*

『沈まぬ太陽』悪を成敗するのは誰?

公開日: : 最終更新日:2019/06/13 映画:サ行,

 

よくもまあ日本でここまで実際にあった出来事や企業をモデルにして、作品として成立させたな~と感心してしまう。小説だけならまだしも、商業映画として劇場公開させてしまうとは、ハリウッド映画のようでとても良いことだ。原作者の山崎豊子氏といえば『白い巨頭』や『華麗なる一族』、『不毛地帯』など社会派の作風、しかも実際にある企業等の不正を作品で告発するような過激なスタイルで有名。こういった娯楽作品が登場するというのはとても良いこと。作品を通して読者や視聴者が、いまそこにある社会問題を考えるきっかけを与えてくれる。日本は自主規制もあり、なかなかこういった作品はうやむやにされてしまう。しかしながら3.11以降の日本は、いままでまかり遠ていた企業や行政の不正行為が、どんどん明るみにされていっている。山崎豊子作品の告発は本当だったのだと実感される日々。

この『沈まぬ太陽』の映画版は三時間以上ある上映時間という、今時の日本映画ではクレージーな企画。原作の意図を崩さないように映像化されているが、御巣鷹山の日航機墜落事故も描いているので、たてまえ上フィクションとしていてもどこの企業の話なのかはすぐ推測できる。

ここでは労働組合員が企業にとっていきすぎた交渉をしたばかりに、目を付けられ左遷され人生も狂ってしまうという物語。この原作の頃にはなかったブラック企業という概念。企業の不正によって苦しめられた労働者が、労働監督署へ行ったり、労働組合として活動をしたりすることをよく勧められるだろう。労働者として権利を主張するのは当然のことと。そりゃ理屈はそうだろうが、そうやって企業にたてついて、またその企業で働いていくというのはやはり矛盾が伴う。仮に権利を勝ち取っても企業側からは厄介者としていじめられるのはあたりまえ。そもそも不正行為をする会社でまた働こうというのが、自分はいつもよく理解できないでいる。闘うなら刺し違える危険性はあたりまえ。そんな企業ならさっさと去るべきでは?と思うのだが……。

以前は不正をしていても力のある企業や行政は大手を振っていられた。最近ではそのツケが以前よりハッキリ出てくるようになってきたのかも知れない。日航機墜落事故も企業の不正行為のひとつの象徴だろう。こういった不正を許してしまうと、一般の関係のない人が犠牲になる。国民一人ひとりが力のある者を監視することを忘れてはならないのだろう。

悪いことも良いことも、他にしたことはいずれ自分に戻ってくるもの。まさに「天を仰いで唾する」者は、その報いは己に降り掛かる。今までは長いものには巻かれるしかない一個人だったが、不正を行うところとは早々に縁を切るのも大事なこと。わざわざそんなものと闘ってエネルギーを使うより、新しい道を探した方が利口に思えるし、より豊かな人生を送れるのではないだろうか。不正を起こすところは自滅する、そのとばっちりを受けないためにも逃げるが勝ち。自分がわざわざ不正を成敗するまでもなく、自然と悪は淘汰されるものであると信じたい。

関連記事

『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 』  若手女流監督で人生の機微が!

言わずもがな子ども達に人気の『ドラえもん』映画作品。 『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団

記事を読む

『SHOAH ショア』ホロコースト、それは証言か虚言か?

ホロコーストを調べている身内から借りたクロード・ランズマンのブルーレイ集。ランズマンの代表作

記事を読む

『JUNO ジュノ』 ピンクじゃなくてオレンジな

ジェイソン・ライトマン監督の『JUNO ジュノ』は、エリオット・ペイジがまだエレン・ペイジ名

記事を読む

『君の名前で僕を呼んで』 知性はやさしさにあらわれる

SF超大作『DUNE』の公開も間近なティモシー・シャラメの出世作『君の名前で僕を呼んで』。イ

記事を読む

『ヒミズ』 闇のスパイラルは想像力で打開せよ!

園子温監督作品の評判は、どこへ行っても聞かされる。自分も園子温監督の存在は『ぴあフィルムフェ

記事を読む

『お嬢さん』 無国籍お耽美映画は解放へ向かう

韓国産の作風は、韓流ドラマのような甘ったるいものと、血みどろで殺伐とした映画と極端に分かれて

記事を読む

no image

どこへいった? スプラッターブーム!?『13日の金曜日』

  『13日の金曜日』というとキリストが 処刑された日として、キリスト教徒からは

記事を読む

『スパイダーマン ホームカミング』 ハイテク・スパイディは企業を超えて

 スパイダーマンがマーベル・シネマティック・ユニバースに本格的に参戦した単独作『スパイダーマ

記事を読む

no image

『それでもボクはやってない』隠そうとしてもでてくるのが個性

  満員電車で痴漢と疑われた男性が、駅のホームから飛び降りて逃走するというニュースが

記事を読む

『鬼滅の刃』親公認!道徳的な残虐マンガ‼︎

いま、巷の小学生の間で流行っているメディアミックス作品『鬼滅の刃』。我が家では年頃の子どもが

記事を読む

『ブラッシュアップライフ』 人生やり直すのめんどくさい

2025年1月から始まったバカリズムさん脚本のドラマ『ホットス

『枯れ葉』 無表情で生きていく

アキ・カウリスマキ監督の『枯れ葉』。この映画は日本公開されてだ

『エイリアン ロムルス』 続編というお祭り

自分はSFが大好き。『エイリアン』シリーズは、小学生のころから

『憐れみの3章』 考察しない勇気

お正月休みでまとまった時間ができたので、長尺の映画でも観てみよ

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』 あらかじめ出会わない人たち

毎年年末になるとSNSでは、今年のマイ・ベスト10映画を多くの

→もっと見る

PAGE TOP ↑