『鎌倉殿の13人』 偉い人には近づくな!
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が面白い。以前の三谷幸喜さん脚本の大河ドラマ『真田丸』は、かなりハマって観ていた。何度も最初から観直していたくらい。『真田丸』は、大河ドラマ定番の戦国時代を舞台にしながら、コメディタッチで描いている。まるでイギリスの宮廷コメディドラマを観るかのよう。意地悪な笑い。登場人物たちの描かれ方が愛らしい。歴史を見れば、その登場人物たちが非業の死を迎えることはわかっている。観客がこんなに好きになってしまった登場人物たちを、死なせたくないとまで思ってしまう。
大河ドラマは、多くの歴史ファンも観ている。下手に歴史を変えた演出ができない。けれども史実に残っていない部分は、いくらでも創作が許される。歴史の隙間に、コメディ要素をしのばせる脚本技術に、毎回感服していた。
『鎌倉殿の13人』が、『真田丸』の三谷幸喜さんの新作なら期待しないわけにはいかない。きっとまた血みどろの歴史の中でも、笑わせてくれるだろうと。
『鎌倉殿の13人』が始まって呆然とした。相変わらずの三谷節の会話の楽しさは健在だが、なんだかややギャグが滑ってる。お茶の間(死語?)で、笑う準備をしていた自分は、拍子抜けしてしまった。何をどう楽しめばいいのかわからない。観客も戸惑っているが、作り手も様子をうかがっているようだ。
物語が陰惨な、内輪揉めの殺し合いになってくる。救いのない凹む内容が毎回重ねられていく。SNSでも「日曜の夜に観るには重すぎる」という声も上がってきた。「うつ大河」とも呼ばれるようになっていく。主人公の北条義時は歴史の勝利者。下剋上を勝ち進んで行くということは、とうぜん周囲を蹴落としている。
従来の大河ドラマの特徴としていつも気になる点がある。どう考えても悪逆非道を行った人物なのに、主人公だからという理由で善人として扱われ、ほとんどを美談として描かれてしまう強引さ。殺し合いの世の中で、清廉潔癖で成り上がることは不自然。『鎌倉殿の13人』はある意味、大河ドラマの禁じ手を駆使している。前作『真田丸』とはまた違った、新しいアプローチ。
仲間内で裏切りや、諜報戦が行われる様子は、あたかもギャング映画のよう。ドラマの前半、大した出来事も起こらず、「このドラマは果たして面白いのだろうか?」と観客をいぶかせたのも、作り手の狙い通りなのかもしれない。登場人物の性格紹介をじっくりして、その後でどんどん死なせていく。ギャング映画での抗争場面では、誰が殺されているのか訳がわからなくなってしまうものだが、このドラマでは1人ずつに感情移入をさせておいてから死なせている。なんともの意地の悪い演出!
梶原善さんが演じる、善児というキャラクターが面白い。手練れの殺し屋。鎌倉幕府の内輪揉めの話なので、昨日の見方は今日の敵になる。善児は主人を変えながら、殺しの仕事を淡々とこなしていく。観客だけが知っているのは、善児に身内を殺されていない者はいないということ。三谷作品での梶原善さんの面白カワイイおじさんみたいな、今までのイメージを覆す。
オープニングで「善児 梶原善」とクレジットされているだけで、不穏な気持ちになる。きっと誰かが殺られる! 誰かが首桶に納められて「つづく」になる。ゾワゾワ、ワクワクしてしまう。『鎌倉殿の13人』で死亡フラグが立ったら、生還はもう不可能。
善児みたいな登場人物は、ネーミングが演者の梶原善さんからもじられているくらいだから、架空の人物だろう。善児の存在は、最初の構想のうちは大したポジションではなかったのかもしれない。視聴者があまりに善児に反応したので、ドラマ上での存在が大きくなっていったのではないだろうか。
SNSがすっかり浸透して、多くの人のリアルタイムの反応がキャッチできる。ドラマ制作スタッフも、リサーチの在り方が変わってきたことだろう。
