『光とともに…』誰もが生きやすい世の中になるために
小学生の娘が、学校図書室から借りてきたマンガ『光とともに…』。サブタイトルに『〜自閉症児を抱えて〜』とある通り、自閉症の家族の話。
息子の光くんは自閉症。彼を育てているお母さんの幸子さんが主人公。彼女の目から見る自閉症児の様子や、彼に対する周囲の目、行政の対応などが、物語を通してわかりやすく紹介されていく。否応なく社会派の内容になる。障害児が家族にいる人へのエールであり、そうでない人には理解を与える作品だ。
マンガは漢字にルビも振っていないし、小学生にはちょっと難しい。でも娘は涙しながら読んだとのこと。どうやら『光とともに…』は、学校図書では有名な作品らしい。本には「寄贈」と判がおされている。誰かの「小学生たちにもこの本を読んで欲しい」との願いが伝わる。
現代日本では年々、国民への社会保障が手薄になってきている。障害者年金受給者も減らされていくニュースも最近流れた。日本の社会保障は、健康な健常者ありきで設定されている。ひとたび大病や大事故に遭遇したり、それによって障害者になった場合、それは自己責任となり家族内でなんとかしなければならないとされがちだ。明日、自分や自分の家族が障害者になる可能性は誰にしもある。むしろ何事もなく一生を送れたら、それは奇跡だ。
このマンガの中では、幸子さんが光くんの幼稚園やら小学校を探すとき、実際にその施設へ足を運んで様子を見に行っている。たとえ表向きは障害者を受け入れると謳っていても、実際の現場では障害者の面倒を見れるような状況ではなかったりする。結局、思わぬところで理想的な対応をしてくれたりする。自分の足を使うことの大切さ。
マンガは10年前の作品。2018年現代の日本の状況に、原作者の戸部けいこさんなら何か発言しているのではないかと調べてみる。彼女は2010年にすでに他界され、『光とともに…』も未完のまま終わっているらしい。とても残念だ。
障害者が家族にいるということは、第三者から一目でその家庭の問題が可視化される。幸子さんや光くんに、嫌がらせや心無い言動をする人たちにも、このマンガはスポットを当てていく。障害者に理解を示さない人たちも、それぞれの家庭が表に見えない問題を抱えている。「こっちだって大変なのに、障害者だからって優遇されてずるい!」と、彼ら彼女らは思っている。幸子さんたちが日々どんな苦労をしているかは、他人にはわからない。自己憐憫は、排他的な心につながっていく。
以前、横断歩道待ちをしているとき、同じ列に車椅子の中年男性がいた。ふとその隣にいた事務服を着たきちんとした感じの若い女性が、その車椅子の男性に声を掛けていた。自分はその人たちは知り合いか、もしくは女性が車椅子の男性に何か手伝いをしようと話しかけているものと思い、自分はそのまま歩き出した。女性の言葉が遠くに聞こえた。「あなた本当は歩けるんでしょ? 知ってるわよ」意味がわからず、自分はそのままその場を去ってしまった。
あとで考えると、その女性は車椅子の男性に、「あなたは障害者のフリをして優遇されようとしてる」と詰め寄っていたのではないかと思えてきた。普通に考えて、わざわざ健常者が車椅子使って街歩くわけがない。 もしそうなら、その女性の豊かすぎる負の想像力にびっくりだ。自分の満たされぬ毎日を弱者に向けていく攻撃性。これは緩やかな自殺だ。すぐにこの状況をすぐさま把握できていれば、その車椅子の男性に何かしてあげられたかもしれなかった。まったく理解を超えた発想だ。
ナチスの優生学という考え方がある。障害者は劣勢種だから殲滅してもいいというもの。相模原での養護施設での大量殺害事件の加害者も、この優生学を語っていた。ホロコーストへ向かう危険思想。
『光とともに…』では、光くんと接しているうちに周りの人たちこそが、たくさんの気づきを得ていく。わかっていないようだけど、ちゃんと伝わっている。感じ方や表現の仕方が違うからといって、人としての尊厳が失われてはならない。
マンガ劇中のデータでは、自閉症児の確立は1000人に1人となっている。「自閉症は特別な存在ではない」と、作品は語っている。近年のデータでは99人に1人というものもある。これは自閉症児が増えたのではなく、早期に対応する家族が増えたからだろう。
自閉症児の特徴として、人にはできないような天才的な能力があったりする。光くんも、電車の機種を覚えるのが得意だったり、色彩感覚が優れていたりする。自閉症の遺伝子が、脈々と続く人類から淘汰されなかったことに何某かの意味がありそうだ。
ITで優れたエンジニアには自閉症の人が多いらしい。ITが盛んなシリコンバレーでは、重度の自閉症児が多くて社会問題になっている。自閉症持ちのITエンジニア同士が結婚して、重度の自閉症児が誕生する。自閉の表れは個々まったく違う。担当教師の苦労が伺える。でも、人類が脈々と続く遺伝子情報で眠っていた才能が、現代のIT時代に開花するのだから、人類にいつか必要となる能力と判断していたのだろう。まるでSFのようなロマンだ。
最近テレビで人類の起源の学術番組をやっていた。人類の先祖はホモサピエンスなのだが、同時期にネアンデルタール人がいたという。前者は栄え、後者は絶滅していった。頭脳も体力もネアンデルタールの方が優れていたにもかかわらずに。その生死の境目は生活スタイルにある。ホモサピエンスは群れをなすが、ネアンデルタールは一匹狼。集団で生きると、ふとそのうちの誰かが発明などをする。それを集団で共有することで、集団全体が栄える。ホモサピエンスが武器を使って、チームワークで狩りをするようなる頃、ネアンデルタールは、一人で命がけの肉弾戦で獲物と戦っていた。
協力し合う能力が発展へと導いた。差別や排他的な考え方にパワーを使うのなら、協調し合う方にエネルギーを向けた方が建設的だし、実はラク。どちらも苦労するなら、楽しくなりそうな方を選んだ方がいい。持ちつ持たれつという人間性の副産物で、人類は栄えてきた。
日本では国民の生活をさらに苦しめそうな法案が、日々強行採決されている。社会が良くなるのを待っていたら手遅れになる。先手先手を考えて、自分の足と頭を使って、自分の場所を探そう。自分にフィットする場所なんて自分自身にしかわからない。
幸子さんが光くんの居場所を見つける冒険の旅も困難の連続だった。生きやすい場所はどこかに必ずあるけど、動き出さなきゃ出会えない。待っていたり、我慢したりでは道はついてこないのだから。
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