*

『帝都物語』 混沌とした世にヤツは来る!!

公開日: : 最終更新日:2021/10/10 映画:タ行,

9月1日といえば防災の日。1923年の同日に関東大震災で、東京でもたいへんな被害があったことから、この9月1日は大地震について備える日となった。この『帝都物語』は関東大震災の場面があるので、ふと思い出した。

『帝都物語』は荒俣宏氏の小説で、東京の史実とフィクションを上手に融合させた娯楽作品。徹底的に調べ上げられた歴史描写はリアリティがあって、この物語は実際に起こったことなのではと錯覚してしまう。作品を読んでいると、とても勉強になってしまうのです。東京が混沌とした時代を狙って、加藤保憲という架空の妖怪のような存在が妖術を使って東京を乗っ取ろうとするのが大筋。関東大震災も魔人加藤によって引き起こされたことと作中では描かれている。自分はこの『帝都物語』に初めて触れたのは映画版から。加藤保憲役を嶋田久作さんが演じているのだけれど、もうその存在感で魔人加藤というキャラクターは完成されてしまっている。『魔人加藤=シマキュウ(嶋田久作さん)』観たさに、この映画を観たような気がする。

映画版『帝都物語』の演出は『ウルトラマン』でも有名な実相寺昭雄監督、脚本は『夢見るように眠りたい』や後の『私立探偵 濱マイク』シリーズの林海象氏、こりゃ期待しないはずはない。当時10代前半の自分は、近所の映画館に友達と観に行ったものです。映画館は大入りでした。でもみんな「?」となってしまった。話が理解できないんです。でも「わからない」という言葉は禁句とばかりに、みんな首を傾げながら映画を観続ける。この映画、ヒットはしたしインパクトはあったのだけれど、失敗作なのは否めない。それでも興味をそそる作品だったので、あとから原作を読んでみた。原作小説を読んで、どうして映画版が難解だったのかすぐわかった。原作の途中から話が始まっているからだと。膨大な原作の勺を二時間強の映画に収めるため、割愛に割愛を重ねて、結局いちげんさんお断りの敷居の高い作品になってしまった。当時の原作ものの映像化の特徴として、原作は当然読んでいる前提のものが多かったような気がする。当時は活字のほうが俄然偉く、映像化はひとつのプロセスでしかなかったのかも知れない。映画化なんて、原作者は興味なかったのだろう。

このいちげんさんお断りの作風を反省してか、映画版第二弾の『帝都大戦』では、とてもわかりやすい作りになったのだけれど、これはこれで物足りないという、なんとも難しい作品。『帝都大戦』は第二次大戦中の東京の混乱を利用して魔人加藤が現れる。世の混沌は魔人加藤が暗躍しているのなら、いまの日本の状況は、魔人加藤にはもってこいの利用時期。荒俣先生!、こりゃあ『帝都物語』の新作の出番です!!

 

関連記事

『愛がなんだ』 さらば自己肯定感

2019年の日本映画『愛がなんだ』が、若い女性を中心にヒットしていたという噂は、よく耳にして

記事を読む

『三体(Netflix)』 神様はいるの?

Netflix版の『三体』をやっと観た。このドラマが放送開始されたころ、かなり話題になっていたし

記事を読む

『チェルノブイリ』 あれ、みんな英語しゃべってる?

先日、福島で震度6強の地震があった。311の東北震災から、もうすぐ10年が経とうとする矢先の

記事を読む

no image

『母と暮せば』Requiem to NAGASAKI

  残り少ない2015年は、戦後70年の節目の年。山田洋次監督はどうしても本年中にこ

記事を読む

『TENET テネット』 テクノのライブみたいな映画。所謂メタドラえもん!

ストーリーはさっぱり理解できないんだけど、カッコいいからいい! クリストファー・ノーランの新

記事を読む

『茶の味』かつてオタクが優しかった頃

もうすぐ桜の季節。桜が出てくる作品で名作はたくさんある。でも桜ってどうしても死のメタファーと

記事を読む

『メダリスト』 障害と才能と

映像配信のサブスクで何度も勧めてくる萌えアニメの作品がある。自分は萌えアニメが苦手なので、絶

記事を読む

no image

『リップヴァンウィンクルの花嫁』カワイくて陰惨、もしかしたら幸福も?

  岩井俊二監督の新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。なんともややこしいタイトル。

記事を読む

『怒り』 自己責任で世界がよどむ

正直自分は、最近の日本のメジャー映画を侮っていた。その日本の大手映画会社・東宝が製作した映画

記事を読む

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』 特殊能力と脳障害

いま中年に差し掛かる年代の男性なら、小学生時代ほとんどが触れていた『機動戦士ガンダム』。いま

記事を読む

『サタンタンゴ』 観客もそそのかす商業芸術の実験

今年2025年のノーベル文化賞をクラスナホルカイ・ラースローが

『教皇選挙』 わけがわからなくなってわかるもの

映画『教皇選挙』が日本でもヒットしていると、この映画が公開時に

『たかが世界の終わり』 さらに新しい恐るべき子ども

グザヴィエ・ドラン監督の名前は、よくクリエーターの中で名前が出

『動くな、死ね、甦れ!』 過去の自分と旅をする

ずっと知り合いから勧められていたロシア映画『動くな、死ね、甦れ

『チェンソーマン レゼ編』 いつしかマトモに惹かされて

〈本ブログはネタバレを含みます〉 アニメ版の『チ

→もっと見る

PAGE TOP ↑