*

『ワンダーウーマン』 女が腕力を身につけたら、男も戦争も不要となる?

公開日: : 最終更新日:2021/08/17 映画:ワ行, 映画館

ガル・ギャドットが演じるワンダーウーマンの立ち姿がとにかくカッコイイ! それを一見するだけでもこの映画を観る価値がある。

最近のワーナー&DCのアメコミヒーローモノは、成功しているディズニー&マーベルを意識しすぎて空回りしている感は否めない。

『DCエクステンデッド・ユニバース』の前作にあたる『スーサイド・スクワッド』。マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインと、ジャレッド・レトのジョーカーとのカップルはとても魅力的。でもかんじんの映画では中途半端な活躍ぶりでガッカリ。

『バットマン vs スーパーマン』も、彼らがなぜ争っているのかサッパリ理解できなかった。ガル・ギャドットのワンダーウーマンが、この作品で中途参戦する。彼女が登場した場面だけはスカッとした。『バットマン vs スーパーマン』は、ワンダーウーマンにすべて持ってかれていた。

なんでもガル・ギャドットは、『マッドマックス』でシャーリーズ・セロンが演じたフュリオサ役のオーディションで競ったらしい。シャーリーズ・セロンのフュリオサはサイコーだったけど、仮にガル・ギャドットがフュリオサでも、絶対あのキャラクターのファンになっていた。

ガル・ギャドットはイスラエル出身で、兵役の経験がある。この『ワンダーウーマン』も、なんらかのプロパガンダではと懸念の声もあったが、そもそもアメコミ自体が当時の子どもたちへのそれであったので、いまさら騒ぐ問題でもないかも。受け手である観客のセンスに大いに委ねられる。

むしろいつも悪役にされているドイツ人は、この映画を一体どうとらえているだろうか? 「どーせ自分たちは歴史の悪役だよ」と拗ねてるんじゃないか? 悪の軍神に取り憑かれている設定とはいえ、ドイツ人なら殺してもいいってのはなんとも気色悪い。あとドイツ人がみな英語喋ってるのとかもあまり気にしてはいけない。

人間の脳は男性よりも女性の方が優れているのは科学が証明している。記憶力やら共感力が女性の方が得意とするのは日々感じること。でもほとんどの社会が男性優位になるようにできている。日本でも女性の社会進出がうながされてからだいぶ経つが、それでも続く男尊女卑の流れ。

女性が男性を立てているのは、腕力ではかなわないから一歩譲ってくれているだけなのかもしれない。男性は自分の脳の方が能力が劣っているのを本能的に知っているからこそ、女性を従えようとする。でもそれはかなり原始的な考え。男性の脳のCPUが低いのは、その「忘れやすい能力」こそが、狩猟での恐怖を乗り越えるためのものらしい。男性も現代社会では危険な仕事をしなくて済むようになった。そうなるとただのおバカさんに成り下がってしまうのか?

バカなだけならいいが、無駄に闘争本能が残っているため、誰が上で誰が下かばかり気になり、争いごとが絶えなくなる。経済的な競い合いから戦争までと果てなく続く。

女性がもし男性よりも腕力があったなら、ワンダーウーマンの故郷と同じように、女性だけのコロニーをつくって、女だけで生きていくのではないだろうか。映画での女の王国では子どもがいなかったが、子どもがいたら、その子たちが生きやすい社会をつくるのを最優先にするのが女性だろう。日々の生活を少しでも快適に過ごすだめの工夫と努力。静かだがクリエイティブな作業に一生をかける。

もちろん女性でも争いごとを好む人だっている。でも大抵そんな人は同性から嫌われてる。自分から好んで男社会の修羅道に飛び込んでいくだろう。女社会の戦いは、調和を保つための建設的で平和を求める静かなもの。暴力は皆無。

好評な『ワンダーウーマン』の映画に対してジェイムズ・キャメロン監督が辛口批判をした。それに対して本作を演出した女流監督パティ・ジェンキンスは知的に対応した。とても爽快。周知の通りジェイムズ・キャメロン作品には、強い女性が大活躍する映画ばかり。でもやはりそれは男性目線の女性像。

『ワンダーウーマン』は、女性監督による、女性が好感が持てるスーパーヒロインを成立させた。ワンダーウーマンのコスチュームは、肌の露出すら武装にみえる。相手役のクリス・パインだって結構マッチョなはずなのに、ガル・ギャドット=ワンダーウーマンと並ぶと、華奢な草食男子にみえてきちゃう。もう姐さんにお任せします!

