『スーパーサラリーマン佐江内氏』世界よりも家庭を救え‼︎
日テレの連続ドラマ『スーパーサラリーマン佐江内氏』の番宣予告をはじめて観たとき、スーパーマン姿の堤真一さんの姿に一瞬にして心惹かれた。原作は藤子・F・不二雄氏というのも興味深かった。でも連ドラを追っかけて観るのは面倒だな〜と、そのまま忘れていた。ふと、この番組が面白いと人に勧められ、あと一回で最終回にも関わらず観てみたら、面白いのなんの!
物語も後半にさしかかっているのに、なにひとつ問題なく設定やストーリーが理解できた。ひと目でウチの子たちも食いついたし、家族全員で楽しめる、ユルいけど情報の濃いコメディ作品だ。いつの間にかウチではオンデマンドで全話レンタルしており、我が家のテレビがついているときは、常に『佐江内さん』のヘビーローテション状態となっている。
主人公の佐江内さんは名前の通り、正直だけが取り柄の、冴えない中年サラリーマン。家には家事を一切放棄した鬼嫁と、それに結託した子どもたち。会社では万年係長で、上司からはいいようにこき使われ、部下からはナメられてる。そんな中、謎の老人からスーパーマンに変身できるスーツをもらい、サラリーマンとスーパーマンを両立させる日々となる!
作品の雰囲気やキャストが『勇者ヨシヒコ』っぽいなと思っていたら、福田雄一監督作品じゃないの! そりゃ笑えるに決まってる。
原作は70年代に書かれたものなのに、時代は巡ってとても現代的なテーマ。ハリウッドでのスーパーヒーロー・ブームに乗っかって、タイトルバックはマーベルのそれに似せてる。スーパーマンという、世界を守る一大使命を背負いながら、日常生活との折り合いに苦労する主人公。このドラマは、あえてスケールの小さな方を狙ってるけど、実はアメコミのテーマもまったく同じ方向性。世界の平和を背負っていたって、毎日の生活がある。日常をキープすることができずに、人のために働くなんて、それだけだとただの現実逃避。佐江内さんが鬼嫁に言われる。「世界の前に家庭を守れ!」
佐江内さんは、世界や家庭を守っていかなければならない責任に絶えず苦しんでる。でも人は、誰かに必要とされていることを自覚して、はじめてアイデンティティを保ってられる。佐江内さんを苦しめる「責任」は、その反面で彼自身を守っている。
一億総鬱社会へ向かいつつある現代日本。笑いながらもシビアなテーマを突いてくる。実はかなり品がいいコメディ。昇進のしがらみやら舅姑問題やら、スーパーマン以外はかなり現実的な題材なのも面白い。要するにスーパーマンもメタファーのひとつなのだと。
登場人物の誰もが興味深い人ばかり。大げさにデフォルメこそされているけど、普遍的な人物たちなので、感情移入しやすい。ステレオタイプな部品的なキャラクターは出てこない。
小泉今日子さん演じる、佐江内さんの鬼嫁が気になる。この人、家事は一切やらないで夫にやらせてる。1日15時間寝てるっていうから、体調の悪い人なのかしらと思っていた。でもママ友付き合いが頻繁で、子どもたちから絶大なる信頼を受けている。これはドラマで描かれていないところで、ものすごい努力をしているのではないだろうか。「ご近所の我が家の評判は私が守っている。だからあんたが安心して働いてられるのだ」という自負があるのだろう。
佐江内さんのことだから、理不尽な休日出勤や残業にも「まあ仕方がない」とか言って、従順にしたがっちゃうんだろう。そこで奥さんが、「ちょっと待て。これはお前の今もらってる給料に見合う仕事なのか? 無駄に搾取されてるだけじゃないのか?」と問いかけているようにも感じる。優しいだけじゃダメなんだよと。
こうなるとこの鬼嫁は、かなりの策士だ。もし旦那がバリバリに仕事ができる人でも、きっと切り盛りできる器の人なのだろう。そりゃ疲れて家事もできなくなる。
今の日本の経済状況は、給料が安く物価や税金が高い。本来なら自分の身を守るための社会保険や厚生年金や納税で、身を滅ぼしてしまいそう。専業主婦なんて贅沢。子どもがいるなら養育費教育費がかさむ。夫婦共働きじゃないとやってけない。でも社会はまだ昭和の専業主婦時代からシフトチェンジできてない。地域や学校行事に親の援助は200%求められる。政治家たちは主婦も働けと言うが、いまはまだ働く土壌づくりすらされていない。
