*

『アイ・イン・ザ・スカイ』 ザ・抑止力エンターテイメント

公開日: : 映画:ア行

戦争映画はプロパガンダと紙一重。反戦を謳っている作品と、勇ましい好戦的な作品と一緒くた。そんな危険なエンターテイメントに心惹かれるのは、おじさん臭さなのかもしれない。

ドローンによる遠隔操作の戦争を描いた『アイ・イン・ザ・スカイ』。てっきりアメリカ映画かと思っていたが、イギリス作品。イギリスとアメリカ共同でのテロリスト掃討作戦を、ほぼリアルタイムで描くサスペンス映画。出演もイギリス側のリーダーはヘレン・ミレン、アメリカ側はアラン・リックマンが演じてる。アラン・リックマンはこの映画の出演が遺作となった。名優が揃っている異色のミリタリーもの。知的なアプローチも忘れていない。

この映画の正式な邦題は『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』。サブタイトルが示す通り、ドローンによる遠隔操作で攻撃を仕掛ける戦争がテーマ。テレビゲームをするかのごとく人殺しをする戦争。映画はその非人道的な攻撃の倫理観に寄り添うよりも、ドライにスリリングに作戦進行の姿を描いている。

タイトルの『Eye In the Sky』の名の通り、ドローンで空から監視して、相手に気づかれずに攻撃をする。国家の敵となる存在が、一般市民の生活区域に潜伏していたら、市民も巻き込まれるかもしれない。そこにこの映画のスリルを持っていったところが、娯楽映画としての落としどころ。重いテーマにも関わらず、ハラハラドキドキさせられてしまう。

こうしたキナ臭い国家作戦を娯楽映画として描かれても、当事者はとても楽しめるはずもない。戦争とは無関係の人でなければ、ミリタリー・アクションは娯楽にならない。

映画本編では、ドローン攻撃の正確さだけではなく、虫の形をした小型カメラで、敵が潜んでいる家屋にまで入っていくことができる。数年前までSF映画で描かれていたことが、現代劇で行われている。戦争のためなら技術はどんどん進化していく。

むしろここまでスパイ行為を娯楽映画で暴露していいのかと思ってしまうが、それも意図的なのだろう。「我々には向かうと、最先端技術で攻撃するぞ」と、映画を通して抑止を図ろうとしているのかもしれない。そうなると現実の戦闘技術は、もっと進んでいるかもしれないし、逆にハッタリの部分もあるかもしれない。

とにかく、現実に今も行われているであろう戦争状態を、娯楽映画の表現に落とし込んでしまうところに、イギリスやアメリカの余裕を感じる。

そして観客の我々は、「これは映画なんだ」と、それこそ世界一安全な場所で、他人事としてこの映画を鑑賞してしまっている。そこに怖さがある。抑圧で強引に押さえ込まれたものは、ものすごい勢いで反発を起こすもの。

日々安全だと思っていた生活に、突如アイ・イン・ザ・スカイの攻撃に巻き込まれるかもしれないし、反発の力に飲み込まれるかもしれない。

助けを求める一般市民に、まず先に手を差し伸べてくれたのは、さっきまで敵として登場していたテロリストの一員だったりする。結局誰もが、心のある人間だという皮肉。戦争に善はない。ハラハラドキドキした後に、やるせない気持ちにさせられる映画だった。これは製作者側の意図通りというのも、なんだか憎らしい限り。

関連記事

no image

さよならロビン・ウィリアムズ = ジーニー『アラジン』

  ロビン・ウィリアムズが 8月11日に亡くなったそうです。 彼の作品には名

記事を読む

no image

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』夢を現実にした最低で最高の男

芸能界は怖いところだよ。よく聞く言葉。 本書は『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーで、実質的な生みの

記事を読む

『怒り』 自己責任で世界がよどむ

正直自分は、最近の日本のメジャー映画を侮っていた。その日本の大手映画会社・東宝が製作した映画

記事を読む

『イニシェリン島の精霊』 人間関係の適切な距離感とは?

『イニシェリン島の精霊』という映画が、自分のSNSで話題になっていた。中年男性の友人同士、突

記事を読む

『インターステラー』 いつか神仏の存在も科学で証明されるだろう

SF映画『インターステラー』はヒットはしないだろう。 けれども今後数十年語り継がれる作品に

記事を読む

『エクス・マキナ』 萌えの行方

イギリスの独立系SFスリラー映画『エクス・マキナ』。なんともいえないイヤ〜な後味がする映画。

記事を読む

no image

『王と鳥』パクリじゃなくてインスパイア

  先日テレビで放送された 『ルパン三世・カリオストロの城』(以下『カリ城』)、

記事を読む

『ウォーリー』 これは未来への警笛?

映画『ウォーリー』がウチでは再評価UP! 『アナと雪の女王』を観てから我が家では デ

記事を読む

『1917 命をかけた伝令』 戦争映画は平和だからこそ観れる

コロナ禍の影響で『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開が当初の予定から約一年後の4月に一

記事を読む

『あしたのジョー』は死んだのか?

先日『あしたのジョー』の主人公矢吹丈の ライバル・力石徹役の仲村秀生氏が亡くなりました。

記事を読む

『SHOGUN 将軍』 アイデンティティを超えていけ

それとなしにチラッと観てしまったドラマ『将軍』。思いのほか面白

『アメリカン・フィクション』 高尚に生きたいだけなのに

日本では劇場公開されず、いきなりアマプラ配信となった『アメリカ

『不適切にもほどがある!』 断罪しちゃダメですか?

クドカンこと宮藤官九郎さん脚本によるドラマ『不適切にもほどがあ

『デューン 砂の惑星 PART2』 お山の大将になりたい!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ティモシー・シャラメ主演の『デューン

『マーベルズ』 エンタメ映画のこれから

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の最新作『マーベ

→もっと見る

PAGE TOP ↑