ジェイムズ・キャメロンは明らかに嫉妬してる。でもキャメロンの言い分もあながち的はずれではない。自分ももっとワンダーウーマンの活躍場面がみたかった。これくらいじゃ物足りない! ワンダーウーマンことダイアナと、人間社会のカルチャーギャップをもっとみたかった! そしてダイアナのイノセントぶりもみたい! これはDCエクステンデッド・ユニバースの総括を目論む頭の固いプロデューサー側が不自由にさせているせいから?

でも続編の製作も同じパティ・ジェンキンス監督の続投で決まったし、本作の成功でまだまだ盛り上がりそう。DCエクステンドの次回作『ジャスティス・リーグ』にもワンダーウーマンは登場するけど、こちらはいささか不安。『ワンダーウーマン2』に期待はふくらむばかり。

ガル・ギャドットは実際に二児のママ。ハリウッドのオーディションには娘を連れてイスラエルから通っていたらしい。アクションスターで母親という、なんともカッコイイ存在。そんな人物がワンダーウーマンを演じるのだから、キャラクターに魅力も滲み出る。

映画館には一人で観に来ている女性が多かった。同性の興味を惹くワンダーウーマン。かつて冒険譚は少年の専売特許だったけど、今は女性が活躍する作品が圧倒的に面白い。もう男の出番はなさそうだ。ようやく男目線じゃない「良い女」像がみえてきた。とにかくもう男に媚びる女はみたくない!

関連記事

『Ryuichi Sakamoto | Opus』 グリーフケア終章と芸術表現新章

坂本龍一さんが亡くなって、1年が過ぎた。自分は小学生の頃、YMOの散会ライブを、NHKの中継

記事を読む

『ワンダー 君は太陽』親になってわかること

自分はお涙頂戴の映画は苦手だ。この『ワンダー』は、予告編からして涙を誘いそうな予感がする。原

記事を読む

『ノマドランド』 求ム 深入りしない人間関係

アメリカ映画『ノマドランド』が、第93回アカデミー賞を受賞した。日本では3月からこの映画は公

記事を読む

『あん』 労働のよろこびについて

この映画『あん』の予告編を初めて観たとき、なんの先入観もなくこのキレイな映像に、どんなストー

記事を読む

『かもめ食堂』 クオリティ・オブ・ライフがファンタジーにならないために

2006年の日本映画で荻上直子監督作品『かもめ食堂』は、一時閉館する前の恵比寿ガーデンシネマ

記事を読む

『鬼滅の刃 無限列車編』 映画が日本を変えた。世界はどうみてる?

『鬼滅の刃』の存在を初めて知ったのは仕事先。同年代のお子さんがいる方から、いま子どもたちの間

記事を読む

『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』 マイノリティとエンターテイメント

小学生の息子は『ハリー・ポッター』が好き。これも親からの英才教育の賜物(?)なので、もちろん

記事を読む

『DUNE デューン 砂の惑星』 時流を超えたオシャレなオタク映画

コロナ禍で何度も公開延期になっていたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF超大作『DUNE』がやっと

記事を読む

『誘拐アンナ』高級酒と記憶の美化

知人である佐藤懐智監督の『誘拐アンナ』。60年代のフランス映画のオマージュ・アニメーション。

記事を読む

『マッドマックス フュリオサ』 深入りしない関係

自分は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大好きだ。『マッドマックス フュリオサ』は、そ

記事を読む

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』 刷り込み世代との世代交代

今度の新作のガンダムは、『エヴァンゲリオン』のスタッフで制作さ

『ブラッシュアップライフ』 人生やり直すのめんどくさい

2025年1月から始まったバカリズムさん脚本のドラマ『ホットス

『枯れ葉』 無表情で生きていく

アキ・カウリスマキ監督の『枯れ葉』。この映画は日本公開されてだ

『エイリアン ロムルス』 続編というお祭り

自分はSFが大好き。『エイリアン』シリーズは、小学生のころから

『憐れみの3章』 考察しない勇気

お正月休みでまとまった時間ができたので、長尺の映画でも観てみよ

→もっと見る

S