『007 スペクター』シリアスとギャグの狭間で

評判の良かった『007 スペクター』をやっと観た。
前作『スカイフォール』から監督は続投で映像派のサム・メンデス。007シリーズにアカデミー受賞監督が抜擢されるのも意外だし、なにより同じ監督が二作連続でメガホンをとるのも珍しい。二作目ということもあってか、今回はとても安定した演出。画面ではスゴいことが起こっているのに、サラリと肩を張らずに観れてしまう。果たしてそれがいいのかどうかは趣味が別れるけど、自分はこれくらいラフな方が観やすいかな。
007シリーズが始まった当時は、このキザでクールでゴージャス、平気で人殺しができて、女にモテモテの超肉食系のジェームズ・ボンドは、誰もが憧れるヒーローだった。
時代が変わって、一般の人もなんとなく心理学に詳しくなってしまうと、ここまで新奇探査傾向が強すぎると、この人ビョーキだなと冷静に感じてしまう。『オースティン・パワーズ』なんかでも、さんざおちょくられてしまったので、そのままの演出だとギャグ映画になってしまう。
それを知ってか知らずか、今回のメンデスの演出はコメディセンスも冴えてる。それもマジメな観客や、マニアには不愉快にさせない程度の絶妙なさじ加減。どんなにひどい目にあっても、死なないどころかピンピンしてるボンドに、笑いをとらせる余裕すらある。
そういえばロジャー・ムーアの頃、ジョーズっていうライバルとの闘いのやりとりがコテコテのコントみたいだったっけ。それが許されるなら、ユーモアのセンス、良くなりました。
ホントは人殺しなんてしたくないんだよって、ブルーアイズの哀しい目をした、アヒル口のダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドは結構好き。ここはシリアス色が強まったところ。クレイグ版007は今回が最後と噂されてる。エンドロールに「007 will return」とでていたけど、次は新生ボンドで戻ってくるのかも知れない。
始め、サム・スミスの主題歌が憂いすぎだろうと思ったけど、これくらい向こうで泣いてくれれば、観客のこちらは素直に笑う準備をしてしまう。これは確信犯なのか、天然なのか?
長寿シリーズは熱烈なファンが多いから、独走したら総スカンになるし、冒涜は絶対NG。いままでの作品のオマージュもまじえているようなので、なかなかの手練れの演出。オスカー監督さすがです!
クレイグの007シリーズはすべて連作なのも新鮮。
ベン・ウィショーのQが、理系オタク少年みたいで楽しい。MI6のメンバーが普通に通勤してる生活感も笑えた。案外スキだらけなのね。
ボンドガールも豪華。前半はイタリアのモニカ・ベルッチ、セクシー女優もすっかり熟女になってお久しぶりです。
そして中盤から後半出ずっぱりの、フランスのレア・セドゥがカワイイ! まだあどけない感じだし、他の作品では学生の役をしていたので、23〜24歳くらいかと思ってましたが、もう31だとか。自分はダニエル・クレイグが50歳過ぎてると思っていたので、親子ぐらい歳の離れたカップルでヤラシイな〜と誤解してしまった。クレイグまだ40代なのね。老けてる。哀しみ背負いすぎ!
ダニエル・クレイグとレア・セドゥが高価な身なりで並ぶツーショットがゴージャス過ぎる。あまりにキマリ過ぎで、やっぱり笑えてしまうのは、自分の感性もかなりゆがんでる。
とにかくMI6の仲間たちを背にして、ボンドガールと去ってしまうのなら、ジェームズ・ボンドもやっと帰るべき場所をみつけたのだろうか? それはそれでなによりだが。さて次回はいかに⁉︎
関連記事
-
-
『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』 映画鑑賞という祭り
アニメ版の『鬼滅の刃』がやっと最終段階に入ってきた。コロナ禍のステイホーム時期に、どうやって
-
-
『シェイプ・オブ・ウォーター』懐古趣味は進むよどこまでも
今年2018年のアカデミー賞の主要部門を獲得したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・
-
-
『ドライヴ』 主人公みたいになれない人生
ライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』は、カッコいいから観た方がいいとよく勧められていた。ポ
-
-
『進撃の巨人』 残酷な世界もユーモアで乗り越える
今更ながらアニメ『進撃の巨人』を観始めている。自分はホラー作品が苦手なので、『進撃の巨人』は
-
-
『ツレがうつになりまして。』鬱を身近に認知させた作品
鬱病を特別な人がなる病気ではなく、 誰をもいつなりうるか分からな事を 世間に
-
-
『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ
それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白くて困っている。ディズニープラ
-
-
『デューン/砂の惑星(1984年)』 呪われた作品か失敗作か?
コロナ禍で映画業界は、すっかり先行きが見えなくなってしまった。ハリウッド映画の公開は延期に次
-
-
『葉加瀬太郎』と子どもの習い事
何でも今年は葉加瀬太郎さんのデビュー25周年らしいです。まだ『クライズラー&カンパニー』がそ
-
-
『トーチソング・トリロジー』 ただ幸せになりたいだけなのにね
最近日本でもようやく意識が高まりつつあるジェンダー問題。オリンピック関係者の女性蔑視発言で、
-
-
『おやすみなさいダース・ヴェイダー』SWファンもすっかりパパさ
ジェフリー・ブラウン著『おやすみなさいダース・ヴェイダー』。 スターウォーズの
- PREV
- 『ウルトラマン』社会性と同人性
- NEXT
- 『シン・ゴジラ』まだ日本(映画)も捨てたもんじゃない!