実は自分はこのドラマはリアルタイムで観ていない。結構凹むし疲れる内容なので、翌日月曜日がしんどくなりそう。なので休日の昼に観ることが多い。録画だけでなく、NHKプラスの配信でも楽しんでいたりする。便利な時代になった。そんなゆっくりの鑑賞だと、SNSでのネタバレ情報をモロに受けてしまう。
番組オンエアの実況中継している人もいる。早い人だと、BSの最速夕方放送でネタバレ感想かましている人もいる。本放送終了後、数時間も経たないうちに、ファンアートが上がってくる。それらを目にして、がっかりするどころか、「早く観たい」と楽しみになってしまう。映画のネタバレと違って、テレビ放送のネタバレには文句を言う人もいない。共有感が楽しさを倍増させる。
大河ドラマは、本格的な歴史ファンや、歴史研究者も注目している。そんなプロやセミプロの歴史家たちの、番組終了後の解釈も楽しい。「この件は諸説あって、三谷さんはあの場合とこの場合の両方を採用して、辻褄が合うように脚色しています」とか聞いてしまうと、なるほどとなる。
大河ドラマはセット撮影がメイン。ドラマで使われているセットは、NHKの過去作品で使ったセットの使い回しや、アレンジだったりする。だから現存している実際の歴史的建造物を見ると、ドラマと違うなと違和感を感じてしまう。自分は関東で暮らしているので、鎌倉は結構近い。話によっては、自分にもゆかりのある場所が舞台だったりもする。番組終了後のミニ紀行コーナーで、知っている場所が出てきたりする。ここで歴史やドラマが補完されて、急に身近になる。そして怖くなる。
『鎌倉殿の13人』は、カッコよく勇ましい武士の姿はあまり描かれない。なんだかロクでもないヤツらの集まりに見える。キャスティングの妙。あの時代だったからこそ、あんな野蛮な政治が行われていたのかと思いたい。でも悲しいかな昨今のニュースで伝わってくるキナ臭さは、時代が変わっても政(まつりごと)は進歩していないと感じざるを得ない。
人権などない時代。殿様の気分次第で、いつ殺されるかわかったものではない。出世を目論んで、偉い人に近づいたはいいけれど、反感を買って謀反人祭り上げられる。本末転倒。こりゃあ欲をかいて、偉い人には近づかない方がよさそうだ。むしろ煽り立てるものには、何某か裏があると慎重になっている方がいい。うまい話などあり得ない。
これもテレビの向こう側のフィクションだと思っているから、エンターテイメントとして楽しめる。ふともしこの時代に自分がいたら、まっさきに殺されてしまいそうだ。大河ドラマは一年に渡る放送。制作途中で放送が始まってしまう。三谷幸喜さんも最近やっと『鎌倉殿の13人』の執筆を脱稿したとのこと。
以前、海外で力を持つ大富豪の下で働いてる人の話を聞いた。大豪邸に住むその大富豪のホームパーティーに行くらしい。でもどうやら招かれたのではなく、給仕として無料奉仕をするらしい。休日を返上してまで、なんでそんなことをするのかよくわからなかった。
権力を目の前にすると、「あわよくば」と欲が出てしまう。大富豪にお近づきになるのはいいいけれど、もし失敗してご機嫌を損ねたら身を滅ぼしかねない。力のある人は、他人から奉仕されることは当たり前と思っている。おべんちゃらがどこまで通じるか。ミスったらたいへん。感情が表に出てしまったら即アウト。なんだかとてもリスキーな挑戦。自分にはムリそう。首チョンパへまっしぐら。
人は権力や富に弱い。でもそんなものは、人生でたまたまオマケでついてくるようなもの。開き直っていたほうがいい。粛々と自身の人生を歩んだ方が、精神的には自由。世の中には誘惑が多い。半分聞いて半分聞き流す。不景気で先が見えない世の中。焦ってしまいがちだが、ふと周りを見る必要もある。自分が辛いなら周囲も辛い。自分だけが助かるような、奇跡の一人抜けは夢物語。甘い誘惑は弱った時こそ聞こえてくる。とにかく偉い人や偉そうな人が近づいてきたら、そっと距離をおいたほうがよさそうだ。
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