王道、いや黄金の道『荒木飛呂彦の漫画術』
荒木飛呂彦さんと言えば『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの漫画家さん。自分は少年ジャンプの漫画は一応最初の方は読んでいても、あまりに連載が長過ぎて途中で飽きてやめてしまうというのがいつものパターン。自分は飽きっぽいんです。『ジョジョ〜』も読んでいたのは最初の方だけ。だからシリーズを重ねていくごとに深まっていくキャラクターや設定のことはよくわからない。その面白さは第三者からよく聞かせてもらったものです。
「企業秘密を公にするのですから、僕にとっては、正直、不利益な本です」と帯に書いてありました。読んでみると漫画に限らず、映画やドラマ、小説など、ストーリーに関わる商業作品では必ず押さえておくべき王道、いや黄金の道が丁寧に説明してくれています。
『ジョジョの奇妙な冒険』は個性的な作品と思っていたらさにあらず、これほどエンターテイメントの王道を踏まえた上で味付けしている作品はないくらい。と言うかヒットする作品のほとんどはこの『黄金の道』を踏襲していると言っても過言ではない。荒木飛呂彦さんの分析された文章は、エンターテイメントのあり方に大いに説得力をつけている。
企業秘密を明らかにした荒木さん。でもこれを明らかにしたところで、面白い作品を作れる人が多勢出てくるとは到底思えない。荒木さんの語る創作の基本中の基本を押さえていても、必ずしも漫画が書けるというほど簡単なものではない。漫画家というのは話が書けて、絵も描けるという天才的な才能の融合。おいそれとそんな天才がいるわけがない。
物語を書く上で、今流行っているもののモノマネや、作品のリサーチだけで作ってしまっても3年はもたないと言う荒木さん。少年ジャンプという長丁場の作品を描いている作家ならではの、長い目での作品構想。その辺はちょっと特別な感じもしたが、モノマネでは一発屋がせいぜいと言ったところか。時には反対が多くても、自分が描きたいものの直感を信じることの大切さを語っています。大事なのはストーリーや世界観よりも、登場人物の魅力だというのも納得。
荒木さんが富裕層の別荘村に遊びにいった時、金持ち達が「イノシシが出てきて困るので駆除を頼んだ」という会話を聞いて、「こんな山奥に自分から来て、駆除するなんて傲慢だな」と思ったことがきっかけで、マナー対決(バトル)漫画『富豪村』のアイディアの着想が浮かんだと言います。どこでアイディアの種があるか分からない。ネットではなく自分の足を使うことの大切さ。
しかし思うんですね。どんなにたくさん本を読んでも、どんなにたくさんの場所へ行っても、自分の中に問題意識がなければ何も感じないし、何もひらめかないと。荒木さんがイノシシ駆除に違和感を感じる感性があったからこそ、作品へと繋がっていけるのです。なにかのマネじゃない。ただただ金儲けがしたいがためのウケ狙いじゃない。そこに荒木飛呂彦の作家としての個性があるのです。
物事最初はモノマネから始まるとは言えど、人間性を磨かなければ、人の心に響く作品は描けないということです。
関連記事
-
『ドラゴンボール』 元気玉の行方
実は自分は最近まで『ドラゴンボール』をちゃんと観たことがなかった。 鳥山明さんの前作『
-
『さよなら銀河鉄道999』 見込みのある若者と後押しする大人
自分は若い時から年上が好きだった。もちろん軽蔑すべき人もいたけれど、自分の人生に大きく影響を
-
『となりのトトロ』 ホントは奇跡の企画
先日『となりのトトロ』がまたテレビで放映してました。 ウチの子ども達も一瞬にして夢中になり
-
『ムヒカ大統領』と『ダライ・ラマ14世』に聞く、経済よりも大事なこと。
最近SNSで拡散されているウルグアイのホセ・ムヒカ大統領のリオで行われた『環境の未来を決める会議』で
-
『機動戦士Zガンダム劇場版』 ガンダム再ブームはここから?
以前バスで小学3~4年生の子どもたちが 大声で話していた内容が気になった。 どうせ今
-
『ルパン三世 ルパンvs複製人間』カワイイものは好きですか?
先日『ルパン三世』の原作者であるモンキー・パンチさんが亡くなられた。平成が終わりに近づいて、
-
『かがみの孤城』 自分の世界から離れたら見えるもの
自分は原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』が好きだ。児童文学を原作に待つこのアニメ映画は、子ど
-
大人になれない中年男のメタファー『テッド』
大ヒットした喋るテディベアが主人公の映画『テッド』。 熊のぬいぐるみとマーク・
-
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』 特殊能力と脳障害
いま中年に差し掛かる年代の男性なら、小学生時代ほとんどが触れていた『機動戦士ガンダム』。いま
-
『ワールド・ウォーZ』ゾンビものとディザスターもののイノベーション
ブラッド・ピットが自ら製作も手がけた 映画『ワールド・ウォーZ』。 ゾン