『ディファイアンス』他力本願ならカタルシス
事実は小説よりも奇なり。
第二次大戦中のナチスドイツのユダヤ人迫害を描いた作品は、ひとつのジャンルといっていいほど近年たくさん製作されている。この映画『ディファイアンス』も、そのテーマを扱っているのだが、一連の作品とは一味印象が違う。ユダヤ人たちが、ただただナチスに殺されているだけではなく、パルチザンとなって戦っているのだ。
監督は『ラストサムライ』などのエドワード・ズウィック。社会派の題材を娯楽性高く味付けするのが得意の監督さん。史実を基にしたこの映画も、要所要所にハリウッド的なひな形は感じられる。ここは脚色なんだろうなと、ハッキリわかってしまうのはご愛嬌。
ユダヤ人狩りをするナチスに対し、逃げるだけではなく、武器を集めながら抵抗していくユダヤ人コロニー。ユダヤ人といえば、ずっと迫害され続けている民族のイメージ。戦うユダヤ人もいたというのが新鮮。
ユダヤ人たちが森の中で逃亡生活を送る。その自然描写の美しさや、ナチスとの攻防戦と、映画的な要素がふんだんに織り込まれている。
主人公のユダヤ人のリーダーをダニエル・クレイグが演じてる。『007』シリーズでの悲しみを背負ったジェームズ・ボンドのイメージを引き継いでいる。悲壮感の中の強い目力が印象的。
ユダヤ人パルチザンが、ナチスドイツ軍やそれに手を貸した人間に報復する。観客としてはなんともしれないカタルシス。でもちょっと待て。人が殺される場面で、スッキリしてしまう感性って、かなり危険。ナチスの非人道的な大虐殺は、許されざることだけど、「目には目を」を続けていけば、みんな目がなくなっちゃう。誰だってやはり、むざむざただ殺されるくらいなら抵抗はするだろう。問題はこの絶対悪が生まれてしまう土壌。
ハンナ・アーレントの『全体主義の起源』にまつわる何かで読んだ、侵略側の一兵卒として出征した人の記録で、上官から捕虜を殺せと命じられたというものがある。怯える相手国の捕虜を前に、その後ろでは上官が睨みをかけている。殺さなければ自分が殺される。その一兵卒が、捕虜を刺し殺した瞬間込み上げてきたのは、恐怖や後悔よりも、恍惚感だったとのこと。そうして暴力は正当化される。
大勢の人を殺したシリアル・キラーも、最初の一人目を殺めるのは大変だと聞く。
以前、自主劇団をやっている頃のこと。作品は幕末時代の志士たちの話。登場人物はみなたくさん人を殺してる。役者さんのひとりから聞いた役作りのイメージ・トレーニングで、具体的な誰かを実際に殺す想像を巡らせてみたらしい。ディテールを詳しくイメージすればするほど、身震いするほど恐ろしかったとのこと。最初の1人をイメージするのは、難儀だったけど、2人目3人目は慣れていって簡単になったとのこと。残虐性への麻痺。こうしてサイコパスは完成、製造されてくのだろうか。
ユダヤ人たちがナチス軍をやっつける。なんともカタルシスがある展開。主人公が親の仇を討ったあと、弟が「気分は良いか?」と尋ねる。良いわけがない。悪党が倒される姿をみるのは勧善懲悪の世界では気分が良い。自分とは関係ない第三者が、手を下して悪いヤツを成敗する。世界に平和がやってくる。みんなが英雄に感謝する。だがその英雄の手は血塗られて、その人生は滅茶滅茶だ。
現実は勧善懲悪のようにうまくはいかない。グレーゾーンのせめぎ合い。こういった戦争映画は、一応善悪ハッキリしていないと観客は混乱してしまう。社会派のシリアスな映画ではあるが、無防備にそのままを真実とは受け取らない想像力も必要だ。
映画は鑑賞後、それなりに爽快感を与えてくれる。これはあくまでエンターテイメントなんだと、おのれに釘を刺して、割り切ってみた方がいいみたいだ。
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