『スター・ウォーズ・アイデンティティーズ』 パートナーがいることの失敗
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最終更新日:2022/09/19
映画:サ行
寺田倉庫で開催されている『スターウォーズ・アイデンティティーズ・ザ・エキシビション』という催し物に行ってきた。
『スターウォーズ』シリーズの撮影に使用したコスチュームや大道具小道具を展示している。ファンなら「おお!」となってしまうものばかり。作品はエピソード1〜6までに絞られている。もうすぐ完結編が公開される、エピソード7以降のレイが主人公のシリーズの展示物はほとんどない。
スターウォーズは3話区切りで物語が構成されている。3話ごとに世代が変わる、ひとつの家系の話。エピソード1〜3は、のちにダース・ベイダーになるアナキン・スカイウォーカーが主人公。エピソード4〜6は、その息子のルーク・スカイウォーカーが主人公になる。片やダークサイドに堕ちて悪役となる主人公と、片やライトサイドを貫いて英雄となっていく主人公。
展示会では、撮影に関した展示物と並行して、人生の岐路でどの道を選んでいくか、環境やら性格やらを、この明暗分かれた親子の人生になぞって解説するビデオも流れている。まさに『アイデンティティーズ』とはこのこと。『スターウォーズ』をちょっと知的に、別の角度から分析している。
エピソード1〜3は、制作費もアップして、特撮技術だけでなく、キャストも豪華。名優たちも、「スターウォーズの新作なら」と、こぞって参加したようにも思える。
エピソード4〜6の主人公・ルーク役のマーク・ハミルは、第1作目のときはカッコ良かったけど、シリーズを重ねるごとになんだかおかしくなっていく。交通事故で顔に傷がついたとか言われてるけど、名声を得たせいで、不摂生でもしたんじゃないかな?
で、アナキンとルークの人生。アナキン演じるヘイデン・クリステンセンは誰もが認めるイケメン。ジョージ・ルーカス監督が、アナキンにジェームス・ディーンのイメージを重ねていたらしい。破滅的でカリスマ性のある美青年。
アナキンの妻となり、のちのルークの母となるパドメ役は、ナタリー・ポートマン。もうアニメやマンガみたいな美男美女。なんでもヘイデン・クリステンセンとナタリー・ポートマンは、実際にも付き合っていたとかいないとか。
それにひきかえルーク役のマーク・ハミルは、独り身で自堕落な印象。だから今のシリーズでのルークの扱いは正しい。あのルックスで、伝説の英雄には無理がある。でも、オタク心としては、かつての英雄はいつまでも輝いていてほしいだろうけど。
このエキシビションのビデオでは、『スターウォーズ』の映画の場面から、アナキンとルークそれぞれの人生の転機にどんな選択をしたかを分析している。
ルークは正しい道を選んだけれど、アナキンは悪の魅力に堕ちていく。親子だし、善と悪という極端な方向に向かってしまう心理は、紙一重でそれほど違いを感じない。
ルークは早くから両親を失い、養父母も亡くして、ひとりぼっちになってしまう。選択肢はほとんどない。自分で考え、自然とそこにある道に乗っかっていくしかない。
片やアナキンは、父親こそ不在だけれど、母子家庭でそこそこうまく生活している。わざわざ冒険の道を選ぶ必要もない。母親から離れても、すぐさまパドメというガールフレンドに出会ってしまう。ここが落とし穴。
世の中は「人生のパートナーを早く見つけなさい」と言う。でも、必ずしもそれがプラスになるとは限らない。アナキンはパドメに母親の代行をさせている。
美男美女のカップルは、お互いの容姿に惹かれて合う。実際の生活においては、お互いの長所短所を切磋琢磨していかないと、人生の荒波に飲み込まれてしまう。アナキンはパドメにママのように甘えてる。パドメもそんなアナキンを許してしまう。やがてアナキンは自分で考えることなく、パドメというビッグマザーに依存していく。典型的なダメカップルの成立。
自分で考えることを放棄してしまったアナキン。それにひきかえ、ストイックなルークは、自分一人で考えて行動していかなければならない。子どもっぽいルークの方が、じつは自立している。
ジョージ・ルーカス監督が果たしてそこまで計算して物語の構想を練ったとは到底思えない。ルーカスはオタクだし、恋愛なんて興味がない。それよりもSF的なメカの設定やデザイン、政治的な理屈の方でめいいっぱいだろう。
エピソード1からの三部作が、映像的には豪華でもイマイチ盛り上がらなかったところはそこにある。なんでも最新の三部作では、生みの親のルーカスは、シナリオ会議でも蚊帳の外らしい。
自分で考えて、自分の責任で行動すること。
日本人が最も苦手なことだが、これから10年もしないうちに日本もグローバル化してしまう。引退間近ならまだしも、まだまだ生きていかなければならないのなら、発想の転換をしなければならない。
ちょっと前まで、日本のアニメで「セカイ系」というジャンルがあった。ざっくりした印象は、「キミとボクだけの世界で、他はどうでもいい」という利己的なもの。いまでは日本のアニメそのものの根底に根付いた概念。わざわざジャンル分けすることもない。精神的な鎖国。
スターウォーズというオタク趣味の映画の中で、そのオタク的な生き方を無意識のうちに異議を唱えているところがおもしろい。
パートナーをただつくればいいのではなく、お互い考え乗り越えられる相手を選ばなければ人生の損失になる。まさかスターウォーズでそんな発見ができるとは。エンターテイメントもバカにならないものである。
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