『レディ・バード』先生だって不器用なひとりの人間
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最終更新日:2020/03/01
映画:ラ行
アメリカの独立系制作会社A24の『レディ・バード』。近年、評判のいいインディペンド映画は、みんなA24が絡んでるような気がする。
私は正直いって女学生が主人公の作品が苦手である。それは日本の萌えブームの影響もあるのだろう。その年代がとりわけ特別魅力的に感じる人が多いことに疑問を感じてしまう。大人でもなければ子どもでもない、めんどくさい時期。世の中の興味は、男子学生ではなくて女学生ばかりに注目が集まる。その世代にファンタジーを抱きすぎにも思える。
でもこの『レディ・バード』は、あまりにも評判が良かったので、これは観ておこうと思った。
映画は淡々としていて文学的だ。監督は女流のグレタ・カーウィッグ。主人公の成長を丁寧に描く小説のジャンルを、ビルドゥングスロマンいうが、この映画はまさにそれ。きっとグレタ・ガーウィックの自伝的要素が強いのだろう。
10代の頃に誰もが抱く、「ここではないどこか」へ行ってしまいたいという願望。それもメーテルリンクの『青い鳥』ではないが、探し求めていた「幸せの青い鳥」は、どんなに旅をしても足元にあって、気づいていないだけだなんてことは、思春期の耳には届くはずもない。
シアーシャ・ローナン演じる主人公は、自身を「レディ・バード」と名乗っている。それは本名ではない。映画は、彼女の人生のさまざまな出会いと関わりを描いている。90分強の上映時間に、濃密な人間関係が織り込まれている。
学校やら進学、友だちやら恋愛と、いろいろ彼女を傷つけたり糧にしたりする出来事がてんこ盛り。なかでもいちばん興味深いのは、母と娘の確執。
自分をレディ・バードと名乗るところも、親が名付けた名前を否定しているわけ。母娘の緊張感ある関係を、ここまで掘り下げた視点は、結構新しい。
じゃあレディ・バードのお母さんは、よっぽどの毒親なのかと思いきや、さにあらず。お母さんは心理セラピストとして立派に働いている。彼女はいろんな人の相談にのり、迷える人たちを導き、救っている。レディ・バードとも、恋愛の話を赤裸々にできるくらい知性的。それでもこの母と娘の関係は、ギクシャクしている。
私の友人でも「先生」と呼ばれる職業に就いた人が何人かいる。それらの友人たちは、たくさん勉強して、資格を取ってその仕事を獲得した。その苦労している姿も、リアルタイムで、はたから見ていた。
その友人たちは、私にとっては「先生」ではない。弱いところも持っている等身大の人間であり、純粋に「友だち」のままだ。
映画『レディ・バード』を観ていると、他人には適切なアドバイスができる先生でも、自分の人生を生きていくには、かなり不器用だということ。
私はシナリオ作家養成所に通っていたが、その時の講師の先生などを思い出してしまう。習作の弱点を指摘して、どうしたら面白い作品になるのか適切なアドバイスをしてくれた講師たち。講師達は、さぞかし面白い作品を世に送り出しているのではないかと思えてくる。でも、彼ら彼女らには、これといった代表作がなかったりする。むしろ名作家なら、いまここで講師の仕事をしているはずもない。
ものごとには得手不得手というものがある。実際に表現するのが上手い人もいれば、人に教えるのはめちゃくちゃ上手い人もいる。良いコーチだからといって、良い選手とは限らない。どこかで自分の才能を見極めているクールさがそこにある。
父と子の確執を描く作品は、あまたにある。なんとなく男親はダメダメなイメージで、女親はしっかりしていると固定概念を抱きがち。それも目に見えてダメダメなら、話は単純だが、この映画の母と娘は、かなりきちんとしている。しっかりしてても、問題は起こってくるものだ。
私たちは、小説や映画を通してさまざまな人生をみつめることができる。似たようなことが自分の身に降りかかったとき、読書や映画鑑賞でシミュレーションしていたなら、慌てることも少なくなる。
映画『レディ・バード』は、古典的なビルドゥングスロマンの形式で描かれている。鑑賞後は良質な小説を読んだあとのような気分になる。
グレタ・ガーウィック監督は、ときには自身も女優もこなす才女。知性が表情に表れている。古典小説を思わせる本作。なんでもガーウィック監督の次回作は、オルコットの古典『若草物語』だとか。主演もシアーシャ・ローナンで、この映画のコンビ復活。
『若草物語』は、今年の我が子の読書感想文の課題だったので、一緒に読んだばかり。
シアーシャがジョーの役だろう。エマ・ワトソンが長女のメグで、マーチおばさんはメリル・ストリーブ。フェミニズムの香り漂う。
何度も映像化されている『若草物語』だが、原作のおもしろさがちゃんと描かれている作品は少ない。なんとなく古典の映像化というだけで、ありがたいものになってしまっているのではないだろうか。
『若草物語』のおもしろさは、主人公ジョーが子どもっぽさから抜け出せないところにある。オルコットの自伝的要素の強い『若草物語』を、その原作の匂いをそのまま映像化してくれたら良いのに。
独立系監督のグレタ・ガーウィックが、『若草物語』の何度目かになる映像化という、一大メジャープロジェクトに抜擢されたことに意味がある。おのずから、次の『若草物語』の映画に期待してしまう。
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