂しく終わる本編。息子は当然ショックを受けていたみたいだけど、このやるせないラストシーンは、子供たちの想像力に刺激を与えるのは間違いない。

 

関連記事

『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者

御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時

記事を読む

『健康で文化的な最低限度の生活』 貧しさが先か、病が先か?

「なんか該当しそうな給付制度ありました?」 これは最近パパ友との会話で欠かせないトピック。こ

記事を読む

no image

日本も開けてきた?『終戦のエンペラー』

  映画『終戦のエンペラー』を観た。 映画自体の出来映えはともかく、 こうい

記事を読む

『千と千尋の神隠し』子どもが主役だけど、実は大人向け

言わずもがなスタジオジブリの代表作。 フランスのカンヌ映画祭や アメリカのアカデミー賞も

記事を読む

no image

『ジャングル大帝』受け継がれる精神 〜冨田勲さんを偲んで

  作曲家の冨田勲さんが亡くなられた。今年は音楽関係の大御所が立て続けに亡くなってい

記事を読む

no image

『ディファイアンス』他力本願ならカタルシス

  事実は小説よりも奇なり。 第二次大戦中のナチスドイツのユダヤ人迫害を描いた

記事を読む

no image

『湯殿山麓呪い村』即身仏、ホントになりたいの?

  先日テレビを観ていたら、湯殿山の即身仏の特集をしていた。即身仏というのは僧侶が死

記事を読む

『さよなら、人類』ショボくれたオジサンの試される映画

友人から勧められたスウェーデン映画『さよなら、人類』。そういえば以前、この映画のポスターを見

記事を読む

no image

社会風刺が効いてる『グエムル ー漢江の怪物ー』

  韓国でまたMERSが猛威を振るっていると日々の報道で伝わってきます。このMERS

記事を読む

『シング・ストリート』 海の向こう、おなじ年代おなじ時代

映画『シング・ストリート』は、事前にかなりの評判を耳にしていた。「はやくも今年ナンバーワンの

記事を読む

『ウィキッド ふたりの魔女』 陰惨な世界を軽やかに歌い上げよう

観るべきかやめるべきか迷っていた映画『ウィキッド ふたりの魔女

『ひらやすみ』 とがって、たたかれ、まるくなり。

2025年の冬、自分のSNSのタイムラインでは『ひらやすみ』と

『プレデター バッドランド』 こんなかわいいSFアクション映画が観たかった

『プレデター』の最新作が公開される。近年日本では洋画が不人気。

『藤本タツキ 17-26』 変態宣言を強要する珠玉のアニメ短編集!

『チェンソーマン』は、期待してなかったにも関わらず意外とハマっ

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』 こうしてすべてが変わっていく

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』という映

→もっと見る

PAGE TOP ↑