「パパがつくるご飯はマズイ!」「パパ、弁当つくるのはいいけど、ちゃんと皿洗っとけ。台所が臭い!」「パパ、なんで起こしてくれなかったの!」「パパ、ジャージどこ⁉︎」
パパの佐江内さんが言われてると気の毒にみえてしまうが、これらは世のママたちが毎日言われていること。仕事をしているママや、シングルマザーは、毎日仕事と家事を両立している。実はママたちの直接経済に関わらないところでの仕事ぶりが、このドラマを通してみえてくる。
佐江内家の奥さんが鬼嫁化するのも、実は夫の佐江内さんにも問題がある。あまりに奥さんを好き過ぎて、デレデレしてMになってる。そりゃ相手のドS心に火に油でしょ? 家族に虐げられてもやっぱり家族が大好きな佐江内さん。普段はイジメてでも、やっぱりパパが好きな家族たち。
勝ち組負け組とかイヤな言葉があるが、冴えないけど佐江内さんは勝ち組にあたる。結局勝ってもこの程度。そんなささやかな生活が当たり前じゃなくなった現代日本って、どおなのよ?
イクメンだとかイケダンだとかよく聞くけど、いまどき家事もしないダンナなんているのだろうか? 昔は男は家事などやらないものだったらしいが、現代だとそれではかなりダサい男に思えてしまう。でも仕事と家事の板挟みになって、身体を壊す人もでてきてるらしいから、イクメン&イケダンもほどほどにしないと。
自分も普段からあんまり帰宅時間は遅くならないよう心がけてるけど、このドラマをみたら、なおのことそれが間違いじゃなかったのだと確信した。外出したら、用事は早々に切り上げて、せめて子どもたちが寝てしまう前に家に帰らなきゃと思わせるドラマだった。
関連記事
-
-
『真田丸』 歴史の隙間にある笑い
NHK大河ドラマは近年不評で、視聴率も低迷と言われていた。自分も日曜の夜は大河ドラマを観ると
-
-
『プライドと偏見』 あのとき君は若かった
これまでに何度も映像化されているジェーン・オースティンの小説の映画化『プライドと偏見』。以前
-
-
『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由
三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題に上がる。公開時はもちろんだが
-
-
『湯殿山麓呪い村』即身仏、ホントになりたいの?
先日テレビを観ていたら、湯殿山の即身仏の特集をしていた。即身仏というのは僧侶が死
-
-
『死ぬってどういうことですか?』 寂聴さんとホリエモンの対談 水と油と思いきや
尊敬する瀬戸内寂聴さんと、 自分はちょっとニガテな ホリエモンこと堀江貴文さんの対談集
-
-
『母と暮せば』Requiem to NAGASAKI
残り少ない2015年は、戦後70年の節目の年。山田洋次監督はどうしても本年中にこ
-
-
『イニシェリン島の精霊』 人間関係の適切な距離感とは?
『イニシェリン島の精霊』という映画が、自分のSNSで話題になっていた。中年男性の友人同士、突
-
-
『君たちはどう生きるか』 狂気のエンディングノート
※このブログはネタバレを含みます。 ジャン=リュック・ゴダール、大林宣彦、松本零士、大
-
-
『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』夢を現実にした最低で最高の男
芸能界は怖いところだよ。よく聞く言葉。 本書は『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーで、実質的な生みの
-
-
『あさが来た』 はるがきた⁉︎
NHK『連続テレビ小説』の『あさが来た』に遅ればせながらハマってしまった。 放送当初より自分の
- PREV
- 『モアナと伝説の海』 ディズニーは民族も性別も超えて
- NEXT
- 『SING』万人に響く魂(ソウル)!