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『ゲゲゲの女房』本当に怖いマンガとは?

公開日: : 最終更新日:2019/06/10 アニメ, ドラマ, 映画:カ行,

 

水木しげるさんの奥さんである武良布枝さんの自伝エッセイ『ゲゲゲの女房』。NHKの朝ドラでも有名になった作品。最近では『ゲゲゲの鬼太郎』のテレビアニメの新シリーズも始まった。

俄かにウチの子たちも水木サンの妖怪モノのファンとなっている。『妖怪ウォッチ』の「ゲーム的な妖怪」から「神話や風刺の象徴である妖怪」へと子どもたちの想像力を持っていくのは、さほど苦労はしなかった。子どもを食い物にする商魂で描かれた作品と、情念のある作品とどちらが魅力的なのかは、子どもの純粋な視点ならすぐ見抜ける。

武良布枝さんの綴る漫画家水木しげるの物語は、飾ることなくその半生を語っている。いいなと思うのは、当時まだ存命中だった人物のことを語っている本が、日本でも出版されて人気がでたというところ。センセーショナルな暴露本でないのが話題になるのは、健全な感じがする。

布枝さんの手記では、水木サンがまだ売れない漫画家で貧困生活をしていたときでも、案外楽しくやっていたとのこと。むしろ有名になって忙しくなってきてからの方が、水木サンが家庭を顧みなくなり、仕事ばかりの生活になってしまう。妻の布枝さんが仕事の意見を言おうものなら、「お前は家のことだけやってればいい!」と怒り出すようになり、とても寂しかったと言う。

水木サンの言葉に「なまけものになりなさい」という有名なものがある。布枝さんからすれば、「水木ほど忙しく働いていた人はいない」とのこと。水木サンが働き者なのは、仕事がなくなることの怖さを誰よりも知っていたから。でも忙しすぎると、人生でもっとも大切なものも見失ってしまう。豊かな暮らしをするためにがむしゃらに働いて、家庭崩壊してしまうのでは本末転倒。だからこそ「働き者」が「なまけもの」を目指す必要がある。

戦地へ向かう時の水木サンのエピソードで興味深いものがある。水木サンの出征が決まったとき、自分で調べて手相をみたら、生命線が長かったので、「案外助かるかもしれない」と判断した。いざ戦地に向かう船の中で今一度手相を見直したら、生命線が短くなっていた。手相が変わっていたのだ。「こりゃあダメかもしれないな」と水木サンは思ったらしい。そういえばいろんな人から御守りをもらって、かなりの数を持っていた。「こんなにたくさんの神様に願をかけたら、神様同士がケンカしてしまう」と、水木サンは御守りを全部海に捨ててしまったらしい。

布枝さん曰く、「その水木の自分でなんとかしようとする気持ちが、生還へとつながっていったのでは?」と語っている。「人事を尽くして天命を待つ」ではないが、普通、なにかハプニングが起こったときに、まず最初に神頼みなどはしない。その苦難を乗り越えるための創意工夫に尽力するものだ。神に縋るのは、もう自分にはどうしようもないという、半ば諦めの意味もある。戦地に送られる場は、いわば死刑宣告を受けたも同然だが、まだ神に助けを求めない水木サンの姿勢は、諦めではなく、自分でなんとかしなければという強い意思を感じさせる。

テレビドラマ版の『ゲゲゲの女房』は、登場人物はみな偽名で描かれている。原作のエッセイはすべて実名。本にはつげ義春さんや南伸坊さんの名前があがってくる。ドラマを観るとき、このキャラクターのモデルがあの人なのかしら?と推測する楽しさがある。

水木サンの作品を早いうちから認めて、懇意にしてくれた出版社があった。この出版社の名前、なんか最近聞いたぞと思ったら、ヘイト本などで有名な会社だった。なんでも経営難で、偏った思想本へと方向転換したらしい。いまどこの中小企業も、経営はアップアップ。きれいごとではやっていけない。しかし、偏った思想本を扱うようになったら、難局を乗り越えられてしまうというのはとても不気味だ。

普通の会社のデスクに週刊マンガが平積みにされているのを見ると、そこはブラック会社なのかしらと邪推してしまう。毎日家にいつ帰れるかわからず、休みも自由にとれない。会社に拘束されている時間が多いので、趣味など持てる余裕はない。せめてもの娯楽は週刊マンガを社内で読むこと。これが日々の生活の中で唯一、文化的な行動となる。

そんな無造作に置いてあるマンガ雑誌。誰もが雑誌名を聞いたことあるメジャーなものだが、それをパラパラとめくってみると、その内容にギョッとする。まるでアングラ誌のようだ。性描写もあるが、それより圧倒的に暴力描写の多いこと。犯罪を奨励したり、特定の思想へ扇動しようとしているとも疑わしきものすらある。雑誌の内容は悪意に満ちている。

刺激的な描写がどんどんエスカレートして、こんな風になってしまったのだろう。これを毎週読んでる人は、この異常性に何も感じないのだろうか? 自分なら心が荒んでビョーキになっちゃう。なんだかクラクラしてきた。儲かるなら何をしてもいいというものではない。これが普通のビジネスマンが読む本ならば、それこそ通勤時間の満員電車の怒りの感情を可視化したものかもしれない。

とはいえ自分も、海外のバイオレンス映画は大好きだ。しかし海外作品の反社会的な描写で、ここまで心をささくれ立たせるものはあまりない。暴力描写も、暴力のための暴力表現ではなく、別の意味がちゃんとあり、風刺の道具として使っているものが多い。過激な描写でも、どこかブレーキがかかっている。

アメリカのディズニーやフォックスは右側の会社だが、作風はいたってリベラル。最近ではむしろマイノリティの味方になるような作品や、社会問題に警鐘を鳴らした作品もあったりする。要するに、偏った作風では儲からないのを熟知している。ましてや世界を相手に商売していくなら、万人から認められるように振舞わなければならない。海を渡れる内容を意識する。よく言えば「時流を勉強してる」し、意地悪く言えば「したたか」だ。(まあディズニーの作品は素晴らしいんだけど、商売の仕方はえげつないんだけどね。)

「たかがマンガぐらいで大げさな。面白けりゃいいじゃないか」と言っている人がいちばん、カモネギ状態で狙われてる。それこそ劇映画黎明期の100年前、グリィフィスの『イントレランス』の頃から、娯楽をプロパガンダに利用できないかと、さまざまな国で研究され続いている。

歴史モノのマンガはフィクションなので、作者は面白おかしく物語を創作する。歴史学者が「そんなものは少し調べれば、すぐ嘘だとわかる」と言っていたが、誰もマンガを読んでから自分で調べたりはしない。むしろマンガをすべて真実の歴史だと鵜呑みにしてしまう。歴史改竄の刷り込みなんて簡単なこと。人は自分が知らないことをビジュアルで初めて見せられると、それが真実だと信じてしままう。昨今の日本がメディア・コントロールされているのは周知のこと。疑わしきは近づかないに限る。

水木サンのマンガは、反戦を訴えている作品が多い。妖怪だって、ボロボロになって戦地から戻ってきた帰還兵のメタファーなのだと思う。そんな魂の叫びの作風が、多くの人の心を掴んだのだろう。いま、日本のサブカルはそんなテーマから真逆の方向へ進んでガラパゴス化している。思考停止に向かってどんどん閉じこもっていってる危機感すらある。日本がジョージ・オーウェルの世界へ直行するのは、ちっとも嬉しいことではないけど、どうなのだろう?

 

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