*

『時効警察はじめました』むかし切れ者という生き方

公開日: : 最終更新日:2020/03/03 ドラマ, 映画:サ行

『時効警察』が12年ぶりの新シリーズが始まった。今期の日本の連続ドラマは、10年以上前の続編が多い。他には『結婚できない男』まで新シリーズも13年ぶりの続編がある。放送局は別だけど、これは偶然じゃない。それくらい新しいネタに限界が来ているのかもしれない。

12年前どんなだったかふと考えてみる。自分は結婚した年だ。12年なんてあっという間だったけど、いざ振り返ってみるといろんなことがあった。そりゃあ加齢だけでなく、苦労で老けてくるのも仕方がない。

『時効警察』のファーストシーズンが放送されているころは、自分はまだ仕事をしながらシナリオ作家養成学校に通っていた。そこのクラスメイトに「おもしろいドラマがあるよ」と教えてもらったと思う。だから1話から観ずに、途中からの参戦だった。気に入ってあとからレンタルで最初から観直した。

『時効警察』というタイトルから、なんだかSFものみたいな印象を受けた。観てみると、サブカル臭漂う、ユルユルのコメディじゃないか。三木聡監督の作品を遡ってぜんぶ観たものだ。

他のゲストの作家陣も豪華で、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんや、京都アニメ作品で有名な吉田玲子さんも名を連ねている。今期の『時効警察はじめました』でも、最近のりにのってる福田雄一監督も参加している。もう、サブカル好きのツボをよくご存知。

この12年間で法律も変わり、凶悪犯罪は時効がなくなった。それでも『時効警察はじめました』。そこがユルユルなのだ。それがいい。

今回から新メンバーに吉岡里帆さんが参戦してる。彼女はNHKのウッチャンのコント番組『LIFE』にゲスト出演していたときに、あまりにコメディセンスが高かったので、気になっていた。

テレビに出る人でかわいい人は山ほどいるけど、コメディセンスがある人はそうそういない。山田洋次監督が「作品で人を泣かせるなはたやすいけれど、笑わせるのはひじょうに難しい」と言っていたっけ。ウッディ・アレンも言ってたかな? まったく御意です。

だから笑いのセンスが高い役者さんは、自分にとっては名優だと評価してしまう。笑いのツボを理解してる役者さんには、どうしても期待してしまう。

しかしこのドラマのファーストシーズンのころには、吉岡里帆さんは中学生くらいだと思うと、時の流れが恐ろしい。

そしてまた、果たして12年後の自分はいったいどうなっているだろうか? 存命で元気だったら、もう老後のことを考えはじめてるだろう。

『時効警察』はオダギリジョーさん演じる桐山修一郎が、時効になった事件を「趣味で」解決していく一本完結の連続ドラマ。趣味というところがポイント。「そんな大変なことに打ち込む余裕があるんだ?」とか、「みんないつも遊んでるじゃん」って、ツッコミどころがいっぱい。なにげに、公務員批判かと邪推してしまう。

ドラマは一応推理モノのスタイルなんだけど、みどころはそこじゃない。随所随所の小ネタが楽しくて仕方がない。霧山くんが、事件の捜査に奔走する場面より、「時効管理課」というホントに必要ない課で、うだうだ同僚たちが、どうでもいい世間話をしている場面がいちばんおもしろい。

時効管理課は、基本的に業務がないみたいだから、みんなサロンに集まっているようなリラックス感。だから他の課の人たちも、くだらない話をしようと集まってくる。(しかも演出は激しいカット割りで、勢いがある。)

社会全体のブラック化で、仕事中に人間らしくリラックスするなんて、もってのほかとなってしまった現代社会には、とてもうらやましい職場風景にみえてしまう。

岩松了さんが演じる、時効管理課課長の熊本さんがいい。ずっとふざけた態度のおじさんだが、なんでも昔は切れ者刑事だったとか。

組織において、切れ者って結構厄介がられる。物事の本質をすぐに見抜いてしまうので、誰かにとって不都合なこともバレてしまう。古い体質の組織ならなおのこと。切れ者を上手に使える組織なら、きっと伸びていくだろうけど、そうそう世の中変化を好まない。だからうだつの上がらない時効管理課で、部下たちと日々ふざけてる熊本さんの存在はとてもリアル。

物事の道理が見え過ぎて困ることが時としてあるものだ。でもそれを力説したところで、かえって自分の立場を悪くすることもある。

こりゃあ言っても伝わらないなと感じたら、熊本さんのように、ひょうひょうと素知らぬふりをしているのも生きる処世術。

わかってもらえなくとも、それでいい。

マウンティングはびこる世の中で、負けるが勝ちと開き直って忘れちゃうのも、大事なことだと常々思う今日この頃です。

関連記事

『のだめカンタービレ』 約束された道だけど

久しぶりにマンガの『のだめカンタービレ』が読みたくなった。昨年の2021年が連載開始20周年

記事を読む

『フェイクニュース』 拮抗する日本メディア

自分はすっかり日本の最新作は観なくなってしまった。海外作品でも、テレビドラマのようなシリーズ

記事を読む

『スカーレット』慣例をくつがえす慣例

NHK朝の連続テレビ小説『スカーレット』がめちゃくちゃおもしろい! 我が家では、朝の支

記事を読む

『斉木楠雄のΨ難』生きづらさと早口と

ネット広告でやたらと『斉木楠雄のΨ難』というアニメを推してくる。Netflix独占で新シーズ

記事を読む

『今日から俺は‼︎』子どもっぽい正統派

テレビドラマ『今日から俺は‼︎』が面白かった。 最近自分はすっかり日本のエンターテイメ

記事を読む

no image

『スター・トレック BEYOND』すっかりポップになったリブートシリーズ

オリジナルの『スター・トレック』映画版をやっていた頃、自分はまだ小学生。「なんだか単純そうな話なのに

記事を読む

『サマーウォーズ』 ひとりぼっちにならないこと

昨日15時頃、Facebookが一時的にダウンした。 なんでもハッカー集団によるものだった

記事を読む

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』 特別な存在にならないという生き方

立川シネマシティ[/caption] 世界中の映画ファンの多くが楽しみにしていた『スター・ウ

記事を読む

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわかにSNSがざわめいた。Net

記事を読む

no image

『さとうきび畑の唄』こんなことのために生まれたんじゃない

  70年前の6月23日は第二次世界大戦中、日本で最も激しい地上戦となった沖縄戦が終

記事を読む

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自

『マルホランド・ドライブ』 整理整頓された悪夢

映画監督のデヴィッド・リンチが亡くなった。自分が小学生の頃、こ

『侍タイムスリッパー』 日本映画の未来はいずこへ

昨年2024年の夏、自分のSNSは映画『侍タイムスリッパー』の

→もっと見る

PAGE TOP ↑