*

『風が吹くとき』こうして戦争が始まる

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 アニメ, 映画:カ行,

 

レイモンド・ブリッグズの絵本が原作の映画『風が吹くとき』。レイモンド・ブリッグズといえば『さむがりやのサンタ』や『スノーマン』の作家さん。『さむがりやのサンタ』なんか、文句ばっかり言いながらプレゼントを運ぶサンタのおじさんの様子が楽しかった。『スノーマン』はキャラクター商品が先行してしまったけど、けっこう切ない内容。そんな可愛いタッチのブリッグズ作品。それだけで興味がわく。主題歌はデヴィッド・ボウイだし、日本語版の演出は大島渚監督。なんとなく『戦場のメリークリスマス』の続きのよう。当時アニメ作品にしては珍しく、単館ミニシアター系で公開されていた。自分は劇場で見逃してしまい、レンタルビデオで遅れて観た。

森繁久彌さんと加藤治子さんが吹き替えている老夫婦は、老後の生活を田舎でのんびり暮らしている。穏やかな映像が続く中、ラジオで戦争がっ始まったことが伝わる。それでもラジオの向こう側の情報なので、どこか他人ごと。そして核爆弾の投下。爆風の直接の被害は間逃れたけど……。

レイモンド・ブリッグズの可愛らしい絵の中に展開される恐ろしい世界。とくに恐ろしいのは、この老夫婦はラジオから流れてくる政府の情報に素直に従っているということ。もし自己判断で動いたらまた別の結果もあったのでは?と思ってしまう理不尽な話。ファンタジーとしてはとてもリアルなシミュレーション。戦争なんて他人事と思ってピンときていなかったら、すでに目の前に地獄が広がっていて逃げられなくなっている。戦争が始まるとはこういうことなのだろう。壊れるのは一瞬。

80年代、多くのアーティストたちが核の恐怖をテーマに作品を発表している。日本は唯一核攻撃を受けた国。そしてこの映画の公開と同じ頃、チェルノブイリの原発事故を迎えている。感覚の鋭いアーティストたちはずっと以前から核の脅威を訴えている。原爆が2発も落ちて、原発事故まで起こしている日本。果たして日本の現状を海外の人はどう感じているのだろうか? それでも核にすがろうとする姿は、さぞ愚かしくみえるだろう。

今の日本では、原発やら戦争やら究極の不幸へ向かう話ばかりなのがとても残念。もっと足元の日々の生活を豊かにしていく話ができていないものかと思ってしまう。

関連記事

no image

『レヴェナント』これは映画技術の革命 ~THX・イオンシネマ海老名にて

  自分は郊外の映画館で映画を観るのが好きだ。都心と違って比較的混雑することもなく余

記事を読む

『グラディエーター』 Are You Not Entertained?

当たり外れの激しいリドリー・スコット監督の作品。この『グラディエーター』はファーストショット

記事を読む

『死ぬってどういうことですか?』 寂聴さんとホリエモンの対談 水と油と思いきや

尊敬する瀬戸内寂聴さんと、 自分はちょっとニガテな ホリエモンこと堀江貴文さんの対談集

記事を読む

no image

『スノーデン』オタクが偉人になるまで

スノーデン事件のずっと前、当時勤めていた会社の上司やら同僚がみな、パソコンに付属されているカメラを付

記事を読む

『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』 25年経っても続く近未来

何でも今年は『攻殻機動隊』の25周年記念だそうです。 この1995年発表の押井守監督作

記事を読む

『龍の歯医者』 坂の上のエヴァ

コロナ禍緊急事態宣言中、ゴールデンウィーク中の昼間、NHK総合でアニメ『龍の歯医者』が放送さ

記事を読む

『ゴジラvsコング』 趣味嗜好は世代とともに

小学生になる我が息子はなぜかゴジラが好き。日本版の最近作『シン・ゴジラ』も、幼稚園の頃にリア

記事を読む

no image

『ムヒカ大統領』と『ダライ・ラマ14世』に聞く、経済よりも大事なこと。

最近SNSで拡散されているウルグアイのホセ・ムヒカ大統領のリオで行われた『環境の未来を決める会議』で

記事を読む

no image

『きゃりーぱみゅぱみゅ』という国際現象

  泣く子も黙るきゃりーぱみゅぱみゅさん。 ウチの子も大好き。 先日発売され

記事を読む

no image

戦争は嫌い。でも戦争ごっこは好き!! 『THE NEXT GENERATION パトレイバー』

  1980年代にマンガを始めOVA、 テレビシリーズ、劇場版と メディアミック

記事を読む

『アバウト・タイム 愛おしい時間について』 普通に生きるという特殊能力

リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム』は、ときどき話

『ヒックとドラゴン(2025年)』 自分の居場所をつくる方法

アメリカのアニメスタジオ・ドリームワークス制作の『ヒックとドラ

『世にも怪奇な物語』 怪奇現象と幻覚

『世にも怪奇な物語』と聞くと、フジテレビで不定期に放送している

『大長編 タローマン 万博大爆発』 脳がバグる本気の厨二病悪夢

『タローマン』の映画を観に行ってしまった。そもそも『タローマン

『cocoon』 くだらなくてかわいくてきれいなもの

自分は電子音楽が好き。最近では牛尾憲輔さんの音楽をよく聴いてい

→もっと見る

PAGE TOP ↑