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『マイマイ新子と千年の魔法』真のインテリジェンスとは?

公開日: : 最終更新日:2019/06/11 アニメ, 映画:マ行,

 

近年のお気に入り映画に『この世界の片隅に』はどうしも外せない。自分は最近の日本の作品はかなり厳選して観るようになった。この映画だけは何か感ずるものがあり、公開初日に観に行ってしまった。当日の劇場はまだガラガラ。まさかその後これほどの話題作になるとは!

『この世界の片隅に』の片渕須直監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』を遡って観てみる。自分はこの映画の公開時もひそやかに話題になっているのは知っていた。でもあまりに地味そうだったのでスルーしていた。

見逃した理由には、キャラクターデザインにもある。スタジオジブリや、さらにその昔の日本アニメーション『世界名作劇場』のタッチなのに、それらのスタジオの作品ではない。製作のスタジオのマッドハウスといえば、サブカルのトンがった作風がすぐ浮かぶ。偽善的な子どもだまし映画と思ってしまった。頭の固い誰かさんが、「ジブリじゃないと売れない!」とでも言ったのかな?

『マイマイ新子と千年の魔法』は、地味だけど誠実な映画。「文部科学省選定(家庭向き)」となっていた。自分は子どもたちと一緒に鑑賞したが、やっぱりこの映画は大人向け。大人が郷愁に浸る切なさがある。その感情はリアルタイムの子どもたちには関係ない。

主人公の新子が3年3組で、娘が「自分と同じだ!」と食いついた。映画は昭和30年代の山口県が舞台。うちの子が通う小学校はマンモス校なので、少子高齢化の現在でも学年3クラスもある。新子はまさに高度成長期の団塊世代。自分らの親世代だ。

新子はおてんばで想像力豊かな女の子。昭和の田舎が舞台だと、どうしても泥臭い登場人物を想像しがちだが、さにあらず。

新子のお母さんが興味深い。昭和のお母さんといえば『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』、『ドラえもん』ののび太のママのようなイメージだが、新子のお母さんはなんだか天然系のホワンとした、現代的なかわいらしい人。演じてる本上まなみさんの影響か、もう時代物なのや、アニメ作品なのかを飛び越してしまった。このお母さん、昭和30年代にアラサーだから、『この世界の片隅に』のすずさんと同年代だ。

新子の他の家族も興味深い。おじいちゃんは村の生き字引的存在。新子が想像力豊かなのはおじいちゃんゆずり。お父さんもちょっとしか登場しないが、職業は学者らしい。

都会から引っ越してきた、医者の娘のきいことの友情が縦軸で描かれる。母親を亡くしたばかりのきいこは、仕事で忙しい父親のせいで、ほとんど一人寂しく暮らしてる。でもちょこっと出てくる彼女の父親は、とても良い人にみえる。子どもに寂しい思いをさせているからネグレクトというステレオタイプではない。

田舎のお転婆娘と都会育ちのお嬢様と、一見ストレンジャー同士の友情物語のようだが、ふたりが気が合うのは双方ともに育ちが良いからだ。良い意味で「お里が知れてる」。

「勉強ができる奴は嫌な奴ばかりだ」とよく言われがちだが、実のところ勉強ができる人は、性格も良い人が多かったりする。勉強を世間体や学歴、権力を握るための肩書き作りとして親が考えている家では、たとえ勉強ができる子でも、そりゃあ嫌な奴になってしまうけど。

自分は子ども時代は、残念な落ちこぼれな子だった。でもなぜかつきあう友達は、学年でもトップクラスの成績の人ばかり。彼らは物事の道理をわきまえた大人だったので、とてもつきあいやすかった。勉強をやらされているのではなく、自発的に励んでいる。みな口々に「勉強って面白いよ」と言っていた。自分は結局学生時代には、勉強の面白さがみつけられなかった。

新子やきいこの他の友達には、育ちの良い子ばかりではない。親からDVを受けているような子もいるし、貧しい家庭の子もいる。映画はそこには深入りしない。新子たちが分け隔てなくどんな子とも仲良くできるのは、彼女たちの育ちの良さからくる本心の優しさ。

きっと落ちこぼれだった自分とも普通に付き合えた当時の優等生たちは、その寛容さを身につけていたのだろう。インテリジェンスとはかくの如き。

おじいちゃんが新子に教えてくれた。どうやらこの道は千年前からあるらしい。果たして千年前はどんな人が、どんな気持ちでこの道を歩いていたのだろう? 新子の想像は、もう考古学の始まり。親ゆずりの学者の血が騒ぐ。

『この世界の片隅に』での片渕監督の徹底した取材ぶりは、研究熱心な学者の姿そのもの。あの時代のあの状況で、あの人たちはどう感じ、どう生きたか? それを考察していく。

ともして映画監督などのクリエーターには学者タイプとオタクタイプの二種類の人種があつまる。それらは似て非なるもの。

学者タイプは研究熱心。興味のあるものを追求し、新解釈をみつけたりする。時代の流れに敏感だ。何十年も残る名作を作った映画監督たちは、大抵この学者タイプ。新しいスタイルの作風を築いたからこそ、その衝撃は時代や技術を越えて、ウェルメイドとして認められている。

一方オタクタイプもやはり興味のあるものを追求するのには変わりないが、先人がまとめあげたものにぶらさがるだけで、なかなか独自の視点は生まれ難い。どうしても固まった知識に縛られてしまう。映画しか興味のない人が映画づくりに携わる。まるで閉じた世界。今の映画監督は圧倒的にこちらが多数。

どちらのタイプも、映画企画のプレゼンでは、まだ誰も見たことのないものの構想を語ることになる。謂わば絵空事。だから話している内容は、なかなかクレイジーでバカげてる。どうしてもプレゼンが得意な人ばかりが日の目を見てしまう。出資者もプレゼンそのものではなく、人を見る目がないと投資に失敗しかねない。理解を得られずに消えてしまった名作の原石のなんと多いことか。

ものごとを学んでいくと、己の無知さ加減にぶちあたる。自然と周囲に敬意を払えるようになり、相手を思いやる心が育っていく。

世の中はどうしても目先の利益ばかりにとらわれている。研究のうえ、その成果に達するまでにはおそろしいほど時間と労力、根気が必要だ。それを怠り、安易な儲け話を選んでしまうのはとても危険だ。そんなことばかりしていると自滅の道を辿るばかりだ。だからこそ己のインテリジェンスが試される時代なのかもしれない。

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