『しあわせはどこにある』おじさんが旅に出る理由
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最終更新日:2020/03/01
映画:サ行
サイモン・ペッグが観たい!
ハリウッドのヒットメーカーであるJ.J.エイブラムス監督作品には常連で、リブートの『スタートレック』に出演していた。メジャー映画の中にインディペンドの匂いを漂わせてくれて、なんとなく目立っていた。
J.J.が『ミッション・インポッシブル3』の監督になったのを機に、この大ヒットシリーズにもレギュラー入り。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、特殊メイクで宇宙人のジャンク屋まで演じてる。そこまでするかと笑ってしまった。ハリウッド大ヒット映画のシリーズに、しれ〜っと畑違いの男が紛れ込んでいるようで、とぼけている。いい味の役者さんだ。
最近では彼のことを「サイモン・ペグ」と表記することが多い。「ペグ」なのか「ペッグ」なのか、よくわからない。
この『しあわせはどこにある』は、フランスの精神科医であるフランソワ・ルロールの私小説的な原作が元になっている。舞台をフランスからイギリスに変えて、悩める精神科医のコメディ映画になっている。
サイモン・ペッグ演じるヘクターは精神科医。仕事は順調、同棲している彼女とは、そろそろ結婚のことも考えなければいけない。なんとなく毎日のルーティンをこなしている。退屈な毎日。しあわせなはずなのに、なんだか物足りない。俺の人生、こんなんでいいの?
行き詰まったヘクターが、旅に出るのは至極当然。人は今いる場所から視点を変えることで、自分の立ち位置が見えてくる。おじさんだって自分に迷うことはある。こうして、おじさんの自分探しの旅が始まる。
人というものはおかしなもので、欲しいものが手に入ると、やがてそれに飽きて、不平不満の難癖をつけてしまう。よく「今あるところに、感謝できるものを見つけていきなさい」とは、自己啓発的なものは言っている。それは心身ともに健康に生きるためのテクニック。
ヘクターの旅先で出会う人々のキャスティングも絶妙。『アベンジャーズ』に博士の役で出ていたステラン・スカルスガルドや、『レオン』のジャン・レノなんかも出てくる。派手なハリウッド映画で活躍する、地味な役者たち。
さて、ヘクターの自分探しの旅はいかなるものか。これがイケメンのダンディな俳優の旅だったら、観客はちっとも共感できない。むしろ旅行記のカタログ映画として終わってしまう。サイモン・ペッグの、しょぼくれてても華がある存在感が絶妙だ。
幸せの定義とはいったいどんなものだろう? 金があるから幸せか? 地位があるから幸せか? 家族がいるから幸せか? 仕事があるから幸せ? それとも友だちが大勢いるから?
「幸せとは今ある足元にひっそりと存在していて、自分自身で見つけて感謝していくもの」らしい。人とは無い物ねだりで、今そこにいる場所はとても退屈に思えてしまう。もちろん不平不満から生活の向上への工夫へつながっていくことはある。建設的な不満なら、逆にあげていく価値はある。
戦争やら難病やらで、自分自身の力ではどいうしようもない不幸というものはある。でもそれ以外の状況ならば、幸せを感じる糸口は見つけることはできる。これは生きるためのテクニック。たとえ戦争や難病に襲われたとしても、それでも人は幸せを求めていくものだろう。それが人間らしいユーモアだ。
私と同業者の独身の人で、メジャーなクライアントがついて、業界のトップクラスになった人もいる。高い車を何台も所有して、好きなものはなんでも買えてしまう。その人も私と同じ映画ファンで、高価なフィギアや、ヒーローの実物大のスーツなんかも持っているらしい。
単純に「うらやましいな〜」と言ったら、友人に「君の方が充分幸せそうにみえるよ」と言われたことがある。無名であっても、ささやかな生活をしていく。案外、幸せなんて素朴な生活の中にあるものらしい。
心の病を患った人の治療法に、自分の人生で幸せだと思ったひと時ばかりをあげていくものがあるらしい。自分の人生に自信を持たせるためのもの。患者たちが「幸せなこと」として思い出すのは、亡くなった夫が庭いじりをするのを見ていたとか、疎遠になった子どもたちが小さかったときに一緒に食べた食事、家に帰ったら母親が台所で夕食を作っていた様子とか、ごくごくありふれたものばかり。
本当の幸せなんて、なんとささやかなことの積み重ねなのか。自分の幸せは、自分で自覚していかないと、今しかないかけがえのない一瞬を見落としてしまっているかもしれない。これはもったいない。夜な夜な、もったいないお化けに襲われそうだ。
私も人生の黄昏を感じたとき、「あのときあれをしておけば良かった」と後悔しないように生きていかなければと思わされる。そんな映画だった。今いる場所での小さな幸せ探しは、人生に重要だ。それはユーモアセンスでもあり、生きる処世術でもある。
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