*

『スーパーサラリーマン佐江内氏』世界よりも家庭を救え‼︎

公開日: : 最終更新日:2019/06/11 ドラマ,

日テレの連続ドラマ『スーパーサラリーマン佐江内氏』の番宣予告をはじめて観たとき、スーパーマン姿の堤真一さんの姿に一瞬にして心惹かれた。原作は藤子・F・不二雄氏というのも興味深かった。でも連ドラを追っかけて観るのは面倒だな〜と、そのまま忘れていた。ふと、この番組が面白いと人に勧められ、あと一回で最終回にも関わらず観てみたら、面白いのなんの!

物語も後半にさしかかっているのに、なにひとつ問題なく設定やストーリーが理解できた。ひと目でウチの子たちも食いついたし、家族全員で楽しめる、ユルいけど情報の濃いコメディ作品だ。いつの間にかウチではオンデマンドで全話レンタルしており、我が家のテレビがついているときは、常に『佐江内さん』のヘビーローテション状態となっている。

主人公の佐江内さんは名前の通り、正直だけが取り柄の、冴えない中年サラリーマン。家には家事を一切放棄した鬼嫁と、それに結託した子どもたち。会社では万年係長で、上司からはいいようにこき使われ、部下からはナメられてる。そんな中、謎の老人からスーパーマンに変身できるスーツをもらい、サラリーマンとスーパーマンを両立させる日々となる!

作品の雰囲気やキャストが『勇者ヨシヒコ』っぽいなと思っていたら、福田雄一監督作品じゃないの! そりゃ笑えるに決まってる。

原作は70年代に書かれたものなのに、時代は巡ってとても現代的なテーマ。ハリウッドでのスーパーヒーロー・ブームに乗っかって、タイトルバックはマーベルのそれに似せてる。スーパーマンという、世界を守る一大使命を背負いながら、日常生活との折り合いに苦労する主人公。このドラマは、あえてスケールの小さな方を狙ってるけど、実はアメコミのテーマもまったく同じ方向性。世界の平和を背負っていたって、毎日の生活がある。日常をキープすることができずに、人のために働くなんて、それだけだとただの現実逃避。佐江内さんが鬼嫁に言われる。「世界の前に家庭を守れ!」

佐江内さんは、世界や家庭を守っていかなければならない責任に絶えず苦しんでる。でも人は、誰かに必要とされていることを自覚して、はじめてアイデンティティを保ってられる。佐江内さんを苦しめる「責任」は、その反面で彼自身を守っている。

一億総鬱社会へ向かいつつある現代日本。笑いながらもシビアなテーマを突いてくる。実はかなり品がいいコメディ。昇進のしがらみやら舅姑問題やら、スーパーマン以外はかなり現実的な題材なのも面白い。要するにスーパーマンもメタファーのひとつなのだと。

登場人物の誰もが興味深い人ばかり。大げさにデフォルメこそされているけど、普遍的な人物たちなので、感情移入しやすい。ステレオタイプな部品的なキャラクターは出てこない。

小泉今日子さん演じる、佐江内さんの鬼嫁が気になる。この人、家事は一切やらないで夫にやらせてる。1日15時間寝てるっていうから、体調の悪い人なのかしらと思っていた。でもママ友付き合いが頻繁で、子どもたちから絶大なる信頼を受けている。これはドラマで描かれていないところで、ものすごい努力をしているのではないだろうか。「ご近所の我が家の評判は私が守っている。だからあんたが安心して働いてられるのだ」という自負があるのだろう。

佐江内さんのことだから、理不尽な休日出勤や残業にも「まあ仕方がない」とか言って、従順にしたがっちゃうんだろう。そこで奥さんが、「ちょっと待て。これはお前の今もらってる給料に見合う仕事なのか? 無駄に搾取されてるだけじゃないのか?」と問いかけているようにも感じる。優しいだけじゃダメなんだよと。

こうなるとこの鬼嫁は、かなりの策士だ。もし旦那がバリバリに仕事ができる人でも、きっと切り盛りできる器の人なのだろう。そりゃ疲れて家事もできなくなる。

今の日本の経済状況は、給料が安く物価や税金が高い。本来なら自分の身を守るための社会保険や厚生年金や納税で、身を滅ぼしてしまいそう。専業主婦なんて贅沢。子どもがいるなら養育費教育費がかさむ。夫婦共働きじゃないとやってけない。でも社会はまだ昭和の専業主婦時代からシフトチェンジできてない。地域や学校行事に親の援助は200%求められる。政治家たちは主婦も働けと言うが、いまはまだ働く土壌づくりすらされていない。

