『沈まぬ太陽』悪を成敗するのは誰?
よくもまあ日本でここまで実際にあった出来事や企業をモデルにして、作品として成立させたな~と感心してしまう。小説だけならまだしも、商業映画として劇場公開させてしまうとは、ハリウッド映画のようでとても良いことだ。原作者の山崎豊子氏といえば『白い巨頭』や『華麗なる一族』、『不毛地帯』など社会派の作風、しかも実際にある企業等の不正を作品で告発するような過激なスタイルで有名。こういった娯楽作品が登場するというのはとても良いこと。作品を通して読者や視聴者が、いまそこにある社会問題を考えるきっかけを与えてくれる。日本は自主規制もあり、なかなかこういった作品はうやむやにされてしまう。しかしながら3.11以降の日本は、いままでまかり遠ていた企業や行政の不正行為が、どんどん明るみにされていっている。山崎豊子作品の告発は本当だったのだと実感される日々。
この『沈まぬ太陽』の映画版は三時間以上ある上映時間という、今時の日本映画ではクレージーな企画。原作の意図を崩さないように映像化されているが、御巣鷹山の日航機墜落事故も描いているので、たてまえ上フィクションとしていてもどこの企業の話なのかはすぐ推測できる。
ここでは労働組合員が企業にとっていきすぎた交渉をしたばかりに、目を付けられ左遷され人生も狂ってしまうという物語。この原作の頃にはなかったブラック企業という概念。企業の不正によって苦しめられた労働者が、労働監督署へ行ったり、労働組合として活動をしたりすることをよく勧められるだろう。労働者として権利を主張するのは当然のことと。そりゃ理屈はそうだろうが、そうやって企業にたてついて、またその企業で働いていくというのはやはり矛盾が伴う。仮に権利を勝ち取っても企業側からは厄介者としていじめられるのはあたりまえ。そもそも不正行為をする会社でまた働こうというのが、自分はいつもよく理解できないでいる。闘うなら刺し違える危険性はあたりまえ。そんな企業ならさっさと去るべきでは?と思うのだが……。
以前は不正をしていても力のある企業や行政は大手を振っていられた。最近ではそのツケが以前よりハッキリ出てくるようになってきたのかも知れない。日航機墜落事故も企業の不正行為のひとつの象徴だろう。こういった不正を許してしまうと、一般の関係のない人が犠牲になる。国民一人ひとりが力のある者を監視することを忘れてはならないのだろう。
悪いことも良いことも、他にしたことはいずれ自分に戻ってくるもの。まさに「天を仰いで唾する」者は、その報いは己に降り掛かる。今までは長いものには巻かれるしかない一個人だったが、不正を行うところとは早々に縁を切るのも大事なこと。わざわざそんなものと闘ってエネルギーを使うより、新しい道を探した方が利口に思えるし、より豊かな人生を送れるのではないだろうか。不正を起こすところは自滅する、そのとばっちりを受けないためにも逃げるが勝ち。自分がわざわざ不正を成敗するまでもなく、自然と悪は淘汰されるものであると信じたい。
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