『ウルトラマン』社会性と同人性
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最終更新日:2019/06/12
映画:ア行
今年はウルトラマンシリーズ誕生の50周年記念とのこと。先日、テレビで特集番組が放送されていた。自分も幼少の頃から小学低学年まで夢中になっていたシリーズだ。小さい頃観ていて、とっくに卒業してしばらく観ていなかったにもかかわらず、結構怪獣の名前も覚えていた。
こんな古いシリーズ、リアルタイムで観ていたオジさん世代しか興味がないだろうと思っていたら、幼稚園児のウチの息子が激しく食いついてきた。
あの怪獣はね、始めは人間だったんだけど、お金のことばかり考えていたら、カネゴンっていう怪獣になっちゃったんだよ。とか、怪獣の名前や設定を説明してあげたら、かなり父として尊敬されてしまった。
イカンイカン、これではオタク街道まっしぐらに育ってしまう!
番組では歴代ウルトラマンを演じた役者さんが勢ぞろい。初期の頃の役者さんがカッコいい! 明らかに日本人のおじいちゃんのルックスではない‼︎ 当時はアメコミや洋画に対する憧れが、このバタくさいルックスの役者さんに反映されているのだろう。
そして2000年代以降からは、アニメの影響もあってか、カワイイお兄さんのルックスの役者さんばかりになっていく。日本のヒーローの流行というか、サブカルチャーの変遷をみるようで興味深い。
ウルトラマンのボディも、初期の日の丸カラーから、最近ではブルーも加わったりしている。役者さんの顔ぶれは、近年になるにつれ日本的になっているのに、ウルトラマン自体は足がどんどん長くなり、欧米化が進んでいる。
番組では、事前のファン投票による、お気に入りのエピソードのカウントダウンがされていた。ユニークなカメラワークだと思ったら、実相寺昭雄監督の作品だったり、のちの押井守監督や庵野秀明監督の作品なんかに大いに影響を与えたルーツをみつけることもできた。
人気のエピソードには、社会批判や政治的な題材を、怪獣になぞらえて描いていたりしている。当時の制作者たちの問題意識がそこにある。シビアなテーマを忍ばせていたりする。
当時はある程度オモチャが売れるようにしていれば、スポンサーはストーリーには口を出さなかった。作り手はウルトラマンと怪獣だけ登場させれば、比較的自由に作品を作れた。制作者たちはたまたま子供向けのウルトラマンのスタッフになったけれど、そもそも映像作家になりたかった人たち。本来、自分たちが作りたかった作品のモチベーションを、今ある仕事に反映させたのだろう。
そもそも怪獣ブームの火付け役でもある『ゴジラ』は、戦争や自然災害のメタファー。そこに一般映画としての衝撃がある。怪獣モノというジャンルがない頃の衝撃。
怪獣モノにある高尚なテーマが、大人になっても、子供向け作品から卒業できない免罪符にしてしまうのは不健康。ウルトラマンはやはり子供向け作品。ストーリーが高尚すぎるのは、制作者たちのエゴでもある。
かつてのウルトラマンの制作者たちは、自分たちは作品を作っているのだという、高い志があったのかもしれない。しかしリアルタイムの子どもだった自分たちには、そんな高尚なテーマが届くはずもない。
映画を作りたかった人たちがウルトラマンを作り、やがては『ウルトラマン』というアイコンに憧れた子どもたちが大人になって、この作品の制作に携わっていく。
怪獣は、重苦しい現実の事象のメタファーではなくなり、単純に「怪獣」というファンタジーの存在となっていく。社会性やら作家性は薄まり、怪獣ファンが喜ぶカッコ良さのみが求められていく。
それによって、作品としては物足りなさがあり、偏った客層に絞られていくのは仕方がない。ただ、今という時代性からして、子ども向け作品で目くじら立てて社会批判をされても、かえってセンスを疑ってしまう。
社会風刺なら、笑いのユーモアが必要。もう怪獣では笑えない。怪獣の存在が、メタファーとして機能しないくらい一般化してしまった。
こんな閉塞感漂う時代だからこそ、子どもたちと一緒に、単純に怪獣でキャアキャア言ってるだけの現実逃避も大切。
SFやファンタジーは風刺があるから面白い。笑えなかったら、がけっぷちすぎて底辺すぎる。笑いのユーモアは、もっとも人間らしい知的な遊びのセンスだ。
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