「パパがつくるご飯はマズイ!」「パパ、弁当つくるのはいいけど、ちゃんと皿洗っとけ。台所が臭い!」「パパ、なんで起こしてくれなかったの!」「パパ、ジャージどこ⁉︎」

パパの佐江内さんが言われてると気の毒にみえてしまうが、これらは世のママたちが毎日言われていること。仕事をしているママや、シングルマザーは、毎日仕事と家事を両立している。実はママたちの直接経済に関わらないところでの仕事ぶりが、このドラマを通してみえてくる。

佐江内家の奥さんが鬼嫁化するのも、実は夫の佐江内さんにも問題がある。あまりに奥さんを好き過ぎて、デレデレしてMになってる。そりゃ相手のドS心に火に油でしょ? 家族に虐げられてもやっぱり家族が大好きな佐江内さん。普段はイジメてでも、やっぱりパパが好きな家族たち。

勝ち組負け組とかイヤな言葉があるが、冴えないけど佐江内さんは勝ち組にあたる。結局勝ってもこの程度。そんなささやかな生活が当たり前じゃなくなった現代日本って、どおなのよ?

イクメンだとかイケダンだとかよく聞くけど、いまどき家事もしないダンナなんているのだろうか? 昔は男は家事などやらないものだったらしいが、現代だとそれではかなりダサい男に思えてしまう。でも仕事と家事の板挟みになって、身体を壊す人もでてきてるらしいから、イクメン&イケダンもほどほどにしないと。

自分も普段からあんまり帰宅時間は遅くならないよう心がけてるけど、このドラマをみたら、なおのことそれが間違いじゃなかったのだと確信した。外出したら、用事は早々に切り上げて、せめて子どもたちが寝てしまう前に家に帰らなきゃと思わせるドラマだった。

 

関連記事

『ルックバック』 荒ぶるクリエーター職

自分はアニメの『チェンソーマン』が好きだ。ホラー映画がダメな自分ではあるが、たまたまSNSで

記事を読む

『映像研には手を出すな!』好きなことだけしてたい夢

NHKの深夜アニメ『映像研には手を出すな!』をなぜか観始めてしまった。 実のところなん

記事を読む

『あしたのジョー2』 破滅を背負ってくれた…あいつ

Amazon primeでテレビアニメの『あしたのジョー』と『あしたのジョー2』が配信された

記事を読む

no image

『乾き。』ヌルい日本のサブカル界にカウンターパンチ!!

  賛否両論で話題になってる本作。 自分は迷わず「賛」に一票!! 最近の『ド

記事を読む

『2001年宇宙の旅』 名作とヒット作は別モノ

映画『2001年宇宙の旅』は、スタンリー・キューブリックの代表作であり、映画史に残る名作と語

記事を読む

no image

『君たちはどう生きるか』誇り高く生きるには

  今、吉野源三郎著作の児童文学『君たちはどう生きるか』が話題になっている。

記事を読む

『このサイテーな世界の終わり』 老生か老衰か?

Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『このサイテーな世界の終わり』。BTSのテテがこの作

記事を読む

『日本沈没(1973年)』 そして第2部が始まる

ゴールデンウィークの真っ只中、twitterのトレンドワードに『日本沈没』があがった。NHK

記事を読む

『アンという名の少女』 戦慄の赤毛のアン

NetflixとカナダCBCで制作されたドラマシリーズ『アンという名の少女』が、NHKで放送

記事を読む

no image

『沈まぬ太陽』悪を成敗するのは誰?

  よくもまあ日本でここまで実際にあった出来事や企業をモデルにして、作品として成立させたな~と

記事を読む

『落下の解剖学』 白黒つけたその後で

フランス映画の『落下の解剖学』が話題となった。一般の映画ファン

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 僕だけが知らない

『エヴァンゲリオン』の新劇場版シリーズが完結してしばらく経つ。

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

→もっと見る

PAGE TOP ↑