*

王道、いや黄金の道『荒木飛呂彦の漫画術』

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, ドラマ, 映画,

 

荒木飛呂彦さんと言えば『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの漫画家さん。自分は少年ジャンプの漫画は一応最初の方は読んでいても、あまりに連載が長過ぎて途中で飽きてやめてしまうというのがいつものパターン。自分は飽きっぽいんです。『ジョジョ〜』も読んでいたのは最初の方だけ。だからシリーズを重ねていくごとに深まっていくキャラクターや設定のことはよくわからない。その面白さは第三者からよく聞かせてもらったものです。

「企業秘密を公にするのですから、僕にとっては、正直、不利益な本です」と帯に書いてありました。読んでみると漫画に限らず、映画やドラマ、小説など、ストーリーに関わる商業作品では必ず押さえておくべき王道、いや黄金の道が丁寧に説明してくれています。

『ジョジョの奇妙な冒険』は個性的な作品と思っていたらさにあらず、これほどエンターテイメントの王道を踏まえた上で味付けしている作品はないくらい。と言うかヒットする作品のほとんどはこの『黄金の道』を踏襲していると言っても過言ではない。荒木飛呂彦さんの分析された文章は、エンターテイメントのあり方に大いに説得力をつけている。

企業秘密を明らかにした荒木さん。でもこれを明らかにしたところで、面白い作品を作れる人が多勢出てくるとは到底思えない。荒木さんの語る創作の基本中の基本を押さえていても、必ずしも漫画が書けるというほど簡単なものではない。漫画家というのは話が書けて、絵も描けるという天才的な才能の融合。おいそれとそんな天才がいるわけがない。

物語を書く上で、今流行っているもののモノマネや、作品のリサーチだけで作ってしまっても3年はもたないと言う荒木さん。少年ジャンプという長丁場の作品を描いている作家ならではの、長い目での作品構想。その辺はちょっと特別な感じもしたが、モノマネでは一発屋がせいぜいと言ったところか。時には反対が多くても、自分が描きたいものの直感を信じることの大切さを語っています。大事なのはストーリーや世界観よりも、登場人物の魅力だというのも納得。

荒木さんが富裕層の別荘村に遊びにいった時、金持ち達が「イノシシが出てきて困るので駆除を頼んだ」という会話を聞いて、「こんな山奥に自分から来て、駆除するなんて傲慢だな」と思ったことがきっかけで、マナー対決(バトル)漫画『富豪村』のアイディアの着想が浮かんだと言います。どこでアイディアの種があるか分からない。ネットではなく自分の足を使うことの大切さ。

しかし思うんですね。どんなにたくさん本を読んでも、どんなにたくさんの場所へ行っても、自分の中に問題意識がなければ何も感じないし、何もひらめかないと。荒木さんがイノシシ駆除に違和感を感じる感性があったからこそ、作品へと繋がっていけるのです。なにかのマネじゃない。ただただ金儲けがしたいがためのウケ狙いじゃない。そこに荒木飛呂彦の作家としての個性があるのです。

物事最初はモノマネから始まるとは言えど、人間性を磨かなければ、人の心に響く作品は描けないということです。

関連記事

『千と千尋の神隠し』子どもが主役だけど、実は大人向け

言わずもがなスタジオジブリの代表作。 フランスのカンヌ映画祭や アメリカのアカデミー賞も

記事を読む

『帝都物語』 混沌とした世にヤツは来る!!

9月1日といえば防災の日。1923年の同日に関東大震災で、東京でもたいへんな被害があったこと

記事を読む

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の終わり』。BTSのテテがこの作

記事を読む

『下妻物語』 若者向け日本映画の分岐点

台風18号は茨城を始め多くの地に甚大なる被害を与えました。被害に遭われた方々には心よりお見舞

記事を読む

『死ぬってどういうことですか?』 寂聴さんとホリエモンの対談 水と油と思いきや

尊敬する瀬戸内寂聴さんと、 自分はちょっとニガテな ホリエモンこと堀江貴文さんの対談集

記事を読む

no image

『坂本龍一×東京新聞』目先の利益を優先しない工夫

  「二つの意見があったら、 人は信じたい方を選ぶ」 これは本書の中で坂本龍

記事を読む

no image

『東のエデン』事実は小説よりも奇なりか?

  『東のエデン』というテレビアニメ作品は 2009年に発表され、舞台は2011年

記事を読む

no image

『マッサン』女性が主役の朝ドラに、男の名前がタイトルの理由

  NHKの朝の連続テレビ小説。 ここのところすべての作品が評判が良く、 毎朝日

記事を読む

no image

『CASSHERN』本心はしくじってないっしょ

  先日、テレビ朝日の『しくじり先生』とい番組に紀里谷和明監督が出演していた。演題は

記事を読む

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自分もNetflixに加入してい

記事を読む

『新幹線大爆破(Netflix)』 企業がつくる虚構と現実

公開前から話題になっていたNetflixの『新幹線大爆破』。自

『ラストエンペラー オリジナル全長版」 渡る世間はカネ次第

『ラストエンペラー』の長尺版が配信されていた。この映画は坂本龍

『アドレセンス』 凶悪犯罪・ザ・ライド

Netflixの連続シリーズ『アドレセンス』の公開開始時、にわ

『HAPPYEND』 モヤモヤしながら生きていく

空音央監督の長編フィクション第1作『HAPPYEND』。空音央

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自

→もっと見る

PAGE TOP ↑